2024年4月9日

タイ電炉・ミルコンの戦略/プラビットCEO/神鋼合弁にビレット供給/ELV処理で一貫体制敷く

タイの大手電炉メーカー・ミルコンスチールは1998年の設立以来、異形棒鋼や丸棒などを生産販売し同国の経済成長を支えてきた。近年は普通鋼・特殊鋼線材メーカー向けのビレットの生産や販売も手掛け、さらにはグループ内で使用済み自動車(ELV)のシュレッダープラントを運営し、川上から川下まで一貫体制を敷く。同社のプラビット・ホルンルアンCEOに足元の事業環境や展望を聞いた。

――まずは事業の概要を。

「タイ国内に製鋼圧延を一貫して手掛けるブラパ工場(ラヨーン県)と単圧工場のラマ2工場(バンコク市内)を展開し、異形棒鋼をメインに生産している。国内販売が主体で一部を輸出している。ブラパ工場は伊ダニエリ社の75トン電気炉(EAF)1基や4ストランドの連蔵鋳造圧延機などの一連の設備を完備しており線径20ミリ以上を手掛け、ラマ2工場では20ミリ以下の製品を作っている。また、神戸製鋼との合弁会社のコベルコミルコンスチール(ラヨーン県)に対してビレットでも事業を展開している」

――足元の需要動向を。

「国内は建設市場の一服や割安な中国鋼材の流入などで低調に推移しており、生産実績は能力に対して3―4割と苦戦している。当社のほか10社弱の電気炉メーカーと6社の誘導炉メーカーが国内で操業しているが、同様に稼働率は5割を切るなど各社苦戦を強いられている」

――スクラップの購買について。

「ブラパ工場で使用する原料の9割はヘビースクラップやHMSといった市中発生品や輸入スクラップで当社グループのウェイストテックからの調達は全使用量の1割程度。スクラップの購入価格は、国内に主だった指標やプライスリーダーとなるメーカーがいないため、ヤード業者や商社と相対で決めるケースが大半。国内のスクラップ需給や同業他社の購買動向などで上下している。米国のトルコ向けのHMSのオファー価格やP&S相場を耳にすることはあるが、われわれが実際の取引でそれらを指標にするケースはほとんどない」

――シュレッダープラントのウェイストテックについて。

「プレシュレッダー1基と3000馬力のメインシュレッダー1基、各種選別装置などを保有し、ELV(使用済み自動車)を処理して回収した鉄スクラップをブラパ工場に供給している。シュレッダー能力は月2万5000―3万トンだが、足元の実績は1万トン前後とブラパ工場の生産減や需要減の影響を大きく受けている。ELVは、主に韓国やオーストラリアからプレス品(通称=カーバンドル)をコンテナで輸入し、近隣のレムチャバン港で荷揚げし、こちらに運んでいる。歩留まりはおおむね鉄が7割、ダストが3割といったところ。タイは自動車のリサイクルフローが確立されていないため廃車される前に中古車としてラオスやミャンマーに輸出されており、ここで処理するELVは全量が輸入だ」

――ASR(シュレッダーダスト)の処理は。

「国の操業許可のもと当社グループで一貫処理しており、アルミや銅など非鉄を回収しトロンメルでサイズ分けした後、専門業者に販売して100%リサイクルしている。ダストの選別を徹底していることもあり、燃焼効率に優れると高い評価を得ている」

――需要見通しと課題を。

「建設需要の低迷や割安な中国材の流入で当面、厳しい環境が続きそうだ。タイは電気代が東南アジアの中で一番高いと言われており、日本同様に夜間操業が主体。低操業の中、電力コストが大きな負担となっている。タイの電炉の製鋼量は年間500万トンあり、原料は7割が国内調達で残りを輸入で賄っている。需要が低調とはいえ、国内発生するスクラップの数量が限られており電炉メーカー間での集荷競争が激しいため、今後も安定調達に注力したい」

【ラヨーン=石橋栄作】

英文翻訳はこちら

スポンサーリンク