――国内外の厳しい需要の中で2023年度に棚卸資産評価差等除く実力ベースの連結事業利益2962億円と高収益を維持した。
「特に下期以降に市場環境が悪化した。中国は不動産不況の低迷が長引き、一方で粗鋼生産の調整が進まず、東南アジア向けなど鋼材輸出が増え、国際需給が緩和した。当社グループの23年度の単独粗鋼生産は2345万トンと前年から65万トン減り、下期は上期比で90万トン程度減少したが、東日本製鉄所京浜地区の上工程を昨年9月に休止し、市場環境の悪化に対して構造改革が間に合ったと言える」
「国内向けの販売価格の改善も実行した。ここ数年、原料価格の変動に合わせた販価への反映タイミングを期間損益の中で可能な限りそろえてきたことが功を奏している。諸物価の上昇分も販価に反映できるようになり、鉄鋼事業の実力の利益は2007億円と前年比2・7倍と大幅な増益となった。構造改革で200億円、操業改善で250億円のプラスとなり、22年度の粗鋼減産影響と千葉地区の高炉改修影響の解消230億円のプラスでコストが合計で680億円改善した。さらに原料高・海外市況安を国内販価改善ではね返し、スプレッドで1280億円のプラスとなった。24年度は厳しい環境が続くが、一定の利益を確保できる体制を確立できたと考えている」
――エンジニアリングと商社の事業も高収益を確保した。
「JFEエンジニアリングは売上収益が2期連続で過去最高となり、利益は前年比1・8倍の243億円と伸ばすことができた。受注高は5630億円と前年より若干減ったが、案件の期ずれによるもので高い水準を維持した。JFE商事は過去最高益651億円を記録した22年度に比べ北米中心にスプレッドが縮小したが、利益は489億円と24年度最終の中期経営計画目標(400億円)を大幅にクリアした。CEMCOに続き今回、米薄板建材大手STUDCОが持つ米国と豪州の傘下2社の買収を決めた。北米、豪州ともに市場の安定的な成長が見込まれ、特に豪州はJFE商事として加工製品の拠点がなく、新たな取り組みとして期待できる。電磁鋼板の加工事業についてJFE商事は中国やカナダ、米国と広く拠点を持つが、EU市場を視野に入れて新たにセルビアに拠点を設立する。セルビアは日本の自動車産業が進出し、地理的に欧州市場を広く捉えるのに有利な位置にある」
――中期経営計画最終年の2024年度は連結事業利益が棚卸資産評価差等除く実力ベースで3350億円と前年から1割強増える予想。そのうち鉄鋼事業は2割増の2400億円で昨年度より目標としていた2600億円とは差異があるが、中計当初目標の2300億円を超える見込みだ。
「中計当初は粗鋼2600万トンを前提としたが需要環境は厳しく、24年度は2340万トン程度と大きく減る見通し。製造・販売など各種改革が進展し、鉄鋼事業の実力の利益目標を2600億円に引き上げたが、輸出環境の悪化から今回、2400億円に修正した。一方で中国は24年の経済成長率5%前後の目標を掲げ、粗鋼生産抑制の政策次第でもあるが、市場環境が改善に向かえば利益の上積みを図ることは可能と考えている」
――低調な需要と原料高の中で収益をどう上げていくか。
「自動車生産は堅調が継続するとみている。建築・土木は人手不足や資材高の影響が続き、大型再開発案件が後ろ倒しされ、各需要分野の動向から粗鋼生産を昨年並みの想定とした。鉄鉱石の価格は中国の状況をみるとさほど大きくは上がらないとみているが、原料炭はインドの粗鋼生産の増加によって価格が上がる可能性がある。鋼材の販価はトータルで海外向けが前年より低くなるが、国内向けは改善する見通し。主原料や物流費・外注費・労務費などを含む諸物価について、引き続きお客様との丁寧な会話を重ね、コスト上昇分の販価への反映に取り組み続ける。鉄鋼事業のスプレッドは諸物価改善含め前年比でプラス50億円を見込んでいる。構造改革効果や操業改善で420億円のコスト削減を図る」
