2024年2月7日

日本製鉄・森高弘副社長 決算会見一問一答 USS買収、両社・両国にメリット 一致点に向け、対話を重視

――USスチール買収に向けてどういう強化策を打ち、着地点をみつけるか。

「米国の反応は想定内だ。私の知る米国は自由と秩序、平等の国。我々はデュー・プロセス(適法手続き)を経て双方に意義があり、関連産業ひいては両国にとってメリットがあると考えており、政治の思惑だけでブロックすることはできないと思っている。政治問題化しているのはUSW(全米鉄鋼労働組合)が反対の立場をとっているからであり、当然秋の大統領選挙にもつながる。組合との関係で申せば昨年12月の公表と同時に対話を始め、年末には実際に会って話をした。対話を通じて一致点を見つけていくことは十分可能と考えている」

――対話の強化とは。

「ワシントンに1月中・下旬に訪れ、ロビイストを雇ってアドバイスを受けながら動いている。USWだけでなく、いろんなステークホルダーと対話を深めていく。誤解はあるし、直接話をすれば人間だなと思うところもあり、実際の対話は非常に大事。報道を見ていても極めて中立なサポーティブな記事が増えている」

――労働組合からの質問は。

「具体的なやり取りは控えるが、労働組合と合意すべき点について協約で決まっていることを十分に履行できるだけのファイナンシャルバックグラウンドがあることを示さなければならないので、それに関連する質問が多かった。当社は財務的にUSSより強固な状況にあり、十分説明し、応えていけば理解を得られるだろう」

――100%出資の方針を変えることは。

「技術を共有する以上、100%子会社化が最適。USSや米国にとっても意味があることと考えている」

――トランプ前大統領が買収に反対の意見を述べている。

「トランプ前大統領の発言は承知しているが、取引の内容を十分理解して発言されているかは疑問。今回の取引が米国の各産業に広く貢献できるとご理解いただければ意見が変わるのではないか。組合と政治との関係も踏まえ、早期に組合との一致点を見つけていくことが重要となる」

――買収が成立した場合、銀行団とは。

「ブリッジローンはメガバンクが中心だ。コミットメントレターをもらい、対応していただいている。今後はリアルなローンに変えていく。時々のマーケットの状況や当社の資金繰りの状況などを踏まえ、最適な調達法を選択していく」

――USS買収が不成立となった場合、違約金は発生するのか。

「公開資料にあるが、両方に(違約金を払う)義務がある内容だ。当社の提案より仮に有利な提案が出てきて、今回の提案が実行不可能あるいは予見不可能な重大事態が起こって売却が撤回されることになれば、USSがターミネーション・フィー(違約金)として当社に5億6500万ドルを支払うことになる。一方、当社がクロージング期間内に許認可を取得できず、USSが合弁契約を解除する場合、当社がUSSに対して同額を支払う。期間は18カ月。当社は昨年12月18日に締結しているので、25年6月18日が期限となる」

――USWと一致点をどう見つけていくことについて。時期や今後の流れは。

「交渉に近い話なので申し上げられないが、一番良いのは、(24年6月末もしくは9月末予定の)クロージングに向けて株主総会で承認され、各審査機関の承認を得ていくこと。株主総会の前段となるプロキシー(委任状)の招集通知をSEC当局に提出しており現在、約30日間の審査に入っている。これが承認されれば時計が回り出す。それを前提とすれば3月末には株主総会が開かれる。総会が開かれればプレミアムのついた株価であり、必ず承認されると思う。それに合わせた時期にUSWとも一致点が見つけられれば、後は各審査機関の審査待ちという流れになる」

――今回、通期連結事業利益予想を上方修正した。プラス要因としてマージンが500億円改善している。

「一つは原料単価の上昇幅が想定より縮小し、一方でASEANの鋼材市況が上昇している。加えて為替がこの期間、2円程度円高に振れたこともある。来期の利益は下期の横ばいを出発点に考える。数量的な改善は難しい。スプレッドは現在、どの企業も利益がとれない状況にあり、穏やかに改善していくとみている。為替は1ドル145円からやや円高方向に振れるのではないか。いろいろ打っている施策の投資効果が出てくるのは少し先になるので、厳しい環境の中でどれだけ利益を出せるか、維持できるかが課題となる」

――物流2024年問題を控えて物流費をどう転嫁していく。

「物流費上昇は個社ではなくサプライチェーン全体で吸収しないといけない。丁寧に説明し、お客様のご理解をいただく中で決まってくる。物流費が上がったから販売価格を上げてくれというわけではなく、市況を形成する要素の一つとして物流費がある。ひも付きユーザーとはコストだけでなく、サービス、商品価値など含めて議論ができている」

――厚みを持った事業構造への進化に取り組み、原料の自社鉱比率を上げていく中で鉄鉱石、原料炭どちらの確保に傾注するか。

「どちらかということではなく、良い案件があれば優先する。今回カナダのテック・リソーシズが分離する原料炭事業に2000億円投資(20%出資)したが、初年度から800億円の利益を享受する良い投資となっており、さらに高品質の原料炭も確保できる」

――水素還元試験炉のスーパーCOURSE50が大きな成果を上げている。実機化の前倒しにつながるのか。

「今回、CO2削減効果33%を確認できたことについては順調な滑り出しだと思っている。2040年を目指している実機化技術確立の時期を今回の結果のみをもって前倒しできるかは難しいが、確実な実現に向けて順調すぎるぐらいの結果だ。今後もチャレンジし、クリアして実機化の投資につなげていきたい」

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