2024年2月6日

JFEHD社長交代一問一答 海外展開進め収益力向上 CNとGXが経営課題

――JFEグループとして、ホールディングスの社長に北野氏、スチールの社長に広瀬氏を選んだ理由から。

柿木氏「北野社長は中核であるスチール社長として5年間実績を積んだこと、またエンジニアリング、商社事業に関する理解力があること、グループ企業を管理する者として最適任だということで株主総会が終了した時からそうした考えだった。指名委員会に推薦し、委員会の中の議論でも(北野氏はホールディングスの取締役でもあり)力量、その他含めて極めて順当な人事ということで委員会の承認を得た。そういうプロセスだ」

北野氏「広瀬君は戦略を練る力、行動力、チーム力を持って問題解決にあたるリーダーシップ力を備えている。また私がスチールの社長時には経営企画担当専務として現在遂行中の第7次経営計画、さらには京浜上工程休止を中心とした構造改革をまとめ上げ、成し遂げてくれた決断力と実行力を大きく評価し、後任として選んだ」

――JFEスチール社長としての抱負を。

広瀬氏「経営企画担当役員として2030年を見据え戦略を練り計画を実行してきた。量から質への転換を図り、稼げる企業体質になってきたので2035年・2040年を見据え、新たな成長戦略を加えてもう一段の高みに引き上げたい。また実行する原動力は社員だ。一人ひとりがJFEスチールという会社に誇りを持ち、働き甲斐を感じ、各々の持てる力を存分に発揮できる、何より働いた結果として、満足感や幸福感を得られる会社にしたい」

――JFEスチールの海外事業戦略は

広瀬氏「これまで海外事業は鉄鋼需要の伸びる地域において信頼できるパートナーとともに、当社の技術力を活かして海外事業を展開してきた。今後も世界は動く。状況を見ながら、パートナーとともに海外事業を進め、成長の糧としていきたい」

――JFEグループとしての経営課題は。

北野氏「ホールディングスにとってはグループの収益力を高めることが重要だ。24年度からは中長期ビジョンを議論しながら25年度からスタートする3カ年の第8次中期経営計画を立案するのが24年度になる。事業会社ごとにしっかりとした経営計画をまとめ上げ、ホールディングスとしてしっかりとした財務基盤をつくっていく。こと。ポイントは事業会社ごとの収益力アップ、デジタルトランスフォーメーション(DX)およびGX(グリーントランスフォーメーション)戦略、さらには人的資本経営が大きなテーマとなる。グループ会社と連携して戦略を立てて、来たる第8次以降の経営を担って参りたい」

――JFEスチールとしての経営課題は。

広瀬氏「最大の経営課題はGX、カーボンニュートラル(CN)だ。CNはプロセス転換に必要な原料やエネルギーを調達し、製造したグリーンスチールを、環境価値というプレミアムを付けて販売していく。開発・製造だけでなく、調達・販売に至るまで全活動領域において変革していかなければならない。さらにいえば、電磁鋼板などのエコプロダクツ、省エネ技術などのエコソリューションまで当社が競争力のある商品やサービスをグローバルに供給し、世界のCNに貢献していく大きなビジネスチャンスだ。スチール社長として陣頭指揮を執るが、CNおよびGXは全社で取り組む」

――今回、交代のタイミングとしてどうだったか。

柿木氏「現行の中期経営計画はあと1年残っているが、24年度は第8次(次期中期)を策定する局面だ。個人的には(計画を)実行する人が策定すべきという想いをかねて抱いていた。私自身5年間HDの社長をやって区切りでもあると。また世代交代は大切であり、自分の年齢を考えると一つの時期だということ」

――広瀬次期社長の経歴は。

広瀬氏「86年度に入社し、87年1月に最初の配属として本社のステンレス部門に在籍した。以来、営業経験が長い。08年から12年まで4年間、広報室長を経験し、広報時代を除いて16年までの約30年間営業部門を歩んできた。営業部門出身の経営企画担当役員ということは、おそらくJFEが発足してからは初めてではないかと認識している」

――北野社長が好きな言葉として選んだ理由を。

北野氏「『自ら考え、自ら語り、自ら行動する』という言葉は、新入社員時代の直属の上司の言葉だ。最初の上司の言葉は成長していく過程で影響力が大きいと実感している。今でも戒めとして心掛けている」

――趣味に野球、卓球を挙げている。

北野氏「好きなプロ野球チームは広島東洋カープ。かつて山本浩二、衣笠祥雄選手を中心にセ・リーグ初優勝した時以来、赤ヘル軍団が好きだ。卓球は中一ではじめ、学生時代はずっと卓球部に所属していた。戦績はそれほどでもないが、普通の人よりは上手い程度。入社は旧川崎製鉄だが、当時社長だった岩村さんが卓球が好きでいらして、川鉄は実業団リーグに所属していた。リーグ優勝したり、個人戦でも日本チャンピオンを輩出したり、卓球が親近感としてあって入社に至った。今年のプライベート目標では卓球をやると宣言し、2度ほど千葉の体育館で、かつての卓球選手を相手に練習したところだ」

