――上期の連結事業利益は1643億円と前回予想から393億円上振れした。
「前回予想から増えたのはコスト削減と販価改善が効いている。コスト削減は先行して進み、前回から50億円改善した。粗鋼生産は減ったが販売価格は国内、輸出とも上昇し、スプレッドが改善した。JFE商事、JFEエンジニアリングとも前回予想を上回り、鉄のグループ会社では電炉の業績が向上。年度で見ると鋼材加工系には大幅な動きはなく、資源価格が下がったJFEミネラルや粗鋼生産の減少を受けて構内系のJFEプラントエンジやJFE物流はマイナスとなった」
――需要は下期も期待できそうにない。
「海外市況が振るわず、特に中国は需要や鋼材市況が低い水準から上がってこない。中国の粗鋼生産は昨年や一昨年のように目に見えては減っていない。経済活動を保つ必要もあり、急ブレーキを踏むのは難しいようだ。中国の鋼材市況の回復は来年度以降と見ている。内需は増えず、高水準の鋼材輸出が続く可能性があり、そうなると東南アジアの鋼材市況も早期の回復は望みにくい。原料炭価格が9月以降上がって高止まりし、鋼材の輸出市況は下期もトン100ドルを割る厳しいスプレッドを想定せざるを得ず、鋼材輸出を減らす必要がある」
――内需も低調だ。
「自動車生産は前年度の811万台から今年度は900万台を超える水準へと回復している。一方で建築は堅調だった都心部の大型再開発案件でも資材高などの影響で時期ずれが聞かれる。建機は欧州やアジアでの建築関連など陰りが見え、産機は中国経済減速の影響で輸出向けが減少している。造船は安定しているが、需要分野ごとの増減から下期の需要は上期の横ばいと見ている」
――建設需要はいずれ回復に向かうのか。
「土木は人手不足がどう影響するかだが、国土強靭化の計画からいずれ需要は上向く。建築は低調だが、資機材や人件費の高騰によって需要構造が変わる可能性がある。2024年問題などもあり、プレハブ化で現場工数を減らす鋼構造の採用が増えるかもしれない」
――自動車はEVの動向が注視される。
「中国勢が躍進しているが、モーターの効率性などで優位な日本勢がどう巻き返しを図るか。電磁鋼板の需要増加に対応してJFEスチールは24年度上期に倉敷地区で新製造ラインを立ち上げ、下期に本格生産に入る。トップグレードの無方向性電磁鋼板の生産能力は2倍となり、その次の投資で3倍への拡張を計画している」
――輸出市況が上向くのはいつ頃の想定か。
「今の厳しいスプレッドの水準が過去に3カ月続いたことはなかったが、現時点では下期中は続くと仮定して計画を立てている。来年度については原燃料価格などロシア・ウクライナ問題や中東問題で見えにくくなっているリスクもあり、慎重に検討する。足元原料炭価格がトン300ドル超えているが経済が好調なインドが粗鋼生産を増やし、原料炭の輸入を増やしているのが要因の一つだ。さらに当社も含めた世界の鉄鋼会社が参照するインデックス価格形成の構造的問題も価格の乱高下に拍車をかけている。中国が豪州炭の購入を制限して以降、スポット取引が大幅に減った。その数少ないスポット取引や、取引がなくても気配値で日々のインデックス価格が発表されており、マーケットの需給環境を適切に反映せず過剰に変動する状態にあるのが現状だ。JFEスチールでは価格の安定化にはマーケットの流動性を高める必要があるという問題意識からスポット取引を増やし、その成約価格をインデックスプロバイダーに報告する取り組みを行っている」
――通期の粗鋼生産予想を前回予想から下方に修正した。
「単独の粗鋼生産は上期に1216万トンと前回予想からわずかに減少したが、下期は1160万トンと一段低くし、通期で2380万トン程度と前回から80万トン下方修正した。生産量は減るが、スプレッド低下の影響を受ける輸出向けを中心に減らすので、利益の前年との比較では数量・構成でプラス20億円となる」
