2024年2月27日

財務・経営戦略を聞く/JFEHD副社長/寺畑雅史氏/改革効果、実力利益上積み/GX・DX・人財開発 次中計の柱に

――通期の連結事業利益予想が2900億円と前回予想通りとしたが前年比は数量減の中で増益に。

「需要は国内外とも厳しく、中国ではメタルスプレッドがトン100ドルを切るような状況が続いている。事業環境が悪化する中で比較的高い利益を確保できているのは、当社の生産設備の構造改革が間に合ったという捉え方ができる。加えて販売価格の改善が進んだことが安定した収益基盤を確立できた大きな要因となっている。原料価格は原料炭が第3四半期に上がり、水準はなお高いものの通期平均は22年度より低くなっている。前年度より下がっている分、前年度の棚卸資産評価益から今年度は評価損に変わっているが、それでも構造改革の効果によってホールディングスの事業利益は前年より542億円増え、棚卸資産評価差等除く実力ベースの利益は1322億円増える見通しだ」

――前年より粗鋼が減る中での鉄鋼事業の利益水準をどう評価する。

「販価の改善が国内中心に進んだことが大きい。下期の厳しいマーケットが24年度も続いても実力の利益で中期経営計画最終年の24年度目標の2300億円は確保できる体制は築いており、市場が回復に向かえば2600億円を狙えると考えている」

――JFEエンジニアリング、JFE商事も高収益が続く。

「JFEエンジは受注が伸びている。23年度は受注高5800億円(前年度5649億円)、セグメント利益250億円(同134億円)と高い水準を見込む。受注済みのプロジェクトをしっかりと進めることで売上高が増え、昨年に急騰した資機材価格の反映も増益に効いている。足元も受注は好調で24年度は中計目標の利益350億円を目指す。JFE商事は特に北米のスプレッドが縮小し、原料炭ビジネスも価格低下の影響を受けたこともあり減益の見通しだが、22年度のセグメント利益は北米の鋼材市況や原料の高騰などにより過去最高だった。23年度の利益予想480億円は中計目標の400億円を超えており、24年度には500億円を目指す考えだ」

――現中計は残り1年だが、ここまでの成果をどう評価する。

「利益のボラティリティを小さくすることを目的に、原料価格の鋼材販価への早期反映に取り組んだ。また、主原料価格の連動をフォーミュラ化することで販価に反映することができている。全ての価格変動をフォーミュラ化していない合金鉄や副資材などについても販価への早期反映に努め、結果を出している。東日本製鉄所京浜地区の上工程を休止する構造改革によって生産量が減少する中でお客さまにご理解をいただき、収益基盤が強くなってきた。京浜の構造改革は20年3月の発表から3年半かけて取り組み、23年度は200億円、24年度は250億円のコスト削減効果を上げる。京浜の厚板ミル単体での製造体制整備や生産移管を着実に実行し、社員についても再配置や再就職など雇用の場を確保し、丁寧に対応できたと考えている」

――24年度の需要は大きく変わらないと見ているようだが。

「建設業や物流業の『2024年問題』の影響は見えていないところがある。建築分野における首都圏の大型再開発案件の後ろ倒しがみられ、どれほどずれ込むのか、あるいは少し戻るのか、見えてくるのはこれからだ。もう一つの大きな要素は中国だ。政府は1兆元の地方債発行でインフラ投資を促進するが、春節(旧正月)以降の需給や鋼材市況を見ながら対応していくことになる。中国の粗鋼生産も気になる。昨年12月に急ブレーキを踏んだが今年1月は再び増え、要注視だ。海外はインドの鉄鋼市場が好調で米国も市場が再び上向いている。世界の鉄鋼市場は緩やかに回復すると予想するが中東やロシア・ウクライナの問題もあり、慎重に見ていく」

――24年度の鉄鋼事業の実力ベースの連結事業利益について中計目標を300億円上回る2600億円以上を視野に入れている。

「海外市場は今の厳しい状況が続くとは思えない。中国の鉄鋼業は収益が落ち込んでおり、対策に乗り出すはずだ。第3四半期から急騰している原料炭コストは一部今年度内に反映しきれない分があるので新年度にそれを取り込んでいく。構造改革によるコスト削減に加え、24年度上期に電磁鋼板の増強設備が稼働を始める。粗鋼生産量は23年度並みを想定しているが、各種取り組みによって収益は増えていく見込みで中計目標の2300億円は達成できるとみている。その上で海外ソリューションビジネスや諸物価分を反映した製品値上げ、海外事業の進展、さらに市場の回復が加われば2600億円以上が見込める」

