2024年4月11日

工場ルポ/タイ電炉ミルコン・ブラパ工場/ウェイストテックの破砕加工強み/輸入ELV処理に対応

タイの大手電炉メーカー・ミルコンスチール。ELV(使用済み自動車)のシュレッダー加工から製鋼圧延まで一貫体制で異形棒鋼や丸棒などを生産するほか、神戸製鋼との合弁会社・コベルコミルコンスチールで線材分野の川上事業を協業するなどさまざまな分野でタイの経済成長を支えている。このほど大阪金属リサイクル工業協同組合(理事長=多屋貞一・伸生スクラップ社長)が6年ぶりに開催した海外視察に同行し、同社のブラパ工場(ラヨーン県)と同工場内に位置するシュレッダープラントのウェイストテックを見学した。

バンコク市内から車で南東に200キロメートル。市内の通勤ラッシュを抜け、田園風景を眺めながら高速道路を走ること2時間半。国道36号から少し奥に入ると同社の建屋が見えてくる。敷地面積は22万2000平方メートルと甲子園球場の約6個分の広大な敷地を有し、その中にブラパ工場とウェイストテックがある。

現地到着後、事務所でミルコンスチールのプラビットCEOとウェイストテックのスパモンコンCOOから事業の概要や現状の説明を受けた後、見学用の車に乗り込み、場内に向かった。

ウェイストテックのエリアで、まず目を引いたのが広大な原料置き場とカープレス(別称=カーバンドル)の山、山、山。ここで処理するカープレスは、主に韓国やオーストラリアから輸入しており、西に60キロメートル離れたタイの主要貿易港・レムチャバン港でコンテナを荷揚げし運んでくる。

タイは、自動車が廃車される前に中古車としてラオスやミャンマーに輸出されるケースが大半で、日本のようなリサイクルフローが確立されていない。このためカープレスの市中発生がなく、全量を輸入で賄っている。

シュレッダーエリアはオープンヤードで、プレシュレッダー1基と3000馬力のメインシュレッダー1基、各種選別装置などが整然と並ぶ。大きな重機がカープレスを次々とプレシュレッダーに投入し、ほぐしたものを別の重機が併設するメインシュレッダーへと運んでいく。設備の背景に広がる巨大な敷地と相まって非常にダイナミックだ。

メインシュレッダーからは銀色をした鉄スクラップが次々と排出され、山になっていく。破砕や選別のノウハウがしっかり蓄積されており、カープレスの見た目に反して仕上がりはとても美しい。シュレッダー能力は月2万5000―3万トンあるが、足元は製品需要の低迷もあり月1万トン程度を推移している。

ブラパ工場に足を運ぶと、背の高い建屋が多く立ち並び、暗闇の奥に電気炉が見えた。タイは、電気代が東南アジアの中で一番高いと言われ、日本同様に夜間操業が主体のため日中は操業していない。

同工場は、伊ダニエリ社の75トン電気炉1基をはじめ、4ストランドの連蔵鋳造圧延機などの一連の設備を完備し、線径20ミリ以上の異形棒鋼をメインに製造している。同じくタイ国内に展開するラマ2工場(バンコク市内)では、ブラパ工場が製造したビレットの単圧を行っており、20ミリ以下の製品を担う。

足元は、建設市場の一服や割安な中国鋼材の流入などで鉄筋や鋼材需要が低調に推移しており、同社の年間生産能力80万トンに対して実生産は3―4割と苦戦している。「タイに10社弱の電気炉メーカーと6社の誘導炉メーカーが操業しているが、稼働率は当社同様に5割を切り、各社厳しい状況にある」(プラビットCEO)。

バンコク市内や近郊の都市部を見ると、高層建築用のクレーンが至る所に立ち並び、見た目には建設市況の悪さは感じられないが、中国経済の悪化でコンドミニアムへの投資が低迷し、住宅ローンのLTVの緩和措置の解除などもあり消費者の購買意欲が落ち込んでいるという。

一方で、タイ政府が産業高度化を目指す「タイランド4・0」の下、自動車やエレクトロニクス、バイオテクノロジーなどの海外からの直接投資は堅調で、2023年の投資額は申請ベースで前年比71%増えており、ASEANの生産拠点としての魅力は根強い。

特にEV(電気自動車)市場は、台頭する中国メーカー各社が今年からタイで現地生産を加速させるため、今後は関連工場の誘致や新工場の建設、労働者向け住宅需要の底上げが期待される。

(石橋 栄作)

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