――まず2023年度見通しから。
「23年度の受注・売上は総じて予定通り進んでいる。機械事業部門の売上高こそ2480億円から2420億円に下方修正したが、経常利益は190億円から220億円に上方修正した。ROIC(投下資本利益率)も10%を超えている。機械需要が比較的好調な上、円安傾向にある事が大きい。円安によって競合する欧州勢に対し競争力が高まった。利益率もアップしている。円安は海外からの物品購入にはマイナスだが機械事業にとってはプラス要素の方が多い。機械関連市場そのものもロシア・ウクライナ情勢でエネルギー価格が高騰、欧州ではLNG需要が伸び、圧縮機、熱交換器の需要が増えている。LNG船の建造も伸展、搭載する圧縮機、気化器の需要が増加している。逆風が吹いている機種は少ない」
――24年度も好調が続きますか。
「23年度も好調な受注を見込んでおり、その売上が立つ24年度の業績も良好とみている。」
――主要分野の取り組みについて。エネルギー・化学分野は。
「この分野では主に非汎用圧縮機、気化器が使用されるが、LNG、液化水素、アンモニア関連で伸びる。石油化学が徐々に減少する一方、アンモニアなど新エネルギーは徐々に増えていく。現段階では両方で需要があり、双方の需要をしっかり捉える。ただ水素、アンモニアが事業として成り立つボリュームになるのはまだ先の話だ。欧州などでは水素等の大型設備の投資などが実行されており、これらに使用される圧縮機、気化器などの需要に対応するとともに技術の向上に取り組む。水素、アンモニアに切り替わった段階ではしっかりと案件を刈り取れるよう、実証、実績づくりを進めたい」
――一般産業分野は。
「ゴム混練機などタイヤ・ゴム機械、汎用圧縮機、製鉄機械を扱うが、タイヤ・ゴム機械の中国需要は、タイヤの供給過剰により陰りが出ている。逆にインドはタイヤ需要の増加で堅調だ。インドにはタイヤ・ゴム機械製造のKIMIを擁し、コストセンターとしてここを中心に日本の高砂製作所、米国のKSBIの3拠点で連携し、インド、東南アジアをはじめ世界のタイヤ需要に対応する。鉄鋼・非鉄金属関連は電炉が元気なので改造や老朽化設備の更新などを長期的に取り込む。汎用圧縮機は三浦工業との提携で徐々に伸びている。一般産業分野は劇的には伸びないまでも徐々に増えていく」
――新分野は。
「半導体検査装置を伸ばしたい。本年4月にシリコンウエハーの検査措置などの製造技術を持つコベルコ科研を機械事業部門の所管とした。コベルコ科研が開発、神鋼がモノづくりに軸足を置き、良い協業体制を敷いて半導体分野で業容を拡大する。高砂ではクリーンルームを建設、検査装置の生産体制を整えた。全固体電池では電極と電解質を密着させる製造工程で、我々の等方圧加圧装置(IP装置)の需要を期待している。全固体電池の開発で自動車や電池メーカーから実験用などで引き合いを戴いている。コベルコ科研も電池の評価技術を持ち、この分野も新ビジネスにつなげたい。全固体電池が実用化されればIP装置や評価技術などを生かし、我々が生産プロセスに参入できると期待している」
――2030年度で事業規模3000億円、経常利益300億円達成へ向けて着々と施策を遂行しています。
「新分野での新規事業を育成、エネルギー・化学分野ではカーボンニュートラル(CN)、水素関連事業で展開。一般産業分野も徐々に伸ばし、3000億円達成につなげたい」
――課題は。
「為替が振れても大きく崩れず、収益を上げられるよう筋肉質な事業体にする必要がある。機械事業部門はメニューが多く、互いに補完し合う体制を固めていく。これまで製造は日本の高砂を中心に考えてきた。しかし、海外拠点はいずれも機種ごとに分かれて運営されている。米国には非汎用圧縮機のKCA、タイヤ・ゴム機械のKSBIと生産拠点を持つが、これらをもっと有機的に活用する必要がある。当該機種に限らず、他の機種も含め、どう機械事業部門で効率的、効果的に活用していくかが課題だ。KCAで非汎用圧縮機以外のストックビジネスを展開したり、インドのKIMIを拡張し、タイヤ・ゴム機械以外の機械事業部門の他の機種を移管したりというようなことを具体化していく。高砂でモノづくり全てを対応していては費用が膨らみ、納期も長くなってしまう。高砂の必要な機能を厳選し、マザー工場として、どうしていくか考える。海外拠点の活用度を高めれば為替変動にも耐えられ、納期も短縮できる」
