2023年12月20日

鉄鋼新経営 変化を好機に/王子製鉄社長/貴戸 信治氏/群馬の省エネ・DXに尽力/一気通貫化、工程ごとの操業状況共有

――2023年を振り返って。

「鉄鋼業全体では国内外の新型コロナウイルスに対する規制大幅緩和によるインバウンド需要の復調や半導体など滞っていた部品供給改善などサプライチェーンの修復、中国景気の回復など期待感をもってスタートした。結果は世界的なインフレの進行、中国景気の鈍化、円安・地政学的リスクによる原燃料の高騰の影響を受けたほか、国内では建築関連が人手不足や設計の遅れ、資機材の高騰などで再開発など大型物件は進捗したが、中小物件は引き続き低調で精彩を欠いた。一部の自動車関連で需要は増えたものの、鉄鋼需要全体で力強さが感じられない1年となった」

「23暦年の平鋼需要は年前半で厳しい市場環境を想定していたものの、前年実績を上回るとみていた。ただ、建築関連で人手不足や設計の遅れ、資機材高騰などが重なって鈍化。特に中小物件が低水準で精彩を欠いたため、店売販売の不振が常態化し、出荷量の減少とともに大幅な在庫調整が行われ、需要は前年を下回った。普通鋼平鋼は月間ベースで5万7000トンとなり、前年比で3%程度減少する見込みだ。コロナ影響を受けた20年をさらに5%程度下回る」。

――王子製鉄の販売量はどうか。

「23年の販売量は月間2万5000トンペースで、普通鋼平鋼需要と同様の動きとなっている。群馬工場(群馬県太田市)の稼働率は7割程度にとどまったが、圧延工場において1カ月の生産サイズ数は600から減ることなく、1サイズ当たりの生産量は減って生産性や諸原単位が悪化し、厳しい状況にある」

――鉄スクラップ価格が高止まりし、エネルギーをはじめ各種コストが増大している。

「H2スクラップ価格はトン当たり5万円強で高止まりしている。また原油高に伴う電力やガスの単価は下がらず、他の資材価格も軒並みアップし、製造コスト上昇に歯止めがかかっていない。物流の2024年問題で運送費も上がっている」

――群馬工場で推進している施策を。

「厳しい事業環境下において、群馬工場では上工程を中心とする省エネルギーの追求とCO2削減を推進すると同時に、異形平鋼や特殊鋼、二次加工などの新規需要を開拓し、DX(デジタルトランスフォーメーション)化に取り組んでいる。省エネとCO2削減は製鋼リフレッシュ対策と、操業パターンの最適化を継続実施してきたことで電力原単位を引き下げた。また生産量が減る中で製鋼圧延直送率(HR率)を優先する操業体制を取り、HR率は前年比5%程度向上し、23年後半には50%に達している。その結果、燃料原単位改善などエネルギー原単位トータルとして、省エネ法の努力目標値である年率1%削減を続けて、Sランクの13・6%まで削減。産業トップランナー認定制度のベンチマーク値であるトン当たり0・142キロ㍑を達成するなど2項目でSランク認定レベルとなったが、資機材コスト上昇分を全て吸収し切れていない。今後は7台から8台に増設する第2圧延工場の粗スタンド増強を年明けに立ち上げて早期に戦力化し、カリバーレス圧延の範囲を拡大する。これによって分割圧延などで生産性を犠牲にすることなく、フリーサイズ化で生産性とHR率を確保しながら、燃料原単位だけでなく、その他原単位も改善し、さらなる省エネに尽力する」

――異形平鋼や特殊鋼、カーボンニュートラル(CN)など新規需要の開拓は。

「一昨年、第2圧延工場に導入した圧延中に異形形状の測定が可能なオンライン断面測定機について、23年は第1圧延工場にも設置し、本格稼働に向けて準備を進めている。断面測定機が立ち上がった場合、建築・土木分野と産業機械分野から新規で製造依頼が多く来ている異形品形状の寸法をオンラインで確認でき、製造可否の早期確認が可能になる。特殊鋼は産業関連の需要家から要請が来ており、製造可否を確認中。CNについては高炉鋼材に比べて製造時のCO2排出量を減らせる電炉鋼材のメリットをアピールしている。自社で創出した製品生産に係るCO2削減量について第三者認証の取得も検討する」

「また新規需要家を増やすため、鋼材を使う需要家に加え、23年は設計事務所や不動産開発業者、最終に近い需要家も工場見学に招き、当社平鋼の使用事例などを紹介している。大幅な需要回復が見込めない中、現状のフィールドに囚われることなく、新たな需要にチャレンジするため、異形平鋼や特殊鋼以外でも、王鉄興業による二次加工の一貫効率に伴う顧客メリット創出や、電気炉平鋼の特色を含めたCNのプレゼンをさらに展開し、需要拡大を目指す」。

――DX化推進を。

「WEB発注システム『e―NET』は輸出機能の拡充やPR効果もあって95%を上回り、23年度末の100%化達成に向けて計画どおり進捗している。現在、需要家の二重入力廃止による効率化を目的に、需要家システムとのリンク機能を付加し、需要家の契約残量・在庫量や当社圧延予定日の開示、ミルシートの電子発行化など、需要家の要望を聞きながらシステム構築を進めている。出荷についても納入依頼の電子化を進め、一部需要家で試験運用を行いながら改善している」

