2024年3月28日

鉄鋼新経営 変化を好機に/大同特殊鋼社長/清水哲也氏/自由鍛造品・磁石で成果/CO2排出削減工業炉、主要部門に

――足元の事業環境と2024年3月期の見通しから。

「自動車に関しては、半導体不足が解消され、中国は少し弱いが日本、アメリカでの需要が堅調で量的には回復してきている。ただ産業機械は、底打ち感はあるが回復の兆しが見えていない。品種的には、渋川工場の自由鍛造品の引き合いが、半導体以外の幅広い分野から依然として強く、当分続くと見る。ポートフォリオ改革の一環として進めてきた自由鍛造品の強化に対する成果が現れている」

「原材料、エネルギー価格に関しては、スクラップ価格などの変動の少なさが収益面でプラスになったが、原料にエネルギーも加えたサーチャージ制導入の成果も大きい。外部環境の変化に対応できる体制となり、経営の安定度が良くなった。今までの取り組みが奏功したと感じている」

「このため24年3月期は、第4四半期での自動車生産減速の影響は出ると思うが、前年度並みの利益水準を見込んでいる」

――25年3月期については。

「年度全体では、シリコンサイクルが底を打った半導体製造装置や、産業機械も需要は回復すると見る。地政学的リスクや通商問題などの不透明さはあるが、需要が下がる要素は今のところなく、事業環境としては今期より良くなると思う。価格面では、4月からのベース値上げに対し、物流費や賃金の上昇などをお客さまに丁寧に説明し、理解を得ていく。今は、製品の価値を見て(価格を)認めていただくステージに入っており、今後も特殊鋼の価値をお客さまにご理解いただく活動を続けていく」

「原材料価格は大きく変わらないと見ているが、為替が急激に円高になると変化があり、収益面で影響をうけるかもしれない」

――今年度で現中期経営計画が終わる。

「利益面は達成の見込み。特殊鋼の価値を認めてもらえる営業活動ができ、外部変動を適切にヘッジできるサーチャージ制度も経営の安定に寄与しており、事業の体質強化ができた」

「行動指針に対しても、事業の強靭化が達成でき、成長分野へのビジネス拡大でも、磁石などで成果が出ている。ポートフォリオ改革も、航空機向けの自由鍛造品や半導体製造装置向けステンレスなどを伸ばしたほか、水素環境下で使える材料の評価設備を導入するなど、将来に向けた取り組みもできた。海外事業では、メキシコの加工拠点を閉める一方、インド、ベトナム、中国、アメリカでの事業拡大を図り、メリハリをつけて推進。ESG経営も、ESG推進統括部をつくり、カーボンニュートラル(CN)への対応はもちろん、グループ全体の人権方針や腐敗防止方針など、社会面での課題に対して取り組み、ガバナンスの面では、政策保有株の削減で資本効率性を意識するなど、会社として今の社会が求める動きに対応してきた」

――次期中計の考え方を。

「大きな方向性は変わらず、ポートフォリオ改革や、事業の強靭化に引き続き注力していく。現中計での取り組みを進化、深掘りさせる形になると思う」

――自動車の構造変化への対応は。

「日系自動車メーカーは今まさにEVシフトをして開発中の段階。そこで必要となる材料、特に減速機の歯車鋼などの開発を、お客さまと一緒に進めている。磁石にも力を入れ、重希土類元素フリーで製造過程でのCO2排出量も少なく、形状自由度も高いといった訴求ポイントを説明し、先ずはお客さまの理解を得ていくことから始めていく」

――高炉メーカーが電炉に参入する。原料の安定調達に向けて。

「今までも原料調達先との関係性を大事にしており、リターン材確保の強化や、地場スクラップ業者との関係性強化などのほか、上級スクラップ以外の品種の有効活用にも取り組んでいる。また、輸出される年間700万トンのスクラップの国内での活用に向け、鉄鋼連盟の取り組みに参画していく。原料ストック能力や、効率的な受け入れ体制の強化など、当社が150万トンを生産できる原料を安定確保できるよう、地道に取り組んでいく」

――CNへの取り組みを。

「社内では、CO2排出量を13年度比で30年に50%削減し、50年でのCN達成を目標に、自助努力とCO2フリー電力の購入などで進めている。また、当社の機械事業部が製造する熱ロスの低減や通電時間短縮を実現する炉体旋回式電気炉(STARQ)や、高品質と省エネ性を兼ね備えた熱処理炉のSTC炉シリーズなどの工業炉は、お客さまのCO2排出量削減に有効で、社会全体にも貢献できる。さらに標準的な焼鈍工程でのCO2原単位をゼロにするカーボンニュートラルSTC炉も開発中で、要素技術としてはできている。このようなCO2排出量を削減する設備技術をしっかりと訴求し、機械事業部単体の売上高を22年度実績96億円から、30年度には300億円に引き上げる目標を達成するとともに、4つ目の主要セグメントに位置づけていきたい」

――人材の確保も課題となる。

「最後は人。機械事業部の売上拡大だけでなく、鍛造品の能力も増強したいが、そうなると現状の人員だけでは難しいため、人材の確保が不可欠。日本が少子化になる中、良い人材を確保するため、賃上げもしっかりやり社員寮も新しくしたが、もっと働きやすい職場環境整備を続けていく必要がある。多様な人材の活用という点では、海外人材の採用にも積極的に動いている」

――設備投資計画は。

「これからまだまだ成長分野への投資を続けていく。現在は、自由鍛造品の生産が追い付かず納期を調整させていただいているため、渋川工場の能力増強を計画中。磁石の能力増強についても、今年度からどんどん計画を起案していく」

(安江 芳紀)

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