2024年6月13日

JFEHD 経営戦略を聞く/北野嘉久社長/利益倍増へ成長重点投資/循環経済に貢献 グループ力を最大発揮

――JFEホールディングスのトップとして「グループの目指す姿」を示し、将来に利益を倍増させ、2030年代半ばに脱炭素に向けた超革新技術の研究開発を完了させるなど目標を明確にした。

「社員には厳しい施策への協力を求めてきたが23年度までに構造改革を完了し、飛躍できる土台を整えた。これから25年度に開始する8次中期経営計画の策定を進め、今年度末に新中計と長期ビジョンを発表する。来るべきカーボンニュートラル(CN)時代を乗り越えるための盤石な基盤をつくり、成長分野・成長地域に攻めの投融資を進め、グループの連結事業利益を倍増させ、企業価値を向上させる。高い目標を掲げ、社員とともに目指す姿に向けて成長を図っていきたい」

――今年度は7次中計の仕上げの年。事業環境は厳しいが、高い収益を予想している。

「7次中計を『創立以来の最大の変革期と捉え、長期の持続的成長のための強靭な経営基盤を確立し、新たなステージに飛躍するための4年間』と位置付け、多くの施策を行った。鉄鋼事業は生産体制の構造改革と『量から質への転換』を軸に取り組み、23年度の(棚卸資産評価差等除く)実力の連結事業利益は2962億円と単独粗鋼生産が2400万トンを割り込む厳しい事業環境の中で高い水準を確保できた。断腸の思いで構造改革に臨み、千葉地区の缶用鋼板の製造を福山地区に集約し、京浜地区の上工程を休止した。一方で鋼材販売価格の改善を進め、高付加価値製品の比率を上げ、外部環境に左右されずに安定収益を得られる体制が整ったとみている。24年度の鉄鋼事業のトン当たり利益は1万1000円と中計の目標(1万円)をクリアし、実力の連結事業利益3350億円と中計目標(3200億円)を上回る見込みだ」

――24年度予想の倍の利益を長期的に目指すが、達成への道筋をどう描く。

「成長分野と成長地域で投資を実行していく。国内は電磁鋼板など成長している分野に注力していく。海外は中国やASEANを中心にインド、北米、中東などにも進出してきたが、市場の成長を考えると今後はインドと北米、インドネシア、さらに中東での成長戦略が重要になる。鉄鋼、エンジニアリング、商社の各事業が国内外で成長への施策に取り組む。さらに京浜地区の土地活用に力を入れる。長期にわたるプロジェクトだが事業を組み立て、第4の収益の柱としていく。企業の成長を支えるGX、DX、人財の3つの戦略を推し進める」

――長期ビジョンに向けて施策を推し進めることになるのはどのような分野か。

「『量から質への転換』により、競争が激しく、収益性のボラティリティーが高い海外市況品に依存しない体質へと変わり、攻めの投資など、成長を軸とする新たなステージへ飛躍する準備は整った。電磁鋼板の生産能力を増強し、大単重厚板の販売も始めており、高付加価値品の比率を24年度に50%に引き上げ、さらに上を目指していく。電磁鋼板は倉敷地区で追加増強を決め、インドでもJSWスチールと方向性電磁鋼板の合弁製造会社を設立した。電気自動車の市場が徐々に広がり、日系自動車が強いハイブリッド車は駆動用モーターだけでなく発電機にも電磁鋼板が使用され、ニーズは増加傾向。世界的に電磁鋼板の需要が増え、生産能力のさらなる増強が必要な状況になれば対応を検討していく。海外投資の観点でいえば、インドはJSWとともに拡大するインドの鉄鋼需要を取り込んでいく。北米では事業パートナーのニューコアと新たな協業を考えたい。JFE商事は北米や豪州での建材加工の買収を成長の足掛かりとし、他の地域でも投資を検討していく」

――グループ力をどう生かしていくか。

「サーキュラーエコノミー社会の実現のためにJFEグループが貢献できることは多い。サーキュラーエコノミーの3つの「R」(リデュース・リユース・リサイクル)のうち、高効率の電磁鋼板や高強度・高耐久性の鋼板は省エネの実現や廃棄物を減らす「リデュース」に貢献する製品である。JFEエンジニアリングの事業である、使用済みPETボトルを原料としてPETボトルを再生するボトルtoボトルは「リユース」、鉄スクラップの利用やJFEエンジの廃棄物発電技術から化学品を造る「リサイクル」事業など多様なサーキュラーエコノミーに資する環境ビジネスを持つ。また、グループ一体での取り組みとしての好例が洋上風力発電のモノパイル工場。JFEスチールが厚板を供給し、JFEエンジがモノパイルを製造し、JFE商事がサプライチェーンを展開する。各事業会社の取り組みをホールディングスが見定め、効果的に投資していく」