――上司の言葉について、経験から語るエピソードは。

北野氏「特にこれといったものはないが、私自身製鉄所勤務が長かった。現場でいろんな改善をし、トラブルから復旧した時などは、その言葉を思い出し、現場オペレーターと話し合いながら行動してきた」

――北野さんの経歴について。スチール社長時代に印象に残っていることは。

北野氏「スチールの社長に就任したのが2019年。19-20年は鉄鋼事業が赤字だった。しかも操業トラブルも多かった。そういう中で構造改革、販売価格戦略、さらにはデジタル技術を活用して生産性を上げ、安定操業を行うということに注力してきた。その効果もあって鉄鋼事業は21年から黒字に転換し、22年度も黒字、23年度も黒字見通しだ。最初の2年間は苦労した思い出がある。ただし、現時点での収益性は通過点だ。24年度からは広瀬君に収益力アップを託したい」

――仕事での信条を。

北野氏「先述した『自ら考え、自ら語り、自ら行動する』というのが座右の銘であり、信条としているが、さらに言えば人それぞれの特長を活かしたマネジメントを心掛けている。今後はダイバーシティー&インクリュージョンに代表されるように個人それぞれの能力を最大限に発揮してもらって個人の成長とともに会社の成長を果たす、というマネジメントが重要であると考えている」

広瀬氏「大切に思っている言葉は『何事も最後は人と人』。どんな課題であっても逃げずに真正面から向かい合って関係する方々と徹底的に議論を尽くせば、大概の問題は解決できると信じているし、実際行ってきた。これからもどんな困難な問題が起きようとも、その問題から逃げずにきちんと議論をし、JFEスチールを成長に導きたい」

――これまで社長としてやり遂げたこと、出来なかったことは。

柿木氏「HDの社長としては19年、20年は大変厳しい年だった。とくに19年は構造改革を決めた年であるが、元々、私がスチール社長時代の16年に構造改革の原案を作成した。結局17年は好景気もあり実行できなかった。それを20年3月に公表した。(実行したのは北野君だが)、文字通り現在の収益がしっかりしてきたのもこの改革をやったこと。つまり第7次中期計画を立てる中で『量から質への転換』という改革を組み入れて、現在ラインに乗っているという意味ではやり遂げたといえるのではないか。出来なかったことは枚挙に暇がないので難しいが、やり遂げられなかった課題はいつも話をしている北野君が認識しているので、今後やってくれると期待している」

北野氏「やり遂げたことは、19年、20年と2年連続で赤字だった鉄鋼事業を3年連続で黒字化の見通しができたこと。これには構造改革という非常に厳しい施策を実行し、成し遂げた。何より従業員の協力に感謝している。やり遂げられなかったことは現時点のJFEスチールあるいは鉄鋼事業としての収益力は"道半ば"と考えている。24年度からホールディングスの社長となってからも事業会社とよく議論して、収益性を上げることを目指す」

――JFEスチールの成長戦略として北米、インドはどうしていきたいか。

広瀬氏「2035年、2040年を見据えて、いろんなチャンス、ビジネス機会があると考えている。スチールの経営陣で中長期のビジョンについて議論している最中だ。海外事業については鉄鋼需要が今後伸び行く地域で信頼できるパートナーとともに我々の強みである技術力を活かしながら新しい成長戦略を創っていきたい。中でもインド、米国などの需要地あるいは高級鋼の需要が伸びていくであろう地域を中心に具体的な戦略を考えていきたい」

――GXを最大の経営課題に挙げておられる中で、冷鉄源含めた鉄鋼原料、水素など原燃料の調達について、具体的な方策、計画は。

広瀬氏「GXに関しては革新技術を開発することが目標となる。開発後、実装しただけでは十分ではない。原料調達含めて一連の変革が必要だ。すでに公表しているが、UAEのアブダビで伊藤忠商事、同国鉄鋼大手のエミレーツ・スチールと共同で、還元鉄プラントへの検討を行っている最中だ。こうしたプロジェクトを鋭意進めGXおよびCNを実現していきたい」

――北野社長の経歴の中で、当時JFEスチールの発足に向けて、技術面でどういう課題があったか。

北野氏「私、当時は現在の東日本製鉄所・千葉地区の製鋼部の製鋼技術室長を務めていた。その時に旧日本鋼管、旧川崎製鉄における社内言葉が違うということで、まずは言葉を統一していく活動を行った。また指標の定義も若干違うという点を統一し、さらには京浜地区の製鋼部門の現場を見て、あるいはすべてのデータを互いに開示しあって、それぞれの弱点などを指摘し合ってきた。どちらの技術が良いか、などというものではないと上司から言われていたし、全ては新会社のために何をすべきか、ということを考えていこうという号令の下、さまざまな改善を進めたということが印象深い」

――休日の過ごし方は。

北野氏「休日はゴルフやスポーツ観戦をする。最近は健康のためにウォーキングも始めた。また料理も好きなので、自分で料理もする」

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