――下期、国内市場はさほど変化が見られないが、海外市場はどう見ているか。
「欧米は金利上昇の影響などによる景気停滞で鋼材需要が盛り上がらず、鋼材市況がジリジリと下がっていたが、この1―2カ月は供給側の生産調整などもあって市況も上昇に転じている。米国の自動車販売は利上げにも関わらず堅調に推移し、経済はやはり底堅い。インドが好調を持続し、当社の事業はまだ小さいながら堅調だ。ASEANは全般的に厳しい。タイなどの自動車市場やベトナムの不動産市場・二輪市場などが金融引き締めの影響もあり低調に推移している。中国は経済全体が低迷しているのに加え、その中では好調な自動車市場で日系がシェアを落としており、当社の事業もマイナスの影響を受けている。ただし、ASEANと中国は全般的に悪いものの、取引先によって濃淡はある。各取引先の顧客層や販売の向け先によって、各社の状況はまだら模様という状況だ」
――上期は減益となったが、下期の利益予想とその水準をどう評価するか。
「住友商事グループとしての当社の管理純利益は上期に115億円と前年同期の155億円から40億円の減益となった。国内は自動車分野以外が低調だった。前年上期は鋼材市況が海外で期初に上昇し、強い追い風があったので、その反動減もある。22年度の通期が250億円で23年度は期初に外部環境が昨年より悪化すると想定して230億円と減益を予想した。下期には少し需要が戻ると見ていたが、実際には国内では自動車分野以外は活動が鈍く、海外も中国はじめ低調に推移し、今回、通期予想を215億円に下方修正した。ただ、半期ごとの利益を見ると22年度下期は95億円。今年度の下期は100億円の予想となり、外部環境が厳しい中で前年度下期のレベルは維持できているとも言える」
――厳しい中で高い利益を出せる体質へと変わってきている。
「事業、トレードともに強みをさらに磨き、その強みを十分発揮できるように努力してきたことが大きい。個々のマネジメントを改善し、海外では現地スタッフと同じ目標に向かって取り組み、成果を上げている。事業によっては分散していた拠点を集約することで想定以上の効果を実現できた事例もある」
――今年春に第3本部を設置し、第1本部を国内、第3本部を海外として薄板の地域戦略を強化した。
「国内と海外で当社に期待されている機能や役割に違いもあり、よりきめ細かくお客様に対応するために組織を分割した。国内は大きな流れとしては需要が漸減していくなかで、効率性を高めることなども含めて、鉄鋼メーカーやお客様の課題の解決に役立つように貢献していく。物流の2024年問題についても、国内の鉄鋼製品の物流を最適化していくという大きな流れの中で鉄鋼メーカーの受け渡し条件の変更への動きなども踏まえ、一つ一つ課題を解決していく。事業会社は各現場で物流の対応をさらに高度化する。各地域のお客様へのJIT対応や加工・小分けの配送は各拠点で課題があり、地域やお客様など個別の対応を徹底する。第3本部には『eモビリティ電磁鋼板チーム』を設置し、EV向けに増える電磁鋼板のサプライチェーン構築にも力を注いでいる」
――23年度は中期計画最終年。どう仕上げ、次期中計にどうつなげていくか。
「20年度に現在の中期計画を策定したが、当初の計画より純利益はかなり高い水準になっている。定量的には良好な結果を得ているが環境が大きく変わっており、手放しでは喜べない。定性的に見ると積み残しの課題もある。計画を8割程度達成したと言えるが、1年半前に計画を上方に見直したところからすると少し足りていないところがある。業績やビジネスモデル的に苦労している事業会社の変革に取り組み、健全化した会社が複数ある一方でいくつか不十分なところが残っている。本社ではカーボンニュートラル(CN)関連で新しい事業会社の設立や資本参加を検討しているが、具体化はこれからになる。市場の成長が見込め、ニーズが高く、当社の強みが生かせるCNの領域で検討を続ける。いろいろ走り回っており、次の中期計画の中で実現していきたい」
――海外事業の拡大が欠かせない。なお潜在力の高い北米での事業をどう成長させる。
「北米は一般的に機能や役割、価値を適切に評価してくれる地域であり、期待されている役割を果たせば一定の収益に結びつく。鉄鋼専門商社としてビジネスを伸ばしていきやすい地域なので今後も事業の拡大を狙っていく。19年に現地コイルセンターのマジック・スチールを買収し事業として成功しており、それ以来、ネクスト・マジックを追求している。これまでのM&Aは地域的補完性と顧客サービスの補完性を持つ同業を対象にしていたが、ネクスト・マジックは範囲を限定していない。なかなかネクストが現れないが、異なる加工分野や周辺領域でも事業の拡大を目指していく。北米では鉄道分野でも強みを持っており、CNの観点で鉄道輸送が伸びるとみられているので引き続き注力する。メキシコのコイルセンターは電磁鋼板の加工でさらに成長が期待できる」
――成長が続くインド市場をいかに攻めるか。併せてASEANでの強化策は。
「出資先の特殊鋼製造のムカンド・スミ・スペシャル・スチールは自動車の生産台数の伸びに伴って特殊鋼の販売が増えていく見通しだ。特殊鋼以外の分野でも事業を検討しているが、インドは北米とは異なる難しさもある市場なので需要は増えるものの投資は慎重に検討していく。パキスタンのリローラーのISLは原板納入とCC立ち上げに協力している。パキスタンは2億2000万人の国民の平均年齢が24歳と若く、有望な市場と考えている。ASEANは亜鉛めっき鋼板の製造をベトナムで行い、各地のCCなど体制は固めているが、新たな需要を生み出す機運は続くと見ており、各国の市場の成長に合わせて機能を考え、新規の取り組みを考えていく」 ――「商社は人」であり、人材は最も大事な経営資源だが、その人材の確保がますます重要となる。
「新卒は今年度が基幹職14人、事務職6人と20人。ここ数年新卒採用は15―20人で今後も同程度を計画するが、キャリア採用も積極的に行い、新卒と同程度となっている。新卒者の離職率は数%と一般的な水準より低いが、徐々に上がっているので対策を講じていく。女性や外国籍の方がより働きやすい環境づくりに取り組み、新卒の基幹職は男女半々で女性社員が増え、外国籍の方も以前から一定程度採用している。今年度に人事制度を改定し、成果をより重視するとともに、若手をより登用しやすい仕組みにした。40歳前後の部長などもできるだけ早い時期に実現していたいと考えている。海外勤務についても語学研修、トレーニーなども拡充し、入社10年目までに一度は海外勤務を経験することを目標としている。事務職から基幹職への転換の道もより活用してもらいやすいように、今年4月から転勤を伴わない地域限定基幹職の制度を設けたところ、興味を持ってくれている人が増えている。物価上昇以上の賃金引き上げを実行するなど処遇の改善にも取り組んでいる」(植木 美知也)