2023年9月6日

日本アルミニウム協会の取り組み/水口誠会長/資源循環推進へ対策案/半導体装置向け来年度伸長

日本アルミニウム協会は会長任期を今年から2年に変更した。6月にはアルミの資源循環に対する包括的な取り組みを行う「サーキュラーエコノミー委員会」を設立。脱炭素社会実現に向けたアルミの資源循環を主導する。他方で原材料、エネルギーなどのコスト増の適正な価格転嫁にも業界全体で臨む。水口誠会長(神戸製鋼所副社長)に今期の舵取りを聞いた。

――会長任期を今年から2年にした背景を。

「協会を取り巻く環境変化が大きい。脱炭素社会実現に向けたアルミ資源の循環や適正な価格転嫁の実現など、アルミ業界が長期的な視点で取り組むことが求められる課題が出てきている。従来の1年の任期では対応が困難になっており、今期から会長の任期を2年に変更した」

――今期の脱炭素に向けた取り組みとは。

「6月に圧延、サッシ、二次合金の会員企業が所属するサーキュラーエコノミー委員会を立ち上げた。アルミスクラップの国外流出が近年急増しており、22年は43万7000トンのスクラップが輸出された。仮にこの全量を国内で使用したとすれば、日本の総排出量の0・4%強にあたる460万トンのCO2削減に寄与する。アルミの国内でのリサイクル利用が進展すれば、日本全体の脱炭素に大きく貢献できる」

――海外のアルミ業界は脱炭素化をどう進めている。

「米国、カナダ、欧州の各アルミニウム協会と定期的に情報交換を行っている。各国・各地域でアルミは貴重な金属資源とみなされており、域外への流出防止と域内でのリサイクル利用を図る政策が取られている。鉄鋼・電力産業と同様に、アルミ産業もCO2排出量が多い産業と位置付けられている。国際市場での日本のアルミ産業の競争力低下を防ぐため、関係機関と連携を進めていきたい」

――アルミ業界のグリーン・トランスフォーメーション(GX)とは。

「グリーンな地金調達と国内のスクラップ循環率向上の2点が欠かせない。海外からグリーン地金を購入するのも一案ではある。しかし、グリーン地金は取り合いになると考えられ、資源循環に向けた仕組みづくりを重視したい。新たな循環システムの構築には初期投資が必要なため、政府の支援などを得ながら進めていきたい」

――サーキュラーエコノミー委員会ではどのような議論を進めているのか。

「委員会では、アルミの資源循環を推進する具体的な対策案をまとめようとしている。リサイクル技術や設備開発の内容を検討し、展伸材の再利用時を想定した合金成分の標準確立や、LIBS(動的レーザー誘起ブレークダウン分光法)などの分析手法を用いたスクラップ分別といったプロセス開発も協議している」

――適正な価格転嫁普及にも継続して取り組む。

「適正な価格転嫁は引き続き大きな課題だ。昨年は会員企業に対してアンケート調査を行った。今年もフォローアップのための調査を実施する。昨年末の調査結果と比較した分析内容も示したい。供給網混乱や地政学リスクなどで国内全体の物価は上昇基調だ。アルミ業界はこれまで地金価格を除いた加工賃の大幅な変動の経験が少なかった。足元の事業環境の厳しさに加え、エネルギーコストや物流費などの上昇も続いている。そのため、サプライチェーン全体でコスト負担の適正化を求めていきたい」

――今期の自動車向け圧延品の需要環境をどうみる。

「自動車向けは回復基調だ。半導体などの部材不足解消を受けて生産台数が持ち直し、5月ごろに潮目が変わった。それまでは翌月、翌々月の生産台数計画の下方修正が相次いだが、今年度は安定的な増産が期待できる。今年度の生産台数はコロナ禍以前の900万台には届かないが、圧延品出荷は2月以降、前年同月比プラスで推移している。特にトラック向け押出材は5月、6月とも前年同月比4割を超える増加を記録した」

――アルミ缶材は減少基調。

「一番の要因は、コロナ禍の行動制限解除による外出機会増加で、家飲み需要が減少したこととみる。物価高も響き、アルコール飲料向けが減少している。今年度はマイナスが懸念されるが、長期的にはカーボンニュートラルの観点から、優れたリサイクル性が認識され、アルミ缶の需要は増えると期待する」

――半導体製造装置向け厚板はどうか。

「出荷減が著しく、今年度中の需要回復は厳しいとの見方が多い。スマホやパソコンなど電子機器需要の停滞などにより、電子機器に使用する半導体の生産調整が続いている。ただ、新たなCPU搭載機種の登場や生成AI向けの需要拡大などで、データセンター向けを中心に24年度の半導体製造装置の売上は今年度より3割伸びる試算もある。厚板の需要回復にも寄与するだろう」

――建材向けも出荷減が続く。

「新設住宅着工数の減少に加え、樹脂サッシの普及によるアルミ使用量の減少などが大きい。今後も動向を注視する。25年の大阪・関西万博に関連する会場周辺のインフラ整備でアルミ需要が生まれることに非常に期待している」

――リチウムイオン電池(LIB)、コンデンサー向けの箔は。

「国内自動車生産の回復に伴い、車載用のLIB箔は回復基調だ。一方でパソコン需要は低迷しており、民生用は戻っていない。コンデンサー向けもリチウムイオン電池向け同様、需要低迷が続いている。ただ、5―6月の2カ月は両分野ともプラスに転じており、今後も動向を注視する」

――自動車材のアルミ化は進んでいるか。

「当初の想定よりアルミ化の進展は遅れている印象だ。現状では上位グレードの車種を中心に採用されている。自動車メーカーはEV開発に注力しているため、軽量化に人員が回しにくくなっていることも一因とみる。ただ、長期的には自動車向けの展伸材の需要増を想定している」

――技能実習制度にアルミ圧延・押出製品の製造が加わる。

「厚生労働省の専門家会議の審議の結果、7月に省令改正が施行された。正式に『アルミニウム圧延・押出製品製造職種:引抜加工・仕上げ作業』が対象に加わった。監理団体を通じて外国人技能実習生の募集が可能となる。アルミ協会に新たに外国人技能試験センター(仮称)を設置し、会員企業への説明などを含めた運営の準備を進めている」

――1月からのアルミ板の輸入品目番号(HSコード)細分化で何が明らかになったか。

「3000系、5000系、6000系の合金別の数量が新たに把握できるようになった。1―6月実績は、3000系が2万4000トン、5000系が1万トン、6000系が7000トンだった。厚さ0・35㍉以下の3000系は韓国、タイの2カ国からの輸入が多い。2ヶ国で全体の9割を占めており、缶材向けとみられる。5000系は中国からが圧倒的に多いほか、6000系は韓国からの輸入が多い。引き続き、動向を分析・注視していきたい」

(増岡 武秀)

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