――中計の仕上げとなるがポイントは。

「数字として結果を出していくことだ。安定して利益を上げ、配当を出せる会社ということを実力で示すことが大きなテーマとなる。そのために販価改善の継続が必要であり、フォーミュラ化について受け入れていただけるお客様の範囲を広げていきたいと考えている。高インフレの時代を迎え、エネルギー費や物流費、労務費なども上がるので個別にはなるが販価への反映について粘り強く交渉していく。高付加価値品の比率は22年度に47%に上がっており、24年度に目標の50%に引き上げる。電磁鋼板の増強設備稼働があり、昨年に初めて採用された風力発電用大単重鋼板のJ―TeraPlate(ジェイテラプレート)も期待できる。JFEエンジで海外含め洋上風力発電用のモノパイル(基礎構造物)が受注できればジェイテラプレートの販売も増えていく。構造改革の効果も利益として示していきたい」

――ソリューションビジネスや脱炭素の取り組みが本格化していく。

「製造業型ソリューションビジネスを24年度に20年度比で3倍に拡大することを目指したい。製造技術の支援や海外会社の操業支援、ライセンス供与があるが設備の保全技術などもPRしていきたい。海外戦略の一つであり、DX戦略でもあるので力を入れていく。カーボンニュートラルの取り組みは大型電炉の導入やカーボンリサイクル(CR)高炉、水素還元製鉄などの研究開発を進め、24年度は千葉地区に建設中の試験電気炉と水素還元の小型ベンチ試験炉が稼働する」

――25年度からの新中期計画でもCNと海外戦略が引き続き重要テーマとなる。

「CNの取り組みをさらに加速していくことになる。今年4月にGX、DX、人財の各戦略本部を新設する。いずれも経営課題として重要であり、次期中計の柱としてGXとDX、人財開発に力を注ぐ。国内戦略については市場の先行きを踏まえて考えていく。量から質への中でトン当たり利益をどこまで伸ばしていけるか。成長する海外市場で利益をどう取り込むか。4月からの新経営体制の中で絵を描いていく」

――CNには原料対策も必要だが。

「脱炭素の潮流から石炭ビジネスへの投資が控えられているが、原料炭はトランジション期にはもちろん、CR高炉でも必要となる。原料炭の量と価格の安定的な調達に向け対応を考えていく」

――CNや海外展開の上でJFEエンジとJFE商事が持つ事業は有望だ。

「JFEエンジは廃棄物発電プラントの受注が堅調だ。また、カーボンニュートラルの実現のため発電所でのアンモニア混焼などがターゲットになり、ビジネスチャンスが広がっている。さらに、リサイクル事業はリサイクル新法が22年4月に施行され、プラスチックのリサイクルに関してニーズが増えている。海外でもベトナムで廃棄物発電所が竣工するなど着実に事業を展開している。CNに寄与する事業を多く持ち、成長させていきたい。JFE商事は昨年度に買収した鋼製薄板建材製造販売のセムコが利益に貢献している。米国経済が強く鋼材市況が上がっており、北米事業は成長が期待できる」

――成長にはインドでの事業展開が欠かせない。JSWスチールと方向性電磁鋼板の合弁会社の工場の起工式を2月に行った。

「JSWとはこれまで築き上げてきた信頼関係がある。JSWは規模の拡大志向があり、15%出資している中で成長する利益を取り込んでいく。インドで高まる方向性電磁鋼板の需要に対して27年度のフル操業を目指して対応したい。今年度の決算は国内のグループ会社の減益を海外のグループ会社や出資先が補っている。なかでもJSWの利益が大きく貢献している。米CSIやタイのJSGTとインドネシアのJSGIも収益が改善している。中国はGJSSが稼働を維持しているものの他は苦戦しており、動向を注視しながら対策を考えていく」

――米国での事業戦略をどう考えるか。

「経営方針の『量から質への転換』に沿って成長を続ける米国のマーケットを質に特化した形で取り込んでいく。信頼できるパートナーのニューコアと共同で出資するCSIやメキシコのNJSMを発展させる。電炉戦略を考える上でも大切なパートナーであり、関係を深化させていく中でできることを考えていく。JFE商事の電磁鋼板加工拠点がメキシコとカナダにあり、セムコ含め北米でいろいろと展開できると考えている」(植木 美知也)

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