――2023年4-9月期連結経常利益は前年同期比22%減の50億円だった。
「自動車分野の需要減、半導体分野向けの需要低迷、販売管理費の増加が減益の主因。鉄鋼が2%減の27億円、鉄鋼原料が13%減の6億円、非鉄金属が65%減の5億円、溶材が12%減の3億円、唯一、機械・情報は29%増の8億円だった」
――鉄鋼、非鉄、鉄鋼原料の状況を。
「鉄鋼は単体数量が横ばいにとどまったが、鋼材価格の上昇によって7億円の増益となり、米国の金利負担増加などでグループ会社は8億円の減益となった。非鉄金属は単体が伸銅品や半導体分野向けアルミ厚板の取扱数量減などで1億円の減益となり、中国の自動車分野向けアルミパネルの取扱数量減でグループ会社は9億円の減益となった。鉄鋼原料は主原料の価格下落影響をバイオマス燃料の取扱数量効果で吸収できなかった」
――機械・情報、溶材は。
「建機部品、電池関連材料の取扱数量増が機械・情報の収益を押し上げ、溶材は海外の自動車向け材料の減少が響いた」
――通期経常利益予想を100億円(前期127億円)で据え置いた。
「主力の鉄鋼は神戸製鋼所の厚板ミル改修影響で取扱数量が減少する。一方で自動車分野の緩やかな回復が続き、国内の鋼材価格も22年度下期並みを維持すると想定し、期初予想の44億円(51億円)から上振れすると期待している。機械・情報も好調を維持し、期初予想の13億円(22億円)を超過達成すると見ている。非鉄金属は半導体分野向けアルミ厚板、中国の自動車用アルミパネルの需要低迷が続く。半導体向けは需要回復を待つしかないが、中国では電池関連分野のアルミパネル需要開拓など収益回復に努めている。非鉄は期初予想の22億円(27億円)を目指しつつ、鉄鋼、機械・情報で一部を補うことも見込んでいる。米国の金利上昇コストの販売価格への転嫁は遅れているが、1ドル130円想定の為替の円安によるプラス効果で吸収できそうだ」
――増配する。
「配当性向目標を30%に設定している。一株当たり純利益が422円となったことから中間配当を120円から125円、通期予想を245円から250円にそれぞれ修正した」
――中期経営計画(21-23年度)は、経常利益95億円以上、ROE9%以上、ROA3%以上、自己資本比率20%以上、DEレシオ1・0倍程度を目標に掲げる。
「本年度予想は経常利益100億円、ROE9・5%、DEレシオ0・9倍で達成する見込み。 自己資本比率は18%前後で、次期中計の課題となる」
――投資計画の進捗状況は。
「21年度実績は20億円。米国の線材2次加工メーカー、GBPとAWPの設備増強、中国のアルミコイルセンター、蘇州神商金属のEV対応設備増強などを実施。中国の半導体関連装置メーカーを買収して神商精密機材(揚州)を設立。国内では溶材関連子会社のエスシーウェルが溶接資機材販売事業を譲受した。22年度は48億円の投資を計画していたが30億円にとどまった。韓国の大昌鍛造と合弁でチェンナイに新設したトラック・デザイン・インディアは近く稼働を開始する。また韓国のKTNとのアルミ厚板切断加工のKTNベトナムは本年3月に稼働を開始した」
――投資は3年間200億円の計画だが、本年の予定は。
「本年度は56億円程度の見込みで、DX・IT関連の43億円を含め、3年間で149億円まで積み上がってくる。国内では非鉄金属流通、稲垣商店の全株式を譲受した。事業継承が背景にあり、同様の案件を非鉄流通、機械メーカーなどで検討している。鉄鋼、半導体加工装置などの投資案件も検討中。北関東では自動車用アルミパネルのリサイクル事業を立ち上げた」
――投資案件が増えてきた印象。
「社長就任以来、利益率を引き上げるための事業投資は不可欠と言い続けてきた。コロナ禍が長期化する中、守りつつ攻める企業文化が浸透してきた。多くの案件を検討中であり、3年間200億円の投資は視野に入っている」
――アルミパネルのリサイクル事業の横展開は。
「アルミパネルを納入した自動車・部品メーカーからリターンスクラップを仕入れ、北関東の事業拠点で破砕、選別し、神戸製鋼所の真岡工場に供給し、真岡製のアルミパネルを自動車メーカーに再度販売するクローズドループを実現した。まさにメーカー商社が取り組むべきビジネスモデル。ドイツ製の設備の選別機能もしっかり確認できた。カーボンニュートラル、コスト低減の観点から国内外でニーズが急速に高まっており、アルミサッシを含めて国内、中国でビジネスを拡大していきたいと考えている」
――中計の手応えを。
「10年後のありたい姿として描いた『明日のものづくりを支え社会に貢献する商社』の実現に向けて、『収益力の強化』『投資の促進』『商社機能の強化』をメーンテーマに掲げている。持続的成長に向けて収益力を強化し、商社機能を高めつつポートフォリオを組み変えるための事業投資を加速する好循環が回り出した。事業投資を通して付加価値を提供し、その成果を共有するというWin―Winの関係づくりも進展。最も遅れていた鉄鋼本部からも具体的な投資案件が出始めた。メーカー系商社特有の受け身の姿勢から抜け出し、コーポレートメッセージとして掲げた『Designs for Business』 を実践していく企業風土が醸成されてきた」
――次期中計以降のテーマは。
