2023年9月22日

非鉄新経営 新たな成長に向けて/日本軽金属HD社長/岡本一郎氏/複合的技術で商品展開/地産地消軸に欧州市場も視野

日本軽金属ホールディングスは2025年度に22年度比で3倍以上となる経常利益300億円を目指す。5月に発表した中期経営計画「23中計」で明らかにした。10月に自動車部品の新会社「日軽金ALMO」を設立。半導体関連では日軽パネルシステムの下関工場の増強も進める。成長市場を取り込み、社会価値の創出に寄与する事業を展開する。攻めの経営のかじ取りを岡本一郎社長に聞いた。

――足元の事業環境をどうみる。

「上期の事業環境は当初の想定以上に改善したため、4―9月期は上方修正した。地政学リスクは先行き不透明だが、原燃料価格の下落基調やコロナ禍からの経済活動の再開は追い風となっている。自動車は国内では生産台数回復もあり、出荷は徐々に盛り返している。一方で中国の自動車関連事業は、日系メーカーが停滞しており厳しい。半導体関連も予想より伸び悩んでおり、今期の復調は難しいとみる。このほか、化成品や二次合金などは堅調に推移している」

――トラック関連の事業は復調がみられる。

「国内のトラック向け製品は回復が著しい。前期はトラックの排ガス規制用の半導体不足の影響でシャシー供給が滞った。足元ではシャシー供給が回復し、日本フルハーフはフル操業だ。ただ、価格改定の進捗には時間差が生じるため、収益面では下期以降の改善を予想している」

――クリーンルーム向け製品はどうか。

「日軽パネルシステムは非常に好調だ。半導体生産は経済安全保障の観点で国内回帰が進んでいる。熊本や北海道で計画されている国内の半導体工場に向けて、大量の製品を供給する予定のため今後の期待も大きい。ただ、このような大型物件の収益計上は工場竣工後のため、四半期程度の時間差が生じるとみる」

――「23中計」で掲げる社会的な価値を創出する商品・ビジネスへの考えを。

「従来通り素材を事業の根幹と捉える一方、今後の事業環境を踏まえると、素材の販売数量だけで持続的に成長するのは難しいとみる。グループの技術力を生かし、個々の事業部の商品だけではなく、複合的な技術を盛り込んだ商品展開を進めていく必要がある。顧客の求める価値実現を目指す。」

――自動車部品の新会社「日軽金ALMO」設立の背景を。

「今後の環境対応車の市場拡大に向けて、顧客側で数多くのタスクが見込まれる。それらに対して、一つの解決策をかたまりとして提供できる。市場環境を敏感に察知しながら商品開発を進める。パワーコントロールユニットの冷却器やバスバーなど車両の中身に使用される部材を念頭に、設計も含めて圧延品や鋳鍛、加工品を組み合わせた一つのかたまりとして商品を提供していきたい。グループ間のシナジーを活用しながら顧客の求める価値を創る」

――今後の半導体関連事業をどう考える。

「中長期的には自動車関連の事業と同様の方向性で進め、半導体に関連する事業間の情報交換を活発化させる。日軽パネルシステムの半導体工場向けのクリーンルーム用ノンフロン断熱パネルは非常に安定している。24年度に操業予定の下関第二工場には25億円を投じ、10%の能力増強で今後の需要増に備える。過剰設備にならないよう市場環境を見極めて下関工場以降の増強を今後考えていく」

――半導体製造装置向け製品の展開を。

「足元では厚板需要は低迷しているが、24年以降の回復を見込む。需要回復に備えて、安定供給できる体制を整えている。短納期、少量対応の強みなども生かす。薄板や押出形材でもグループ内のシナジーを発揮していきたい」

――価格転嫁の進捗状況を。

「高止まりする原燃料価格は当社の自助努力の範囲をはるかに上回っている。上昇分に対しては相当分の負担を顧客にお願いしている」

――今後の国内の流通再編の考えを。

「必要に応じて検討していく。双方にとってメリットがあれば進める。8月に日軽産業がエーシーシーの事業を譲受した。エーシーシーとは長年取引があり、非常に良い企業だ。今後の相乗効果に期待している」

――海外事業の経営方針について。

「基本的な考えは地産地消だ。弊社の技術で海外の人にも喜んでもらいたい。海外の安価な人件費や日本国内への安値での製品展開は考えていない。自動車部品メーカーとして、全世界に商品供給できなければならないと考える。日本、中国、タイに加え、今後は米国の新拠点も生かしていく。欧州市場も将来的には視野に入れていく。」

――米国事業をどう進める。

「米国で稼働する新工場が橋頭堡となる。足回りの鍛造品の生産を24年度に開始する。将来的には鍛造ビジネスだけでなく、必要に応じて他の部品ビジネスにも事業の幅を広げていきたい。既に持つリサイクルとパウダー・ペーストの工場も活用していきたい」

――今後のインド市場開拓の考えを。

「インド市場の成長に期待している。二次合金の日軽エムシーアルミは第三工場を24年2―3月ごろに立ち上げる。従来は合弁だったが、今回は初めてマジョリティーの出資で展開する。リサイクルビジネスで存在感を示し、段階を踏み、将来的には展伸材などにも事業を広げていきたい」

――中国事業の方針とは。

「人口も多く、マーケットととして引き続き有望だ。政府の方針で事業運営が左右される面もあるため、慎重な舵取りが欠かせない。直近2―3年で選択と集中を進めてきた。今後も最適な事業展開を探る」

――タイ事業について。

「東南アジア戦略のハブとして引き続き重視していく。コロナの影響もあり、景気が停滞していた。まだ本調子ではないが、徐々に復調の兆しがみられる。圧延と熱交換材、パネル、トラック架装、リサイクルの各工場を持っており、今後のインド事業の拡大でも要所となる」

――カーボンニュートラル推進室を新設した。今後の環境施策とは。

「メタル事業部が中核的な役割を果たす。従来は個別の事業部門が省エネなどに対応してきた。材料やスクラップ調達で社内横断的な施策を担う。同業他社と異なり、リサイクルを担う二次合金事業を持つ強みもある。この知見を活かし、今後のリサイクルビジネスの方向性を決めていく」

(増岡 武秀)

スポンサーリンク