2023年10月13日

鉄鋼業界で働く/女性社長編 インタビュー(下)/仕事の悩みに性差なし

染谷夏奈子さんは、千葉県の鉄リサイクル業者、信和商会の第4代社長。2021年に前社長の母から経営のバトンを手渡された。現在は浦安鉄鋼団地の業界団体の代表幹事も務める。女性社長としての素直な思いを聞いた。

――働きながら出産を2回経験した。

「最初の出産は27歳。かなりぎりぎりまで働いていました。さすがにトラックに乗ったり現場に出たりはしなかったのですが、事務所にはいました。一緒に働いてくれている夫(染谷光拡さん、信和商会取締役)や母をはじめ、周りが本当にサポートしてくれて。社長が母親だという環境も影響していると思います。長男を産んでから2カ月ほど産休を取りました。その後、子供を事務所に連れていきながら仕事をしていたのですが、先輩の女性社長から千葉県浦安市の子育て支援政策が充実していると聞きまして、すぐに浦安の保育園に行って書類をもらって入園させました。次男の子育ても周りの助けが大きくて、家族や社員に本当に感謝しています」

――女性が鉄スクラップ業で働くにあたって。

「苦労はもちろんあります。でもそこに性差はなく、仕事をする上で誰でも当たり前にある悩みや苦労ですね。確かに男社会だとは思いますが、働くにあたっての違和感はあまりなかったです。幼少期からうちで働くおじさんやお兄さん、お客さんたちとずっと接してきましたから。でも大前提として、私が今この業界でやっていけているのは母や他の女性の企業・団体のリーダーたちが築き上げてきた歴史の上にいるからだという理解をしています」

――鉄鋼業界の女性の働き方は。

「私自身は自分の性別がどうだからという点をあまり意識したことがないのですが、そうはいっても男性社会の中にいると特別視してもらう場面が多いです。私自身の内面は、男性には負けたくないと思う気持ちと、男性にしかできないこともあると冷静になる気持ちの両方が常にある状態。なるべく自分でできる仕事は自分でやりたいですが、無理をして事故などにつながるのを危惧してもいます。『女が現場で働く』ことにマイナスのイメージを持たれてしまうのが嫌だからです。意外に思われるかもしれませんが、鉄スクラップの仕事は他の方が思うほど力仕事が多いわけではないんですよ。ユンボやクレーンがスクラップを運ぶので、別に人の力で持ち上げるわけではないですし」

――この業界で女性が働きにくい面は。

「あります。トイレ問題です。私も経験があるのですが、鉄鋼メーカーさんに鉄スクラップの納品に行くと女性用のトイレが現場にないことがあります。一応は男女兼用だけれども、男性比率の高さから実質男性トイレになっているようなケースもあります。衛生管理や個室の扉の大きさなどが男性目線で良しとされていて、女性のことが考えられていないと思うことがありました。ただ最近は女性専用のトイレを備えるメーカーもあって、時代が変わってきているようにも思います」

――22年には浦安鉄鋼団地協同組合の若手組織「U―ing」の代表幹事に就いた。

「歴代の代表幹事は素晴らしい方ばかり。私に務まるか不安でいっぱいでしたが、やるからにはやってやるんだ、という気持ちでお受けしました。最高のメンバーに恵まれて、皆さんが積極的に意見を出してくれたり相談に乗ってくれたりするおかげでなんとかやっていけています。ひとまず、10月15日に浦安鉄鋼団地で開催する『ゆ~ゆ~カーニバル』を成功させたいですね」

――最後にメッセージを。

「この記事を読む方の中には、後継者問題に悩む経営者やそのお嬢さんがいらっしゃるかもしれません。当社の場合は、母から娘に事業が引き継がれて、しかも夫が同じ会社で働いてくれて協力して仕事をしているという点でレアケースだとは思うのですが、こんな例もあるんだなと知っていただければうれしく思います」

(松井 健人)



鉄鋼業界で活躍する女性をはじめとした多様な人材、未来を担う人材を、随時紹介していきます。

スポンサーリンク


九州現地印刷を開始

九州地区につきましては、東京都内で「日刊産業新聞」を印刷して航空便で配送してまいりましたが、台風・豪雨などの自然災害や航空会社・空港などの事情による欠航が多発し、当日朝に配達できないケースが増えておりました。
 こうした中、「鉄鋼・非鉄業界の健全な発展に寄与する専門紙としての使命を果たす」(企業理念)ことを目的とし、株式会社西日本新聞プロダクツの協力を得て、12月2日付から現地印刷を開始いたしました。これまで九州地区の皆さまには大変ご迷惑をおかけしましたが、当日朝の配達が可能となりました。
 今後も「日刊産業新聞」「日刊産業新聞DIGITAL」「WEB産業新聞」によるタイムリーで有用な情報の発信、専門紙としての機能向上に努めてまいりますので、引き続きご愛顧いただけますよう、お願い申し上げます。
2024年12月 株式会社産業新聞社