「連結経常利益は100億円の大台に乗り、ROEも10%を超えてきた。まずは経常利益150億円の安定軌道を確実なものとしたい。上場企業として株主評価を高め、東証プライム市場の基準をクリアしていかなければならない。一方で神戸製鋼グループの中核商社としての期待に応えていく必要がある。事業投資を創出する風土が定着しつつあるので、商社の原点であるトレードを再強化し、投資対象となる分野・地域を拡充することで、持続的成長軌道を描いていきたい。カーボンニュートラルの観点から、直接還元鉄や鉄スクラップなど冷鉄源、アルミ・銅など非鉄原料に関連するビジネスを強化する」
――少子高齢化が進み、商社にとって最大の資産である人材の確保が課題となっている。
「2021年の75周年を迎えるにあたり、10年後のありたい姿を描き、新中計を策定し、新人事制度も導入して社内の風土改革に着手した。トレード開拓、事業創出、IRなど商社・企業としての新たな活動は軌道に乗り出した。社員の成長なくして会社の発展はない。新人事制度を活用し、社員が高い意欲を持ち続け、能力をフルに発揮できる環境の整備を急いでいる」
――社員数は。
「連結1404人、単体561人。単体は男性383人、女性178人。うち外国籍は18人、男性14人、女性4人で、東アジア・アセアン諸国などの社員が在籍している。優秀な人材を確保するため、採用の段階でダイバーシティを加速し、教育制度を設け、人的資本の充実に努めている。女性社員に活躍してもらうことが最も有効な人材活用策となる。管理職は約210人で、うち女性は6人にとどまっている。2030年に向けて、女性管理職比率を10%に引き上げたいと考えている」
――新人事制度について。
「旧人事制度では総合職をコアスタッフ、一般職をサポートスタッフと区分けしていたが、新人事制度ではコアスタッフをグローバルスタッフに名称変更した上で、プロフェッショナル、マネジメントの二つのコースを設定した。プロフェッショナルコースを選択した社員には部下の管理など組織運営を求めず、高い専門性を追求してもらう。サポートスタッフはエリアスタッフに名称変更し、従来通りの事務実務に加えて基幹業務を兼任する地域限定のエリアエキスパートコースを設けた。エリアスタッフは122人で、モチベーションとスキルが高い社員を自薦他薦でエキスパートとして登用する制度を設け、34人が活躍している。エリアエキスパートでとくに企画実行力やマネジメント力が高い社員には管理職としての責務も負うエリアプロフェッショナルに登用する制度を取り入れた」
――採用数は。
「新卒は30人前後で推移している。キャリアは年間10人前後で、増加傾向にある。第二新卒の採用も増やしている」
――内定者の辞退が増えている。
「内定者の辞退が多いため、企業は採用予定数より多くの内定を出すことになり、内定辞退者が増えるという状況にあるようだ」
――初任給は。
「23年4月から、大卒給の24万円を25万2000円に引き上げ、同時に全体の給与体系を見直した」
――定着率は。
「3年目までの定着率は高いものの、5年目以降に3-4割が離職していくという大きな課題に直面している。業績は好調なので一時金を含めて処遇は改善している。処遇に対する不満は聞こえてこないので、キャリアプランとのミスマッチが背景になっているようだ」
――対応策は。
「入社後、デリバリ―や貿易実務などを学び、その後に海外に赴任するというキャリアパスだけでは追いつかなくなっている。社員のキャリア、研修、転勤、スキルなどのデータを一元管理・分析できるタレントパレットマネジメントシステムを導入した。役員以上が社員データを共有することで、本部を超えた人材の有効活用を図るのが狙い。ポストの公募制も導入しながら人事の透明性を図り、人事のミスマッチも防ぎながら、能力とスキルをフルに発揮してもらう環境を整えていく。上司、同僚、部下による360度評価も導入し、評価の客観性や透明性を高め、周囲の評価を個人の成長につなげるなどの工夫も重ねている」
――社内教育制度は。
「外部のオンライン教育システムを活用し、語学、経理・財務など幅広いスキルを習得する機会を設けている。就業中も月10時間までは受講できる」
――経営人材の育成も課題。
「まず母集団を作るところから始め、透明性をもって幹部候補生を選抜し、ビジネススクールに派遣するといった形を整えたいと考えている。役員についてはエグゼクティブ・コーチングをスタートした」
――物流分野における「2024年問題」が迫っている。
「当社がトラックを直接手配するウェートは1割前後で大きくはなく、大部分はメーカー直送となっている。グループ会社においては自らトラックを手配しているケースが多いが、近距離輸送が中心なので大きな影響は受けない。一方で、インフレが先行する米国ではフレート、トレーラー、人件費などコストアップの連鎖が続いており、納入先への価格転嫁を急いでいる。国内でも『24年問題』による物流費の上昇は避けられず、取引先・仕入先を含めて今後協議を重ねていく方針だ。商社機能としてはDXを活用して、例えば2次加工メーカーと部品メーカーのサプライチェーンにおける輸送ロス、欠品ロスを防ぎながら、集荷・配送回数を減らして効率化できるプラットフォームを構築したいと考えている。海外物流については部門横断で貨物を集約する事による効率化を進めている」(谷藤 真澄)