2023年12月8日

財務・経営戦略を聞く/神戸製鋼所副社長/勝川四志彦氏/次中計、成長戦略とCN加速/アルミ・銅、収益改善に全力

――下期の需要をどう見るか。

「自動車生産は半導体不足が解消されて回復が続いているが、自動車以外はいずれも低調。全体の需要量は若干減と予想せざるを得ず、当社の通期粗鋼生産は600万トンを切る見通しだ。来年度以降、EV(電気自動車)の生産台数が徐々に増える見込みで特殊鋼線材・棒鋼の需要は少し減るだろうが、モーター用のファスナーなど増える部分があり、需要の中身が変わると捉えている。(アルミ鋳造一体成型の)ギガキャストも部品点数は減るだろうが接合技術は必要であり、新しい需要を見出していく。EVは端子類の使用が増えるので銅板の需要は期待できる」

――長く低迷しているIT・半導体市場の回復のめどは。

「今年度の回復は難しく、来年度、しかも後半以降の回復を予測する声が聞かれる。ただ、足元は需要の底が見えてきた印象だ。リードフレーム向けの銅板やディスク材向けのアルミの需要は少し戻る気配が出始めている。特にディスク材の落ち込みは顕著で、今まで調整期間は長くて半年だったが1年経ってようやく底が見えた程度であり、需要低迷が長期に続いている。アルミ厚板が使用される半導体製造装置は米中摩擦が影響し需要回復の動きは見えてこないが、米国でのデーターセンター建設は利上げ収束などで徐々に再開すると予想している。半導体分野の需要は回復後に大きく増えると見ており、先行きに期待したい」

――建機の需要は低調だが他の機械系は堅調さを強くしている。

「建機の市場は東南アジアが振るわず、欧州はこれから鈍化しそうだが、北米と日本は堅調だ。中国は外資のシェア低下の傾向が直近止まっているが需要自体は弱い。当社は杭州の建機工場を閉鎖し、成都工場に集約して大きな打撃を避けたが、それでも生産能力はまだ余裕がある状態だ。他の機械系の事業は為替の円安もあり、海外メーカーと競合する製品は価格競争力が向上している。受注は過去最高水準にあり、製品の納期を考えると今後1年半は収益を高く保てる。世界的に水素やアンモニア、CCS(CO2の回収・貯留)やLNG関連の投資が非常に活発で今後も期待できる」

――上期の鉄鋼事業の在庫評価益等除く実力の利益は324億円と前年同期比、前回予想比とも上振れした。

「上期は原料価格が下がり、スプレッドの改善が想定より進んだ。当社は市況品が少なく、ひも付きの中でも特殊鋼が多いため、販売価格の改善に時間を要していたが、上期は計画通りに進んだ。下期は原料価格が上がり、スプレッドが厳しくなるため、下期の鉄鋼事業の実力利益はゼロを予想している。厚板ミルの更新による20万トンの生産減が最も大きく影響する。原料高によるスプレッドの悪化を織り込み、上期分のずれで下期の固定費が膨らむ。厚板ミルの更新工事は順調に進み、年明けに完了する予定だ。全社の通期の連結経常利益予想は鉄鋼・アルミなど素材系と建機の数量減などによるマイナスを機械と電力のプラスで補い、1450億円と前回予想通りとした」

――素材系の価格政策を下期にどう進めているか。

「鋼材の価格は主原料価格が上期に下がったことで半期ずれのフォーミュラに関したところは上がらない。原料価格は10―12月期に比較的大きく上がっているので来年度は鋼材価格を上げていくことになる。物流など諸物価分については随時転嫁をお願いしている。物流の2024年問題についてはグループ会社の神鋼物流が中心になって対策を検討している。人手不足とコストアップは相当深刻であり、工夫をしながら進めていく。アルミと銅の販売価格の改善は大きな課題だ。昨年末に一部価格は上げられたものの23年度分の反映が十分ではない。数量も減っているのでアルミと銅の収益は厳しく、価格の改善にさらに注力していく」

――海外の事業会社はいずれも市場環境が厳しいが。

「北米のプロテックは原板価格と製品価格の変動にタイムラグがあり、前年度比で大幅減益となり業績レベルは厳しいが赤字幅は縮小している。数量は維持しているので来期は黒字を目指す。東南アジアの市場は今一つ活気に欠ける。タイは自動車生産台数が目標の200万台にとどかず、鉄鋼需要の方向性がはっきりしてこない。タイのコベルコ・ミルコン・スチールは普通鋼線材が中国材の影響を受け、特殊鋼線材も自動車生産の回復の遅れが響き、苦戦している。ただ、黒字は維持しており、自動車の生産が戻れば収益の改善が期待できる」

――中国経済の減速が長引き、事業会社の状況が懸念される。

「線材2次加工など素材系の事業会社は日系自動車の販売減などを受けて生産量が減少している。ハイテン(高張力鋼板)製造の鞍鋼神鋼冷延高張力自動車鋼板やアルミパネル製造の神鋼汽車鋁材(天津)は中国資本の需要家向けもあり、生産量は劇的には減っていないが日系自動車向けがやはり減っている。この数量減を補うため地場系の販売先を開拓している。日系自動車の販売減は構造的な問題であり短期には解消されず、事業会社をどう運営していくかは大きな課題だ」

――次期中期経営計画を開始する24年度の業績の見込みと成長に向けた課題は。

「ROIC5%を確保する経営基盤を固めることができている。先行きは不透明だが、さらなる変化に耐えられる企業体質を築く。次の中期計画のテーマは成長戦略とカーボンニュートラルが二本柱となるだろうが、成長にはいろいろと尺度があり、売上高、収益性などなにを基軸とするか、議論の真最中だ。鉄鋼はCNを進める上で収益性の確保が重要になる。自動車の軽量化など、アルミの需要は長い目でみれば増えていくと考えているが、今は収益改善が最大の課題となる。成長投資をどこに振り向けるか。鉄鋼は国内で数量を追うのは難しく、海外で何ができるか。これまで各事業部門それぞれに経営資源を充てて成長を目指してきたが、これからはより焦点を絞り、メリハリのある事業展開を進める必要があると考えている」

――低CO2高炉鋼材コベナブル・スチールの新たな採用は。

「いくつか採用され、ファーストロットの8000トンに続いて、次のロットを準備しているが、まだグリーン鋼材の市場が確立しているとは言えない。自動車、建設、造船と採用が広がりつつあるが、本格的にはこれから。高炉各社がグリーン鋼材の販売に取り組んでいるので来年度以降、早いタイミングでグリーン鋼材の市場を作っていきたい」

――カーボンニュートラルに関連して直接還元鉄の需要が増え、ミドレックスのニーズにどう対応していくのか。

「ミドレックスプロセスは多くの商談を進めており、これから受注が増える見込みで来年度に期待したい。電炉化の進展によるスクラップの不足などの事象がこれから具体化してくると見られ、還元鉄プラントは建設から立ち上げまで3年ほどかかるのでこの1―2年が受注を見込めるタイミングと考えている」(植木 美知也)

スポンサーリンク