千葉県の鉄リサイクル業者、信和商会の第4代社長を務めるのは染谷夏奈子さん。前社長で母の長谷典子さんから2021年に家業を引き継ぎ、取締役を務める夫の光拡さんとともに日々業務にまい進している。今の仕事内容やこれまでの歩みを聞いた。
――業務内容は。
「多岐にわたります。当社は限られた人数で事業をやっていますので、事務作業もしますが、自社の工場内で鉄スクラップの積み込みや荷下ろしをしたり、大型トラックに乗って引き取りに行ったりします。月の3分の1くらいは外にいるイメージです。現場にいるのは好きですね。特に納品の時。電炉メーカーさんや湾岸ヤードの在庫状況を自分の目で見ると足元の相場観の参考になります」
――父が第2代社長。
「スクラップ屋の子として生まれ育ったので、子供の時からスクラップがとにかく身近にありました。昔のわが家は工場を兼ねていましたので、自室の窓をガラッと開けたらスクラップの山が下にあるような状況が当たり前。でも昔は継ぐ気は全くありませんでした。私は3姉妹の長女なのですが、子供の時から父(長谷五郎さん、第2代社長)に『別に無理して継がなくていいから。継ぎたい子がいれば継げばいい』と言われていたので、プレッシャーを感じることなく自由に生きていましたし、家業にとらわれることもなかった」
――家業への意識が変わったのは。
「きっかけは父の突然の死です。くも膜下出血でした。私は当時大学生。あまりに突然のことで動転しましたが、初めて継ぐことを意識しましたね」
――大学卒業後は自動車の販売会社に入社。
「母(長谷典子さん、第3代社長、現会長)に、内定をお断りして家業を手伝おうかと相談したのですが『一度外に出て社会勉強したほうがいい』と助言をもらいました。生前、父が私の内定を喜んでくれていたのもあって入社を決めました。仕事は営業でした。本当に何もかもが刺激的。1日何十件もの飛び込み営業をしてかなりの度胸がつきましたし。自動車のディーラーの仕事って多いんですよ。お客さま相手のサービス業の一面もあるし、受注、発注、納車一通りの事務作業を全部自分で完結させる事務業の面もある。学べることが多くて充実した3年間でした」
――前職は3年で退職した。
「契機は結婚でした。25歳の時です。職場から遠い家に引っ越して帰宅時間が本当に遅くなってしまって、身体的にもしんどくて。ちょうどその頃、母が切り盛りしている会社の仕事も大変そうだったので、(信和商会に)入ろうという考えに至りました。母に相談したら『うちに入るなら、まず大型トラックの免許とクレーンを操縦する資格を取りなさい』と言われて。母がトラックを駆る姿をずっと見ていたので、特に驚きはしませんでした。むしろ『父と母がやってきたことを、今度は私がやるんだな』という気持ちです。務めていた会社を辞めて、資格の勉強をしてから信和商会に入社しました」
――社長就任は一昨年。
「44歳の時に当時の社長から『指令』が下ったんです(笑)。本人は『私も年をとっちゃったから』と言っていました。私自身も子育てが落ち着いた頃だったので良いタイミングだと思いました」
(松井 健人)
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