YKKAPは新設住宅着工戸数の減少など新築分野で厳しい事業環境に晒される一方、政府の断熱改修事業を受けて内窓などリフォーム商品を中心に大きく販売を伸ばしている。2024年度には工業製品としての木製サッシの投入もうかがう。今年4月に就任した魚津彰社長に今後の事業の舵取りなどを聞いた。
――今期(24年3月期)の住宅事業の見通しを。
「住宅事業全体では14%増を見込む。新築向けは住宅メーカーが分譲住宅に移行しており平屋の増加も著しい。新設住宅着工戸数が5%減だったものの、売り上げは上期が5%増で推移した。下期も5%程度の増加で着地するとみる。増改築向けは政府の断熱改修の補助事業を受けて上期が62%増だった。特に内窓商品は4倍に伸長した。下期の増改築向けは多少減速し、通期で36%増の想定だ」
――ビル事業の通期の予想を。
「事業環境は弱含んだものの、23年がピークと捉えている。販売は新設と増改築で濃淡があった。上期の販売は手持ち物件を持っていたこともあり前年の10%増だった。特に増改築向けは政府の補助金効果などを受けて16%増で推移した。一方で下期は厳しい状況が見込まれ、ビル事業通期で4%増を想定している」
――エクステリア事業は持ち直すのか。
「上期はバルコニーやテラスなどウォールエクステリアが業界全体の出荷量で1割減少する厳しい事業環境だった。そのような中、上期実績では門扉などガーデンエクステリアが3%増で推移した一方、ウォールエクステリアは8%減だった。事業全体では前年並みを維持した。下期はガーデンエクステリアを中心に復調し、通期では前年並みの1%増を推定。分譲に注力するハウスメーカーに向けて弊社は建物と外構のデザイン提案も売り上げ増に寄与するとみる」
――産業製品について。
「重量、販売とも上期は前期並みだった。自動車関連の需要が伸びている一方、建設分野が厳しい。下期も上期と同様の事業環境で前期の水準を維持するとみる。価格改定も施したが、単価が若干下がった。値上げ前には多少の駆け込み需要も生じた」
――海外事業の進捗を。
「通期では10%増を予想する。北米は住宅・ビルとも当初は通期で1割ほどの増加を見込んでいたが、足元は非常に悪くなっており6%程度の増加を予想している。中国は従来の新設向けから改装向けに事業方針を転換しつつある。上期で6%増、通期で10%程度の増加を見通す。台湾も台北から全土に事業を拡大している。ただ、足元の市場環境は悪いながらも15%増の着地を見込んでいる。インドネシアも足元の事業環境はとても悪いが、一時的なもので今後は改善するとみており、8%増の着地を見込んでいる」
――価格改定の進捗について。
「23年までの3年間でアルミや樹脂、ガラスなどの諸資材コストの増加分は400億円を超える。直近3年間トータルの価格改定でも全ての転嫁は難しい。それでも値上げ効果は発現してきた。改定交渉途上の取引先とも丁寧な説明を継続している。価格改定により今期中に7割程度の効果と見込んでいる」
――エンゲージメント向上に努めている。
「営業部門では支店なども含めて全国でリモートワークできる環境を整えてきた。製造現場でも従業員の声を集め、休憩場所の改装や食堂の増設、生産ラインに空調設備を付けるなどの施策を進めている。社員教育では、デジタル教育や部署ごとに必要な資格の取得補助を後押しする。賃金も新卒者の初任給を底上げし、各年齢層の社員の給与も引き上げていく。女性管理職の比率も高める」
――設備投資の考えを。
「内窓や樹脂窓で進めている。24年2月に栃木の生産拠点に内窓の生産ラインを増設するほか、今年10月には滑川製造所に樹脂窓「APW430」の生産ラインも新設した。このほか、ガラス設備やカーテンウォールに関連する試験設備の投資も今後進めていく」
――24年度までの4カ年中期経営計画の進捗を。
「当初掲げた売上目標はすでに達成した。一方で来年度は減収減益も危惧している。新設住宅着工戸数の減少など厳しい事業環境の継続に加え、住宅・マンションとも増改築の補助金はあるものの管理組合などへの営業先の変更に対応する必要がある。市場環境は厳しいが、堀前社長も掲げていた増収増益による持続的成長を今後も実現していきたい」
――アルミリサイクルの取り組みを。
「『窓TO窓』に貢献する。30年にアルミリサイクル100%を掲げており、四国製造所の新たなアルミ溶解炉は9月に稼働した。稼働状況をみて、東北、九州、黒部の主要製造所の更新も進めていく。富山大学とも連携し、アルミの不純物除去の技術開発にも共同で取り組んでいる。海外に流出するアルミスクラップの利用に向けても現地業者や商社などを通じて幅広く可能性を探っている。一方でアルミリサイクル材を用いた押出製品のブランド化は現状では考えていない」
――樹脂素材のリサイクルも進めている。
「樹脂は24年社内の端材などを100%リサイクルする目標を掲げている。欧州ではサッシにリサイクル材が8割用いられている例もあり、『窓TO窓』に向けて3施策を進めている。一つは目に触れない内部のコア部材に用いる。また、アルミ樹脂複合窓の下地に使用できないかも検討している。ガスケットやインテリア商品などの部材の素材としての再利用も考えている」
――木製サッシの発売時期を。
「24年夏を予定している。構造は木とアルミのクラッド仕様だ。『APW330』複層ガラス仕様の2倍ほどの販売価格を考えている。住宅、ビル向けに檜の集成材を用いた製品を展開する予定だ。かつて樹脂窓を普及したのと同様に、10年程度で全体の2割ほどを木製窓に引き上げたい」
(増岡 武秀)