――第10次中期経営計画(2023-25年度)の基本方針から。
「独立系商社ならではの『ユーザーのために』『ユーザーとともに』という基本姿勢をすべてのグループ社員と共有。大きく変わっていく社会構造、市場環境に対応して『流通のプロ』の立場で持続可能な透明性の高いサプライチェーンを構築し、企業価値をさらに高めていく。前中計は経常利益目標を300億円に設定したが、実績は20年度288億円、21年度627億円、22年度642億円となり、2030年ビジョンとして掲げた500億円も超過達成した。今中計の定量目標は経常利益700億円、ROE(株主資本純利益率)12%以上、ネットDER1・0倍以下。定性面では『経営基盤の強化』、『事業戦略の発展』、『投資の収益化』の大きく三つのテーマを掲げている」
――初年度にあたる今期の経常利益予想は500億円。上期実績は274億円(前年同期529億円)だった
「振り返ると22年度上期は鉄鋼や非鉄金属などの商品価格が高止まりし、配当収入などの一過性要因も加わって、第1四半期が333億円の好業績となり、第2四半期も196億円と堅調に推移した。ところが下期から海外を中心に商品価格が下落するなど環境が悪化し、第3四半期は108億円と減速。第4四半期は商品の在庫評価損などの計上に加え、一過性要因もあり5億円にとどまった。本年度上期は、好調だった前年同期に比べて鉄鋼、非鉄金属、原油などの商品価格が下落したままで、需要も低迷。海外事業は利幅が縮小して金利負担も増加したため苦戦し、配当収入や持分利益、為替差益などの反動減も加わる中、単体が健闘した」
――実力ベースの利益、今期見通しについて。
「ビジネスが事業分野・地域両面で大きく広がって一過性の要素が増えており、実力を見極めることはより難しくなっている。22年度上期は商品価格上昇の追い風が続いた。本年度上期は中国の不動産不況、米欧の金融引き締めなどの影響が本格化し、新基幹システムの減価償却費も加わった。22年度は一過性のプラス要素が重なって最高益を更新できたが、実力値は500億円以上と分析している。本年度は厳しい環境が続く見通しだが、主力の鉄鋼事業は阪和ダイサンの稼働、田中鉄鋼販売の事業譲受などの効果が本格化し、欧州向け輸出も軌道に乗ってきた。インドネシア、シンガポールなど海外販売子会社の商売も順調に拡大している。市場環境は厳しいが、期初予想の500億円達成を目指す」
――経常利益目標700億円のポートフォリオは。
「最高益を記録した22年度のセグメント利益は鉄鋼284億円、プライマリーメタル139億円、リサイクルメタル61億円、エネルギー・生活資材115億円、その他30億円、海外販売子会社72億円で、食品は9億円の赤字。海外販売子会社はシンガポール、インドネシアの鉄鋼分野が伸びている。まず食品の黒字転換を急ぎ、投資効果を引き出しながら、それぞれの事業をバランス良く伸ばしていきたい」
――「経営基盤の強化」について。
「30年以降を見据えて収益力強化と財務力強化を経営基盤の両輪とし、積極投資が可能な態勢を維持して収益拡大を図る好循環を回していく。前中計は3年間500億円の枠を大きく超える628億円の投融資を実行した。今中計はネットDER1・0倍以下を目安に財務規律を維持しつつ、資産の入れ替えも行いながら、配当後の連結基礎営業キャッシュフロー内で800億円規模の投融資を展開し、持続的成長軌道を確かなものにする」
――攻めの投資を続ける。
「阪和興業ならではのチャレンジ精神を発揮し、国内外で『攻め』の経営スタンスを維持する。ただし中国は経済成長が鈍化し、多くの不安材料を抱えている。中国系企業とのビジネスを維持・強化しながら、分散投資の視点も加えていく。また投資・撤退基準を見直し、コーポレート部門による社内横断的な審査体制も強化した上で案件を厳選。投資実行後もモニタリングを定期化し、取れるリスク、取れないリスクをしっかりと見極めていく。優先順位をつけながら『攻め』と『守り』をバランス良く実行していく」
――「事業戦略の発展」のターゲットは。
「鉄鋼は国内と東南アジアにおける『そこか(即納・小口・加工)』戦略としてのM&A、事業会社の設備自動化、効率化投資などを推進する。プライマリーメタルは日本の自動車メーカーによるEV戦略の急加速に応えるため二次電池材料を強化する。リサイクルメタルはカーボンニュートラル社会の実現に向けてリサイクル・トランスフォーメーションを推進し、既存の回収・加工拠点を軸に日本最大の金属リサイクル事業に発展させるための投資を続ける。食品は、垂直統合型のビジネスモデルの構築に向けて食品版『そこか』戦略を展開するためのM&Aを推進。エネルギー・生活資材はバイオマス・リサイクルエネルギーなど環境対応型原燃料の供給体制強化に向けてサプライヤーを拡充していく。海外販売子会社は、『第二の阪和を東南アジアに』戦略の一環として現地の鉄鋼メーカー向けの原料・半製品供給力を強化し、鋼材の販売力を磨いていく」
