2024年6月12日

住友商事鉄鋼グループ新CEOに聞く/犬伏勝也専務執行役員/新中計、攻めの戦略的投資/国内流通機能磨く 北米・印で販売力強化

――全社の営業部門を改編し、新たに9つのグループに再編成した。筆頭セグメントである鉄鋼グループ(G)のCEOとして狙いと抱負を。

「売る商品を軸に組んでいた商品本部制を60年ぶりに変更し、戦略分類別に営業組織を組み替えた。2年間かけて各営業部門の事業を全て洗い出した上で、最終的に44のSBU(ストラテジックビジネスユニット)に分類した。人数や規模ではなく戦略別に分けており、規模感では10人のSBUから400人を超えるSBUも存在している。44のSBUを9つのグループに大分類し、その1つが鉄鋼Gとなっている。鉄鋼Gの構成は既存の事業をベースとしたエネルギー鋼管SBUと鋼材事業SBUに加え、カーボンニュートラル(CN)関連の市場を捉えCO2削減に寄与する素材やサービスの提供と新規事業を開発する鉄鋼GXSBUを新たに組み入れた。歴史と伝統を持つ筆頭セグメントでもあり、必ずや期待と使命に応えていきたい」

――前身となる金属事業部門の純利益は初めて1000億円を超えた22年度(1104億円)から23年度692億円と4割弱減少した。グローバルでの鉄鋼市況の軟調と北米市場の変調が影響したが、新中期経営計画がスタートした24年度は鉄鋼Gとしてどう改善を図っていくか。

「23年度の最大の減益要因は中国経済の変調と北米の鋼管ビジネスの環境変化だが、22年度の北米鋼管価格の高騰が特別な背景であり、その反動と言える。特に北米市場では実需は保たれ、市中在庫や契約残が調整されれば市況が下期に回復するとの前提で当初910億円を計画したが、下期も市況は戻らなかった。北米は石油やガスの生産量自体は落ちなかったが、リグの稼働数が22年平均の約800基から23年に600基程度に落ち込んだ。大統領選挙を見据えてなのか開発業者も稼働リグは増やさず開発への投資を抑えているようだ。地場の鋼管ミルの供給増とともに輸入鋼管が増えるなど市場の変動に振り回されたが、当社では鋼管在庫管理を徹底し、売りと買いがリンクする比率を高め、在庫リスクを抑えている」

「新中計がスタートしたが、鉄鋼Gとして全社への収益貢献を果たしていく。24年度の全社の純利益予想5300億円のうち、鉄鋼Gは890億円を計画している。23年度に厳しい環境の中でも実現した700億円レベルが今の実力と考えており、200億円ほど積み上げる必要があるが、鋼管の市場は昨年より改善すると予想し、新たな試みも加えながら高い水準を目指したい。投資も進め、利益をけん引する事業を増やす。M&Aも当然視野に入れていく」

――住友商事グローバルメタルズ(GM)の機能をどう高めていくか。

「住友商事GMが総合商社の情報力・間口の広さ・ネットワーク・構想力も具備する強い商社になるよう44のSBUとの連携を積極的に促していく」

――成長に不可欠な投資の新中計での予定額と投じる先は。

「前中計は資本の入れ替えを行い、既存ビジネスの改善や在庫の圧縮など資本の効率化に注力したが、新中計では攻めに転じる。投資額といった金額管理ではなく案件候補ごとにしっかり吟味し、勝てるところ、成果につながるところに資金を投じていく。鉄鋼Gとして質の高い投資の案件をできるだけ多く構想し、実現したい。26年度には鉄鋼Gの純利益1000億円の大台を目指したいとの目標があるが、まずは24年度の計画達成に向かう。それには仕事の仕方や意識を変える必要があるが戦略を着実に実行に移し、成長市場で一つ一つ積み上げていく期間となる」

――成長市場の捕捉が重要になる。海外での戦略地域は。

「まず力を注ぐのは、勝ち残らないといけない日本国内だ。主力の薄板を例にとると、事業会社のサミットスチールは全国展開しているが、市場に対して機能を過不足なく提供できているわけではない。当社としては従来以上に市場と需要家と向き合い、またオーナー系の流通とも連携することも視野にサービス機能を徹底的に磨き上げていきたい。オーナー系の方々ともこれまで以上に会話を重ね、一緒に組むことで互いに利益を享受できる仕組みを築いていきたいと思っている」

「海外では中国の経済回復が見通せない中、アセアンも低調が予想され、そうなると北米とインドをしっかり取り組む必要がある。鋼材・鋼管ともに販売力を強化していくとともに機能強化に向けた手を打ちたいと考えている。コイルセンター(CC)を展開しているが需要地をよく精査していくことと自動車に依存せず、バランスのとれた販路を築く。米国では当社は建設機械の分野も強く、またユニークな点は需要家の鉄道会社がCN対策を進める中、日本製鉄との鉄道資機材の製造販売事業、大和工業との軌道資機材製造販売事業があり、それらも基点に新たな絵を描ける可能性がある」

――鉄鋼需要が拡大していくインドはどう展開していくか。

「インドではCC機能は鉄鋼メーカーの機能と整理されている面があり、商社としてのCC事業が難しい市場だ。当社も一時CCをデリー近郊で運営したことがあるが、金型製造・プレスの事業は拡大したものの部品製造の領域に踏み込まざるを得ず、事業そのものを自動車部品メーカーに託すという判断をした経験がある。まずは特殊鋼製造のムカンド・スミ・スペシャルスチールの強化だ。原料立地で特殊鋼を小型高炉で製造しており、川上を生かしつつ川下に販路に広げ、さらに次の一手を考えていきたい」

――CN関連で拡大が見込まれる需要をどう捉えるか。

「鉄鋼GXSBUが旗振り役となり、ケースによっては事業主にもなり、44のSBUをかけ合わせたインフラ作りを進めていく。鉄鋼GXSBUは鉄鋼原料の兼務者もおり、グリーンDRI(直接還元鉄)の製造あるいはその製品扱いも検討、日本の鉄鋼産業全体のCNに貢献していく。CCS、CCUSについても考えていく必要があり、これについては社内のEII(エネルギーイノベーション・イニシアチブ)SBUと共に鉄鋼メーカーや化学メーカーなどと連携した仕組みを構想中で、鉄鋼メーカーとは鉄鋼GXSBUが窓口となって進めている」

――CN関連で需要が拡大する電磁鋼板の取り組みは。

「当社のCCではメキシコの拠点が現時点主体となって電磁鋼板を加工し、米国ユーザー向けに無方向性電磁鋼板を納めている。モンテレイのCCは方向性電磁鋼板も加工している。欧州に広くネットワークを持つパートナー企業と共に域内での電磁鋼板の加工設備の増強を検討している」

――あらためて総合商社として鉄鋼事業を営む強みとは。

「この3年間に部門間で相当議論し、意思疎通を図ってきた。原料が鉄鋼を兼務する、水素事業部に鋼管・鋼材の人材を派遣するなど人的な連携が格段に進み、部門をまたぐ会話力は高いと思っている。鉄鋼のビジネスだけでなく、顧客から相談や提案を受けた時には関係する部署に情報を伝える機能も果たすよう意識している。今、市場から期待されているのは構想の実現力だと心得る。マーケットが重要なのは言うまでもない。地域組織や地域に展開する事業会社の社員は地域代表として活動し、9つの営業グループ全体の目線で市場と対話することを目指している。日本と海外5極(東アジアとアジア・大洋州、中東・アフリカ、欧州、米州)で情報交換を密に行い、他の地域の好例を横展開している」(植木 美知也)

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