「群馬工場ではHR率追求で一気通貫化が進み、1つの工程トラブルが他工程の操業に大きな影響を及ぼすようになった。このため、連続鋳造から圧延間の操業状況、型替に伴う圧延休止規模をタイムリーに共有できるようにした。工程ごとでどの程度の休止が発生するかなどを掌握することで、他ラインの休止時に自分の職場でロスが最も少ない最適操業が可能になるかをガイダンスする機能を設ける予定である。将来的には連続鋳造から圧延の間だけでなく、電気炉と取鍋精錬炉の工程までを加え、製鋼・圧延一貫での操業状況を全職場で確認できるようにし、生産性を一層高める」

――物流の2024年問題への対応は。

「国土交通省が策定した『標準的な運賃』を参考に、23年10月からトラック運送業者に支払う運送費を見直した。今回はベース運賃の一部引き上げと燃料サーチャージの改定を行っており、これから高速道路料金の負担なども実施していく。24年初頭でさらに見直さざるを得ず、今後、物流費の大幅なコストアップは避けられない。需要家も厳しい状況にあることは理解しているが、安定供給を継続するため、適正な物流費用の負担に理解を得るべく、丁寧に説明していく。このほか、荷役時間短縮を目的として積込み時の作業効率化や現品チェックの電子化、出荷量の平準化、高速道路や船舶および中継地の活用、指定到着時刻の緩和依頼などを進めている」

――人材の育成・採用にも取り組んでいる。

「社内で製鋼・圧延・品質・財務の教科書を作成中。現場を含めて基礎的な教育の充実を図るとともに、3年以上の組長や班長経験者の研修、現場管理職の新任教育も充実させている。また、資格昇格時には小論文作成や役員含めた管理職との面談を行う。今の立ち位置を確認し、これから何をしていくのかなど頭を整理する仕組みもスタートし、現場を含めて管理職の育成にも力を入れている。また、採用促進の一環として、会社の知名度向上を計画し、太田駅構内や電車内におけるポスター設置、バスでのアナウンスを始める。王子の魅力を1人でも多くに知ってもらう」

――24年の需要見通しを。

「足元は材料手配が進み始めているものの、先行き不透明感を拭えない状況が続いている。同時に円高進行で厚板輸入が増え、切板との競合が激しくなる懸念がある。働き方改革関連法で労働時間制約に伴う人手不足、資機材価格のさらなる高騰によって、建築・土木工事の遅延が危惧され、厳しい需給環境が続くと想定している。ただ、建設関連で今後、都市部を中心とする再開発、物流問題に対応する物流倉庫増、インバウンド回復に伴うホテル新設、CN関連への投資拡大、国土強靭化に向けたインフラ整備、本格化する大阪万博関連などが進むと期待したい。産業関連では各国のインフレや金利上昇が景気阻害要因になり、中国や欧米の景気減速も懸念されるが、自動車回復が産業全体の需要を下支えするだろう。24暦年の普通鋼平鋼需要は23年を下回ること無く、横ばいから微増を予想している」

「鉄スクラップについては需給の大幅な改善が見込めないものの、H2の発生低調や新興ヤード増加によるメーカーへの入荷減などで、23年と同様に高止りするとみている。また、円安や地政学的影響に伴う原燃料の需給不均衡で原油価格が高騰し、電力やガスの価格急騰、耐火物をはじめ資機材の値上がり、物流費上昇など大幅な製造コスト悪化も懸念される。状況が変化した際には需要家に協力をお願いしたい。いかなる経営環境下においても、需要家ニーズとしっかり向き合い、求められる製品を絶えず安定供給し、当社の特長である高品質・短納期・安定生産で製造実力ナンバーワンを目指し、評価してもらえるよう絶えず努力していきたい」

――来年度・24年度の取り組みはどうか。

「需要家ニーズを捕捉するべく、製造実力向上をさらに推進する。現在工事中の第2圧延工場粗スタンド増設工事の完遂と早期効果発揮によって、25年にはフル操業下においてもCO2削減目標 30%を達成できるよう省エネを追求する。新規需要の開拓を推進するため、さらなる品質の向上を目的に、剪断・結束前の段階における表面疵の自動探傷装置、検査ラインでの幅・厚みの自動測定を試験中で、早期戦力化を目標に掲げている。また裏面疵撲滅のため、搬送ラインの改造なども検討中で、全ての需要家に満足してもらえる品質を目指す」

「『e―NET』注文100%化を達成した後、納入依頼の電子化の利便性向上に向け、二次加工品とのひも付けを行い、製造操業支援システムを進化させて、操業変動時における最適操業の自動指示や、すでに立ち上げている購買と在庫システムを連携させるなどDX化を加速させる。難しい課題が山積しており、これまでと同じ考えでは達成はできない。一人ひとりが失敗を恐れず、何をすべきか考え、実行していくことで達成可能と考える。『Swing the Bat』(自らバッターボックスに入り、バットを振っていく)をスローガンに社員全員が挑戦し続け、『真の製造実力世界一の電炉メーカー』へ飛躍していきたい」(濱坂浩司)

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