――需要が当初想定をやや下回り、生産に影響している。
「自動車は半導体不足の影響が和らぎ、生産は増えているが、建設など自動車以外の分野が振るわない。2023年度の粗鋼生産予想は610万トンと前回予想(620万トン)より低めにしている。上期が前回比で10万トン減り310万トン、下期は300万トンと前回通りとしているが、状況をよく見ていく。建設分野の不振は溶材も影響を受ける。大手の鉄骨加工業者は都心部の再開発など仕事量を持っているが、中規模案件や地方案件が低調なために中小の鉄骨加工業者は仕事量が少ない。資材高や人手不足が影響している建設分野の回復は目途が立っていない。造船分野は手持工事量は多いが人手不足から建造が大きく増える状況ではない。人手不足の課題に対しては当社の半自動溶接機の評価が高く、商機をつかんでいきたい」
――IT・半導体分野が不調でアルミ製品や銅板の販売が減少している。
「北米は利上げを受けてIT大手がデータセンターや倉庫などの建設を中断し、その影響で当社のディスク材の生産が大幅に減っている。以前は需要が下がっても3カ月程度で市場が回復するサイクルだったが、今回は様子見が長期化している。半導体製造装置の需要が減り、アルミ厚板や銅板の生産が減っている。下期は少し上向くかもしれないが、本格的な回復は来年以降になりそうだ」
「建機は中国の需要が落ちている。中国国内の建機のシェアは中国系8割、外資系2割で足元はシェアが変わらず落ちついているものの、需要自体が増えるのは数年先になりそうだ。欧州は金融引き締めの影響で来年1月から少し下向くとみており、欧州向けは下期から生産影響が出てくる可能性がある。北米と東南アジア、日本は依然堅調だ」
――数量が減る中で通期の連結経常利益予想を1450億円と前回から150億円上方修正した。連結純利益は1200億円と過去最高を予想している。
「原材料価格の下降局面の中で鉄鋼メタルスプレッドが拡大した。それから電力事業の利益が燃料費調整の時期ずれ影響の改善によってさらに増え、IT・半導体向けの落ち込みをカバーしている。機械系は円安を追い風に順調に受注を重ね、増益傾向が続く。電力を除くとマイナスとプラスの要素でほぼ相殺し、電力の増益分を上乗せする構図だ」
――鉄鋼の価格改善が上期に浸透した。
「鉄鋼他社に比べ市況分野が少なく、ひも付き分野の比率が高いのでどうしても価格交渉のタイミングによって価格改善は遅れてしまうが、お客様に製品価格の是正についてご理解をいただき、上期は価格が上昇した。下期は原料価格の下落を反映するが、諸物価の上昇や為替影響などについて別途価格の改善をお願いしている。昨年は不十分だったアルミ板やアルミのサスペンション、アルミ押出品、建機の価格改善を23年度の重要な課題とし、一定程度進んでいる。22年度の値上げについてはほぼ浸透し、23年度の値上げ分は決着していないものがあり交渉を継続中だ」
――下期の鉄鋼事業の利益は200億円と上期より40億円増える見通し。要因は。
「粗鋼生産は上期より少し減り、メタルスプレッドは原料価格の影響で一時悪化するが、コスト削減や国内外の関係会社の増益、在庫評価益でプラスとなる。スプレッドの一時悪化は下期にかけて原料価格が少し上がると想定しているためだが、鉄鋼減産が見込まれる中国の動向次第で状況は変わってくる」
――アルミは上期が赤字。下期に黒字化を目指しているが。
「エネルギーフォーミュラ化や他製造コストアップ分の価格転嫁が効いてくる。データセンター向けディスク材の販売が減少した影響を拡販含めた数量確保や製造コスト減でカバーし、下期の黒字化に向けて努力を続ける」
――海外事業は地域によって濃淡がある。
「中国の鉄鋼関連の事業会社は日系や欧米系の自動車の販売減少の影響を受けている。需要家やその先の日系企業に広くヒアリングしているが、短期的には需要が戻らない観測も聞かれ、構造的な問題となれば手を打つ必要がある。今のところ、年内は需要が戻る気配はない。アルミパネルを製造する神鋼汽車鋁材(天津)の生産量は鋼材の事業会社ほど減っていないが、やはり日系や欧州系の自動車向けが減っている。一方で機械系の事業拠点は太陽光発電向けにポリシリコンの需要が伸びており、使用される非汎用圧縮機が好調だ。北米事業は鋼材市況の戻りで赤字幅が縮小している」
――東南アジアはどうか。
「タイのコベルコ・ミルコン・スチールは数量を確保しているが、普通鋼線材の市況が下がり、黒字ながら収益はやや低下している。建機はタイの需要が堅調でシェアを取り戻している。インドネシアも需要は堅調だ。建機では作業条件が厳しいところで展開できるK―DIVE(遠隔操作システム・稼働データ活用)を順調に広げている」
――今年度の配当性向の目安を30%程度に引き上げた。
「元々、中期経営計画の最終年度(23年度)に配当性向を見直すと伝えてきている。もう少し早く変更できればよかったが、今回増益の見通しとなり、配当の増額を予定した」
――低CO2高炉鋼材のコベナブルスチールの採用が進んだが、今後の販売見通しは。
「昨年秋にスタートし、順調に知名度を上げている。自動車、建設、造船分野で採用され、次の仕込みの活動を進めているところ。まだこれからの商品であり、カーボンニュートラル社会の実現に向けて需要家の理解を得ながら政府や鉄鋼業界全体でグリーンスチールの市場を作っていく必要がある」
――オマーンでの直接還元鉄の工場建設を計画し、FS(事業化調査)を始めているが進ちょくは。
「港湾系など周辺含めてFSを進めている。販売先についてもいろいろなところに声がけをするなど各種の検討を並行して進めている。年度内にはある程度のめどをつけたいと考えている」
――自動車メーカーが製造工程に導入を計画するアルミ鋳造一体成型のアルミギガキャストで鋼材使用が減少する見込みだが、対策は。
「ギガキャストについては量産技術が十分に確立できているとは考えていないが、ファスナー類などが減る可能性はある。一方で大型部品となるので新たなファスナー類が必要になるかもしれない。必ずしもマイナスだけでなく、プラスの面もある。特殊な接合技術が必要となればファスナーとしては付加価値が高いものになる。まだ、どのような製品が減り、何が増えるか見えない。トータルの鋼材使用は減るだろうが、今のところそう大きな影響を受けるとは見ていない。状況を注視する」(植木 美知也)