アルテミラグループのアルミ圧延MAアルミニウム(本社=静岡県裾野市)は成長分野への注力を進める。中核を成す缶材に加え、アルミ管内部に溝を付けた新たな空調用の伝熱管や自動車用の電池箔など将来の市場を見据えた事業も展開する。1月に就任した丸山茂樹社長に今後のかじ取りを聞いた。
――震災発生を受けて。
「1月1日に能登半島地震が発生した。亡くなられた方々に心よりご冥福をお祈り申し上げるとともに被災された方々へお見舞い申し上げる。現在も未だ余震が続いているが、被災地の皆様の安全確保と一刻も早い復旧、復興を祈念している」
――これまでの経歴を。
「入社以来31年間、営業畑を歩み一通りの板製品を手掛けた。入社後は大阪で8年間エアコン用フィン材やアンテナ用の管材、一般材を手掛けた。その後、東京では印刷版や缶材、自動車熱交材などの営業も担った。近年は18年から5年間携わった圧延事業とともに、この1年間は押出事業も受け持った。営業時代の最後の3年間で箔にも携わり、電池箔に将来性を感じた」
――社長就任の抱負を。
「まずこの2年間はアルテミラグループの中核企業として、目標とする業績をしっかり出し、グループの収益確保に貢献する。併せてグループの株式上場に向けて、成長軌道に乗れるビジネスを数多く生み出す。缶は従来の『CAN to CAN』に加え、グループで掲げる『PET to CAN』の流れにも乗る。生産の4割を占める缶材を根幹に、電池箔や空調用のねじり管、自動車用のクラッド材といった付加価値製品を展開していく」
――今期(24年12月期)の缶材事業をどうみる。
「缶材は前期並みの推移を予想している。アルテミラ製缶でUBC(使用済み飲料缶)の使用比率を増やした製品も展開しており、成長の足掛かりにしたい」
――熱交換器関連の事業はどう進めていく。
「クラッド材は中国製品の流入により、コモディティー化している製品は苦戦を強いられている。価格勝負ではとても勝てないため、数量減の需要環境でも付加価値によって差別化できる製品を展開していく。中国材との差別化の一例として、自動車部品メーカーと共同で進めるリサイクル性の高い合金開発の強みが発揮できるだろう」
――空調用の熱交換器製品について。
「オールアルミの熱交換器の需要が高まっている。従来はアルミフィン材と銅管を組み合わせた製品だったが、昨今は銅価格の高騰から銅管をアルミ管に置き換える需要が伸びている。当社では2年前に生産を開始した内面にらせん状の溝を付けた伝熱管を昨年から本格的に納入しており、今年中に生産能力が上限に達すると予想している。来年以降の増産に向けて、加工設備の導入などの検討を始めている」
――自動車分野の見通しを。
「空調向けのねじり管は好調なほか、多穴管も堅調に推移するとみる。このほか、バッテリー冷却といった熱マネジメントに関連するEV向け押出材の構造部品への期待も大きい。新製品の開発を進めており、早期の市場展開を図る」
――箔事業の方針について。
「電池箔など付加価値製品は今後の成長に欠かせない。車載用の電池箔は足元では想定より弱含んでいるものの必ず伸びるだろう。現状のキャパシティーでは足りないボトルネック工程の改善を進めるほか、増産に向けた設備投資は顧客と協議していく。市場環境を注視し、設備投資や生産性の改善、仕様の見直しなど幅広い選択肢で臨む」
――海外事業の展開を。
「空調分野ではインド市場に日系メーカーも進出しており、東南アジア諸国とともにチャンスを秘めている。インドで押出の製造・販売を手掛けるMAエクトルージョン・インディアは顧客との協議が必要であるが、押出機の増設など事業拡大の余地があるとみる。自動車分野ではEV需要増への期待から北米市場での事業の可能性も検討していきたい」
――タイ事業の現状とは。
「14%弱出資する現地のアルミ圧延バロパコン社との関係は従来通りだ。バロパコン社が生産したエアコン用のフィン材と自動車向け熱交材を現地のMALC―THAI(マルク・タイ)を通じてこれまで通り販売している。タイ事業はエアコン向けが生産調整により、今期は前期より若干マイナスに振れると想定している」
――価格転嫁の施策とは。
「直近2年ほどでエネルギー・諸資材コストが上昇した。ただ、エネルギー・副原料などのフォーミュラ制は大手の顧客を中心に浸透が進んでおり、引き続き丁寧に交渉していく。23年後半のコスト上昇分や今後の輸送費上昇も織り込み、2月にアルミ全製品に対して20%の加工賃(ロールマージン)改定を打ち出している」
――グループ間での連携について。
「『CAN to CAN』の流れに乗ってリサイクルでの強みを発揮していきたい。アルミ圧延の堺アルミとの協業も図っていく。人的交流のほか、両社の各部署でシナジー創出に向けて協議している。圧延のボトルネック工程を相互利用するなど具体的に検討もしている」
――財務面での方針を。
「この2年間、目標とする利益率を確保するために聖域なきコスト削減を進めてきた。また今後、グループの株式上場に向け、さまざまな施策を実行し、従来以上に迅速に結果を出していく。利益率の高い欧州の圧延メーカーに匹敵するEBITDA(利払い・税引き・償却前利益)を目指している」
――環境負荷低減の取り組みを。
「環境負荷低減の社会ニーズに応えていく必要がある。リサイクル材の使用量の増加に伴うコストアップに対しては顧客と協議して価格改定もお願いしていく。今後はスクラップ需要が増えることが予想されるため、需要動向を注視する。このほか、工場内のLED化や工場建屋屋根への太陽光パネルの設置なども検討している」
▽丸山茂樹(まるやま・しげき)氏=1986年成蹊大法卒、三菱アルミニウム入社。2018年執行役員圧延事業本部副本部長、22年4月常務執行役員圧延事業部長、10月執行役員事業部門長、1月から現職。趣味はゴルフ、登山、読書。「能わざるにあらず為さざるなり」を心に留める。63年10月28日生まれ、東京都出身。
(増岡 武秀)