日本製鉄の名古屋製鉄所では、ブリキ部ブリキ工場精整検査課の松本侑子(ゆきこ)さんが、同製鉄所初の女性班長として活躍している。同製鉄所で女性現業職が初めて採用された2008年に入社。松本さんに就職活動や業務内容、ライフイベント、今後の目標などについて聞いた。
――工業高校に進学。
「高校卒業後に働きたいと思っていて、2歳上の兄が工業高校に通っていたのもあり選びました。約300人の学生のうち女子生徒は3人。クラスに1人でしたね」
――就職活動は。
「高校3年生の時に進路の先生が、『名古屋製鉄所が3交代制勤務の女性現業職採用を行っている』と声を掛けてくれて。業界については全く知りませんでしたね(笑)。新日本製鉄(現日本製鉄)という社名も。名古屋市出身ですが南へ行く機会がなく、同製鉄所がある東海市も全然知りませんでした」
――製鉄所見学に。
「お声がけいただき、夏の暑い時期に初めて見学しました。見学者コースはスラブから離れているにもかかわらず熱かったことが印象に残っています。同時に、ラインで作業する方々を見て漠然と働くイメージが湧きました」
――入社後は。
「同製鉄所の同期114人とともに入社しました。女性は私を含め4人です。配属されたブリキ工場では約200人が働いており、女性現業職は初めてで私1人だけでした」
――業務内容を。
「最終工程の出荷ラインで、精整検査、コイルの傷検査、一部製品の防錆処理、エッジ部分をカットしお客さまの注文に合わせて製品幅に切断――といろいろな作業を担当しています」
――ギャップは。
「最初は鉄鉱石を溶かしてドロドロになった熱い鉄を何かするんだろうなくらいしか考えていなかったですね。分厚いスラブが完成形だと思っていて。ブリキはコイルになっていて『こんな風に出荷するんだ』と驚きました」
――大変なことを。
「最初は女性更衣室の整備が間に合っていなかったんです。ブリキ工場内の協力会社に女性が1人いらっしゃったので、設置されるまでその方の更衣スペースを間借りしていましたね。また入社後に力仕事が多いと感じ、職場の改善をしていきました。年々体力の衰えを感じていて、力仕事が多い日は『昔は軽々持っていたのにしんどいなぁ』と思うことがあります(笑)」
――改善内容は。
「ラインでロールのゴミを取るブライドルワイパーがあるのですが、抜き差しする部分が1本20キロの鉄製の棒で15本ありまして。これらを全部3キロのアルミ製に変え軽量化しました。また男性だけが勤務していた状況では、モニターをはじめいろいろな物の位置が高くて。どんな身長の人でも働きやすいよう、ボタンなど動かせないものを除き、少し低い位置に移動しましたね。操作盤の複数のボタンを片手で押す作業は、私の場合手が小さくて届かず、同時に押せませんでした。今までとは別の押し方を職場に提案しました」
――やりがいは。
「トラブルが何もなく仕事を終えるのが一番ですね。危険予知をして先回りをし、想定通りにトラブルを回避できた時、良かったと感じます」
――女性初の班長。
「18年に班長に就きました。初の女性現業職ということもあってか、入社後『すぐ辞めないでね』と周囲から言われていて、班長になるまではやろうと決めていました。先輩後輩として接していた相手と上司部下になり、関係の難しさも痛感しました」
――悩みが。
「班長の私を受け入れフォローしてくださる方もいれば、そうではない方もいて。いろいろな考えの方がいることは理解できるので、どうやって考えの違いを埋めてチームで仕事をしていくか今も悩むことがあります。ただ、言いたいことは必ずはっきり伝えるようにしています」
――ライフイベントについて。
「班長就任時に『私は仕事優先で生きていく』と決めたので、結婚願望はないですね。よっぽど結婚したい相手に出会わない限りはないかなと。そうなったとしても仕事は続けたいです」
――業界にどう変わってほしいか。
「3交代制勤務だけではなく日中のみ、甲番限定の勤務なども取り入れ、ライフイベントに直面した方も働きやすい制度ができたらいいですね。育休・産休を経て復帰した場合、休職前と全く同じ業務には就けない可能性があります。担当していた業務に他の方が入ったら空きがないですから。難しい問題ですね」
――女性に増えてほしいか。
「男女関係なく働きたい人が働けばいいんじゃないかと。自然体がいいと思います。日本製鉄は男性のイメージが強いと思いますが、体力がないから無理ということもないです。実際に私も働けているので。一般的に製鉄所は3K職場だと思われがちですが、必ずしも全ての職場が3Kであるとは限らないことも知ってもらいたいです」
――今後の目標を。
「今はブリキ工場に後輩の女性現業職が5人います。彼女たちにも班長を目指してもらいたいです。個人的には今後の昇格や昇進のために、ラインの知識を深めたり資格の勉強を進めたりしたいですね」(芦田 彩)
鉄鋼業界で活躍する女性をはじめとした多様な人材、未来を担う人材を、随時紹介していきます。