――24年度の重点テーマは。
「鉄鋼業はこれまでボラティリティが大きく利益や配当が安定せず、株主から厳しい評価を受けることもあった。24年度もしっかりと利益を上げ、構造改革の実行によって高い利益を得られる体質を築いたことを示すことが大事と考えている。再生産可能、かつ価値に見合った価格で販売し、実力のトン当たり利益1万1000円を確保する。高付加価値品比率は23年度に自動車用鋼板の拡販などで48%(22年度47%)と着実に上がっている。24年度は中計目標の50%達成に向かい、大きな要素は倉敷地区の新たな電磁鋼板製造ラインの立ち上げだ。倉敷地区で製造を始めた大単重厚板『J―TerraPlate(ジェイテラプレート)』は昨年に洋上風力発電プロジェクト向けに受注し、初採用となった。海外からの引き合いが増えており、国内外の需要家に向けて拡販を進める。グリーン鋼材の価値について適切な価格を需要家に認識していただき、販売量を増やしていくことも重要。カーボンニュートラルについては主な3つのテーマとして大型電炉による高級鋼製造、カーボンリサイクル(CR)高炉、水素還元製鉄の研究開発に取り組む。24年度は千葉地区にそれぞれ試験炉を建設して実証試験を行い、研究開発の成果を出していく」
――新たな事業の柱とするソリューションビジネス「JFEResolus(レゾラス)」を新ブランドとして立ち上げた。
「中期計画の課題の一つとして24年度にソリューションビジネスで100億円規模の利益貢献を目指している。これまでも海外の事業パートナー中心にソリューション技術を提供しているが、23年度には、日本IBMと共同で開発した故障復旧支援システム『ジェイ・マイスターJ―mAISter』の販売を開始し、日立製作所とも共同で操業支援コンサルティングと冷間圧延自動形状制御システムを組み合わせたソリューションを国内外の鉄鋼業に向けて販売を始めるなど事業の柱として規模を大きくしていく」
――成長市場の北米とインドの事業をどう強化していくか。
「今後も成長が見込まれる北米では、事業パートナーのニューコアと高級鋼の製造で新たな協力を考えていきたい。ニューコアは米CSIに当社と共同出資し、建材マーケット向けに新亜鉛めっき鋼板製造ラインを導入して25年の稼働開始を予定している。メキシコでも自動車用鋼板製造のNJSMをニューコアと合弁で運営し、営業生産に入っている。インドはJSWスチールと方向性電磁鋼板の合弁会社を設立し、さらなる協業を考えていく。東南アジアや中東も有望な市場であり、CNの取り組みを含めて投資の検討を進める。日本で電磁鋼板の能力増強を進めているが、今後の能力増強は国内に限らず検討していく」
――利益倍増を目指す方針を5月に発表した。25年度開始の新中期計画を作り上げる年でもあり、どのような姿を描いていくのか。
「カーボンニュートラル実現に向け大型の設備投資が必要となるが、現在の利益水準では不十分である。必要な設備投資を実施していく上で現状の2倍の利益を目指したいと考え、3―5年間のスパンでは難しいが、近い将来に実現したいと考えている。そのために『量から質への転換』を加速し、成長する分野・地域への攻めの投融資を実行していく。鉄鋼、エンジ、商社の事業の3本柱の強化に加え、京浜地区の土地活用を4本目の柱に育てていく。『土地売却、土地賃貸、事業利用』の中で考え、現在は扇町の土地売却と水江エリアのリサイクル拠点としての事業利用、南渡田北地区北側エリアについては事業パートナーのヒューリックと研究開発機能を中心としたまちづくりに取り組むことを決めている。広大な土地の最適な活用を考え、利益に結びつけていく」(植木 美知也)