「京浜地区の土地活用でも土地の賃貸、売却とともに当社として事業展開していく中でグループ力を生かしていく。事業利用としては新たなCN事業とリサイクル事業を検討する。CN事業は扇島先導エリアでグループ全体で水素・アンモニアなどのサプライチェーンへの事業参画を考え、扇島先導エリアでは水素供給拠点の形成を生かしてJFEスチールの発電所への水素導入によるクリーンな電力の発電・蓄電・売電事業をJFEスチールとJFEエンジで連携して検討する。扇島北地区ではグループ全体でCO2の回収・輸送・貯蔵・液化・出荷事業、CCS・CCUなどを近隣エネルギー企業との連携を図りながら検討する。リサイクル事業として水江地区で首都圏における一大リサイクル拠点として拡張整備したいと考えており、川崎市と考え方の整合を図りながらJFEエンジグループが主体となって検討する。首都圏の防災拠点としての活用案も上がっており、国や川崎市と一体となって進めていきたい」

――GX戦略について。CO2排出削減のトランジション期の大きな取り組みとして倉敷地区の高炉を1基休止し、大型電炉への切り替えを検討している。

「GI基金を活用し、脱炭素化に向け、カーボンリサイクル高炉、直接還元製鉄法、高効率・大型電気炉(革新電炉)の3つの超革新技術開発を複線的に推進しており、そのうち、早期に実装可能な革新電炉を、政府支援を前提として27年度末までに完成したいと考えている。既存電気炉の活用や当社ラボ試験により、理論的には高品質化技術の確立にめどをつけており、高品質グリーン鋼材の大量製造に向けて高効率溶解技術開発を推進している。革新電炉へのプロセス転換は電力需要の大幅な増加をもたらすが、脱炭素電源の活用によってカーボンニュートラルなプロセスになり得る。そのため、安定した脱炭素電源の確保や送電インフラの整備・再構築が必須である。それらのサプライチェーンの整備に加え、国際競争力のある産業用脱炭素電力価格や非化石燃料価格の実現に向け、エネルギー基本計画策定において政府による政策展開を要望している」

――GXの投資はグリーン鋼材の普及がカギとなる。

「グリーン鋼材の価値が認められる市場は依然として未成熟であり、設備投資やオペレーションコストの増加に対応した政府支援策のほか、環境価値が認知され、需要を喚起するための政策が必要不可欠である。加えて公共調達のような優先調達や補助金による調達支援が必要である。多排出産業への排出量取引の義務化のみでは脱炭素投資は進まず、グリーン鋼材使用義務化などの政策とセットでの議論が必要ではないかと考えている」

――DX戦略は事業のあり方を変える。

「ソリューションビジネスの拡大などかなり多岐にわたるが、目下の大きな取り組みは基盤システムの整備だ。製鉄所基幹システムのクラウド化を25年度内に完了させる。製鉄所ごとのホストコンピューターが不要になる。各製鉄所では、昭和40年代から導入してきた古いソフトウエアをカスタマイズして運用してきた。それら既存のソフトを全て翻訳し、クラウドの言語に置き換え、移していく。無駄なソフトを削除し整理することで、これまでにない業務の仕方を築く土壌が整う」

――将来を分ける人財戦略をとりわけ重要視する。

「事業会社ごとに課題・テーマを抽出しており、労働生産性向上のための遠隔化やロボット化、AIの活用などDXを絡めて進める。働き方の改革や福利厚生の整備、賃上げ、人事制度の見直しなど一つ一つ改善し、企業文化を変えていく。働きがい、やりがいを考え、そのためにすべきことを実行し、若い社員が夢を持って挑戦できる企業文化を築いていきたい」(植木 美知也)

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九州現地印刷を開始

九州地区につきましては、東京都内で「日刊産業新聞」を印刷して航空便で配送してまいりましたが、台風・豪雨などの自然災害や航空会社・空港などの事情による欠航が多発し、当日朝に配達できないケースが増えておりました。
 こうした中、「鉄鋼・非鉄業界の健全な発展に寄与する専門紙としての使命を果たす」(企業理念)ことを目的とし、株式会社西日本新聞プロダクツの協力を得て、12月2日付から現地印刷を開始いたしました。これまで九州地区の皆さまには大変ご迷惑をおかけしましたが、当日朝の配達が可能となりました。
 今後も「日刊産業新聞」「日刊産業新聞DIGITAL」「WEB産業新聞」によるタイムリーで有用な情報の発信、専門紙としての機能向上に努めてまいりますので、引き続きご愛顧いただけますよう、お願い申し上げます。
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