――初年度の投資計画を。
「意思決定ベースでは予算の3分の一を超えてくるだろう。国内では関東地区の老舗ステンレス加工流通で『そこか』機能を持つ東邦金属の株式80%を取得し、グループ会社化した。海外では大和工業がインドネシアで立ち上げる電炉・形鋼事業への出資を決めた。電炉が操業を開始するのは来年で、15%出資の実行は来年春以降となる」
――インドネシアでは中国・徳龍鋼鉄との合弁、徳信鋼鉄が第3高炉の稼働を開始し、大和工業との形鋼現地生産が加わる。
「スラウェシ島にある徳信鋼鉄は年産700万トン規模に拡大し、ビレット、丸棒、線材、スラブの供給体制を構築した。現地生産を開始する形鋼については、パートナーとなる大和工業が米国、タイ、中東、ベトナムなど海外における電炉ビジネスに関する幅広いノウハウを蓄積している。阪和興業はインドネシア国内に250人を超えるローカル社員を抱え、販売力を備えている。インドネシアは経済成長、首都移転計画に伴う電力など社会インフラ整備が急務となっており、鉄塔や土木・建設など伸びる需要を捕捉していく。世界最大のステンレスメーカーとなった中国の青山実業グループが先行してスラウェシ島で展開するニッケル銑鉄、ステンレス精錬・圧延プロジェクトに参画し、原料調達から製品販売まで関与している。形鋼がメニューに加わることで 『第二の阪和を東南アジアに』戦略が大きく進展する」
――プライマリーメタル事業における「電池の阪和」としての投資効果が本格化する。
「二次電池の需要は世界規模で急増するが、電池資源は偏在している。ニッケルはインドネシア、リチウムはメキシコ、アルゼンチン、コバルトはインドネシアなどで資源を確保している。ニッケル、コバルト、リチウムなど正極材の原料に加えて、負極材の原料となるグラファイトについても豪州、マダガスカル、モザンビークなどで資源を確保。中国のGEMや青山実業などとの合弁事業で、リチウムイオン電池の製造に不可欠な高純度ニッケル・コバルト化合物をインドネシアで鉱石から一貫して製造するQMBニューエナジー・マテリアルズが本稼働に入り、投資効果が出始めている。電池工場からの発生品を活用した電池資源のリサイクルビジネスも広げていく。本田技研工業と22年9月、EV電池の重要資源であるレアメタルの安定調達に向けた戦略的パートナーシップ契約を締結した。日本の自動車メーカーがEV化に大きく舵を切り、25年以降に量産体制に入る。情報が集まるシンガポールに活動拠点を置く『電動化グローバルグループ』がサプライヤー、需要家との連携を強化し、安定供給体制を整えていく」
――リサイクルメタルは、日本最大規模の金属リサイクル事業を目指す。
「昭和メタルが特殊金属、レアメタル、チタンなど高機能スクラップの回収・選別・加工・在庫機能を川崎と直江津に保有している。正起金属加工は、アルミ脱酸材の製造・販売、アルミ缶リサイクル事業を群馬、愛知、大分で展開。阪和メタルズは大阪市でステンレス・アルミ・銅スクラップ事業を運営。日興金属は北九州で特殊金属の低品位スクラップ、銅スクラップの事業を行っている。阪和本体のトレーディング機能をベースにグループ間のコラボレーションを深化させながら集荷・物流網を拡充し、リサイクル技術を磨きながら、太陽光パネルや二次電池のリサイクル事業も視野に入れて、販売先を巻き込んだかたちでのクローズドループを構築していく」
――鉄スクラップなど冷鉄資源ビジネスも強化する。
「カーボンニュートラル対策として電炉による鉄鋼生産が急拡大しており、日本にとって鉄スクラップはますます貴重な資源となってくる。国内ではグループ会社、納入先からのリターンスクラップの回収・調達を拡大・強化し、製鋼原料部が手掛ける風力発電設備や石油精製プラントなど大型鋼構造物の解体事業からの調達力も強化。年間150万トンの国内取扱量を更に引き上げていく。海外でもスクラップの調達網を広げており、蓄積量は多いが、国内需要が少ない豪州に現地法人を新設した。直接還元鉄については調達先の確保を急いでいる。合金鉄については、水力によるクリーン電力でフェロシリコンなどを生産するマレーシアのOMホールディングスの機能を活かしていく」
――エネルギーは、バイオマス燃料ビジネスを強化している。
「植物由来のPKS(パーム椰子殻)、木質ペレットなどバイオマス燃料事業は、電力会社との長期契約が順調に増え、PKS輸入はトップシェアを握っている。長期契約に応えるため、東南アジアにおける植林や加工拠点などの投資を続けながらサプライソースの拡充を急いでいる。安定供給とフレート対策を目的に導入した専用船は2隻を追加し、3船体制とする。タイヤなどリサイクルエネルギー事業も加速する」