「下期は厳しい環境が続くが、それでも利益を上げていく。国内中心に販価を改善し、収益基盤の確立を進めてきており、数量を落とす中でも通期の連結事業利益を前回通り2900億円とした。構造改革を上期に終え、下期にコストダウン効果200億円が見込める。原料炭価格の上昇や低スプレッドが続き、生産が大幅に減った中でも販価を改善し、鋼材トン当たり利益1万円をキープする。高い水準で黒字を維持でき、実力が上がってきていると言える」
――下期は上期比で粗鋼生産が減り、利益も大幅に減少する。
「下期の連結事業利益は上期から相当減る。国内は自動車向けが増えて若干プラスとなるが、海外が大きく減少する。原料炭価格の高騰で下期のスプレッドは上期比で500億円のマイナスとなり、為替もマイナスに作用する。原料炭価格が9月に上がり、1―3月の価格転嫁だけでは賄えず、来期にずれる分も含めて、スプレッドは来年度上期に取り戻していく」
――円安の影響は。
「売りと買いの差し引きだが、下期は原料など買いの方が11億円多い。1円の円安で11億円のマイナスとなる計算で販売で約40億円のプラス、購買で約50億円程度のマイナスと見ている。原料価格は高止まりし、鋼材輸出を減らしているのでどうしても買いのポジションが高くなる。一方でドル資産があり、ストックは10億円のプラスとなり、打ち消す格好だが、原料の価格はやはり安定してほしい」
――中長期計画最終の来年度は鉄鋼事業の実力の利益2600億円以上を目指す。
「当初の2300億円の目標から300億円上積みして2600億円以上を目指す。今年度は2000億円の予想だが、来年度は構造改革の効果250億円、操業改善170億円の合計420億円のコスト削減を見込み、これだけで利益は2420億円となる。今年度に急騰した主原料価格の反映の取り残し分について販価を来年度に上げていく。電磁鋼板の新ラインの立ち上げで収益性の高い製品が増え、海外ソリューションビジネスの進展も含めて2600億円以上を想定している。さらに海外市況が回復してスプレッドが改善すれば利益のさらなる上振れが期待できる」
――海外事業はインドと北米が堅調だ。
「インドの出資先のJSWスチールは好調で来年度も期待できる。米国市場をニューコアとの関係をどう進化させ、何か新しいことができるかどうかが今後のテーマとなる。電炉化を進めていく中でニューコアとの関係は非常に重要だ。米国のCSIとメキシコのNJSMに続く協業を考えていきたい。成長が続くインド市場はJSW、大きく安定している米国の市場はニューコアと組んで戦略を進めていく」
「中国はGJSSが厳しい環境の中で日系自動車以外への販売を増やすなど数量と黒字を維持し、健闘しているが他の事業会社は苦戦している。ベトナム市場は低調だが、昨年は厳しかったタイのJSGT、インドネシアのJSGIは自動車生産が増え、回復してきている」
――グリーン鋼材「JGreeX」の採用が増え始めている。
「造船用厚板、建築用厚板に続き、10月には欧州で製造される変圧器用に方向性電磁鋼板が採用された。初年度は20万トンの販売が可能でさらに採用を増やしていきたい」
――倉敷地区での大型電炉導入の時期を固めた。カーボンリサイクル(CR)高炉の研究開発も進めるが、直接還元鉄や原料炭の確保が重要になる。
「大型電炉については高炉の改修時期を迎える27年に導入する考えだが、新しい電炉で高級鋼を高い生産性で造ることができるかが大きな課題となる。UAEでの直接還元鉄の製造については大型電炉での使用に向けてしっかり取り組む。当社としては2050年以降も高炉を維持したいと考え、CR高炉と水素還元製鉄の研究開発を進めている。高品位の原料炭が必要であり、粗鋼の安定的生産のために鉱山権益の獲得など原料関連でもできる限りのことを考えていきたい」
「CCS(CO2の回収・貯留)は企業間連携によるマレーシアでの事業化に取り組んでいる。CCSは国内含め他にもいろいろと考えられ、機が熟したタイミングで事業が一気に進むと見ており、備えていく。CCUS(回収・有効利用・貯留)も水島コンビナートなどでいろいろな企業間連携を組みたいと考えている」(植木 美知也)