タイのローカルスクラップ業者のアンプラッパスチール(本社=サムットサーコーン県、アンプラッパポーチャイ・チャドヒン社長)は2003年に設立し、今年で21年目を迎える。工場発生の鉄スクラップの取り扱いを強みに現地の鉄鋼生産を支えており、鉄スクラップ以外にもステンレスや非鉄スクラップ、さらには中古鋼材の販売も手掛け、事業の幅を広げている。このほど本社ヤードを見学した。
バンコク市内から車で西に1時間弱。本社があるサムットサーコーン県はバンコクと隣接する市街地で、南側は海に面しエビの養殖や塩田も有名だ。道中は、地下鉄や道路の延伸工事が至る所で行われており、ビルやマンション、店舗などの開発も進み、バンコクの大都会の雰囲気が徐々に近隣県にも拡大していっているような印象を受けた。
同社は、本社ヤードのほかピントン支店(チョンブリ県)と最大の敷地を有するクロックソンブン支店(プラチンブリー県、8万平方メートル)の3拠点を展開し、扱い量は全社で月1万―2万トン。本社ヤード単体で7000トンある。
品種は鉄スクラップがメインで、それぞれの拠点が工業団地に隣接していることもあり、扱い量の9割が家電メーカーや自動車メーカーなどからの工場発生品となっている。自社のバッカンを発生工場に置き、それらを回収し、社内で加工した後、国内の誘導炉メーカーや鋳造メーカーに供給している。
本社ヤードは敷地面積3万1000平方メートルを有し、置き場や作業場は全て屋根付き。場内には新断やヘビー、鋳造や解体関連のスクラップ、ダライ粉、錫めっきなど多種多様なスクラップが品種ごとにきれいに積み上げられ、工場発生が大半ということもありスクラップ自体も大変きれいだ。傍らでは現場作業者がアリゲーターシャーを使って手作業で細かく加工する様子もあった。
作業者はタイ人のほか、近隣のラオスやミャンマーからの出稼ぎ労働者が多く、日当は300―400バーツ(1200―1600円)。同社の売り先のニーズやスクラップの品種に応じてギロチンシャーやアリゲーターシャーなどを活用して加工していく。手作業も多いためか、日本のスクラップ業者に比べて現場作業者が多い印象を受けた。
タイは、国内発生するスクラップだけでは内需を賄えないため、総需要量の2割を輸入に依存しているが、一方で近年は、脱炭素や新興国でのスクラップ需要の拡大を受け、輸出する業者が増えており、鉄鋼メーカーの中には輸出禁止や輸出量の制限などを求める声もある。
足元のスクラップ発生は、景気低迷でおおむね全分野にわたって発生が減っており、同業他社との集荷競争も激しく、品薄感が強いそうだ。「新たな仕入れソースの獲得や拡大が課題。経営の安定化を図るためにも鉄以外の品種拡充などに積極的に取り組んでいきたい」(アンプラッパポーチャイ・チャヤポーン副社長)。【サムットサーコーン=石橋栄作】
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