――食品事業の黒字化が課題。
「ウクライナに侵攻したロシア産のカニ輸入禁止措置が米国などで広がり、円安による仕入れコストアップの転嫁の遅れ、巣ごもり需要の縮小に伴う水産物需要の低迷、相場下落などが重なった。川上の原料から川下の加工までを手掛ける垂直統合型ビジネスモデルに転換し、食品版『そこか』機能を強化しながら、収益力を再強化する。まずは早期の黒字転換を図り、小売りやレストラン向けビジネスの拡充、畜産物への本格参入、海外販売の強化などにより成長軌道に乗せていく」
――その他事業は。
「木材事業は売上高が1200億円を超え、食品を上回る規模に成長している。国内外から木材を調達し、一次加工の製材、二次加工にあたるプレカット・集成加工を加えて、住宅メーカーなどへ供給しており、木材版『そこか』機能を構築していく。住宅メーカーにユニット鉄筋、フェンス、門柱などの鉄鋼製品を供給する体制も整えていく。機械事業は、産業機械販売の他に、遊園地アトラクション、プールやアスレチック施設の制作・施工・設置から子会社のハローズが扱うアミューズメント施設やフィットネスクラブフランチャイズの運営までを幅広く扱う総合アミューズメント事業を広げていく」
――東証プライム市場が求めるPBR1倍以上には株価を8000円以上に引き上げる必要がある。中計では、株主還元強化策として新たな指標DOE(株主資本配当率、配当総額÷期首株主資本)を導入した。
「一株当たりの年間配当は前々期が100円、前期は130円だった。今中計ではDOE2・5%を下限に累進的配当を実施する方針を示した。役員報酬の一部として譲渡制限付株式報酬制度も導入した。今期配当予想はDOE2・5%の170円。足元の株価5000円前後ではPBR0・6倍程度。一時的にでも増配をすれば株価は上昇するが長続きしない。投資家に成長戦略をストーリーとして理解してもらうことが不可欠であり、IR活動を強化していく」
――自社株買いについては。
「戦略的投資からの配当収入や資産売却などによる臨時的なキャッシュインや大幅に利益が上振れした時などには、柔軟に検討していく。社員のモチベーションを高めること、投資によって収益力を強化すること、株主に還元することなどバランスよく経営資源を配分し、ステークホルダーである株主、経営陣、社員、取引先、社会に貢献していく」
――格付が引き上げられた。
「R&Iは据置だったが、JCRの格付が昨年10月に『A-』から『A』に引き上げられた。格付の向上は調達コストの低減につながり、今後も引き続き財務・収益基盤の向上に努めていく」
――2030年以降を見据えた展望と課題を。
「長期ビジョン『Run up to HANWA 2030』のキャッチフレーズを前中計の『未知への挑戦』から『未知への飛翔』に置き換え、経常利益1000億円企業を目指し、持続的成長を図っていく。社会・経営環境の大きな変化をチャンスと捉え、『流通のプロ』としてカーボンニュートラル社会に対応したサプライチェーンの一翼を担い続ける。最大の資産である『人財』のさらなる能力発揮に向けて、約10年ぶりとなる新・人事制度を4月に導入する。企業内大学の機能を強化し、社員の育成環境もさらに充実させていく。社員のモチベーションアップを図り、企業価値を高めていく」
――持続的成長には新たな市場開拓が不可欠。
「資源、鉄鋼・非鉄製品やスクラップの調達ソースを拡充しながら、中東からアフリカへの市場開拓も進めていく。アフリカは資源国として注目されているが、経済発展とともに鉄鋼需要は必ず増えていく。南アフリカのサマンコールでフェロクロム製造事業を長年展開し、モザンビークの港湾を利用している。青山実業グループがジンバブエで製鉄所、資源ビジネスを先行している。ヨハネスブルグには合金鉄の専門家を置いているが、サブサハラの市場調査を本格化し、ビジネスチャンスを追求していく」
――米州は成長余地を残す。
「阪和アメリカンは歴史的に金融、食品の拠点。鉄鋼は出遅れたがインフレ、金利上昇で新規参入はハードルが高い。メキシコ、カナダにおける電池の資源ビジネスを拡充しつつ、米国では電池材料のリサイクル事業に参入し、北米におけるサプライチェーン・ネットワークを構築していきたい。米国西海岸のシアトル・シュリンプ&シーフード、チリのサケ養殖事業など食品事業、中南米の非鉄・冷鉄源ソースは広げていく」
――中国に続く巨大鉄鋼市場となるインドは。
「いまは合金鉄類の輸出ビジネスがメーン。日本の高炉、特殊鋼メーカーが進出しており、経済成長も期待できるので、次期中計にかけて市場開拓のチャンスを探っていく」(谷藤 真澄)
注)急成長を続ける阪和興業における、鉄鋼事業、プライマリーメタル事業、リサイクルメタル事業の「成長戦略」に焦点を当てた経営陣のインタビュー記事を8回にわたり連載します。