――実行は来年度からの次期中期経営計画で。
「次期中計で海外への機能・技術移転などを検討し、進めていく。このため1年半前に大幅な組織改正を行い、従来の機種毎の縦型の組織に、機能毎の横串を通す組織改編を完了した。加えて、印のKIMIは第1期拡張工事でタイヤ・ゴム機械の生産能力を拡大しており、第2期拡張工事に向けタイヤ・ゴム機械以外のどの事業を展開するか検討している。韓国のKALAは元々潤滑油ユニット製造の専用工場だったが、別工場でLNG船用圧縮機の配管の組立も行っていた。今回、新たに大型の工場を購入し、2カ所の工場を1カ所に統合することで、これらの製造能力の増強を狙う。今年度内に移管を終える予定で、スペースには余力があり、新工場でタイヤ機械、圧縮機のメンテナンスなどストックビジネスも考えている。次期中計で変革をより鮮明にする」
――ストックビジネス拡大もポイントに。
「機械本体を売れば、その後のアフターサービスなどストックビジネスも重要となる。中国が市場も大きくキーと言えるが自前主義が強く、アフターサービスは入り込みにくい。中国でどうアフターサービスを組み入れる仕組みをつくるかが重要となる。中国のお客様の中には自前でメンテナンスを行って不具合を起こすよりも、当社の純正部品で修理し、安定生産を継続することを優先する事業者もあり、こうした事業者の見極めを行っている。併せて拠点をどうするか検討中だ。中国の非汎用圧縮機製造のKWCは地産地消の展開を進めており、ここをアフターサービスの拠点にどう展開するかも思案している。」
――非汎用圧縮機の展開は。
「17年に高砂で非汎用圧縮機用の大型試運転設備を建設し、大型ターボ圧縮機市場に参入したが、需要は計画したほど伸びていない。ただCNで水素、アンモニア関連の新規需要が見込まれるほか、非汎用圧縮機の大型化が進んでいる。引き続き開発に注力し、バリエーションを増やし、競合に負けないよう戦略的に展開していく。当事業部門の収益のベースは非汎用圧縮機、樹脂機械などで、これらに新機種を加え、収益基盤を強めると共に、他の機種を育て補完できる体制を構築したい」
――グローバル展開では、グローバルサウスの存在も増しています。
「インドは市場が大きく、ボリュームがある。技術を現地に移管し、早期に生産体制を拡大する必要がある。すでに欧州勢は動いており、我々も早めに手を打つ必要がある。次期中計では方向性を定め、各拠点をどうするか決める。投資も優先順位をつけ、守るべき機種、新たに展開する機種とメリハリをつける。半導体なども現地生産が拡大すると予想している」
――中国はカントリーリスクを考慮する必要があります。
「中国では汎用圧縮機は現地で組立のみを行っているが、非汎用圧縮機はKWCに加工技術を移管し、中国国内向けに展開している。足元では太陽光発電向けにポリシリコンの需要が伸びており、使用される非汎用圧縮機も好調で利益も出ている。中国向けの売上は、機械事業部門の地域別売り上げ構成比で20%程度を占める。中国でも水素関連の投資が増えているが、まだ石油化学分野での投資も続いている。機械メニューは汎用圧縮機に少し陰りが出ている程度で、その他はそれ程落ちていない。が、中国は国策として国産化を進めており、競争が激しくなっている。鉄鋼や自動車など他産業を見ると中国企業が発展、拡大し、中国市場を席捲している。機械系もいずれそうなるとシミュレーションしておくべきだろう」
――M&Aなど新たなアライアンスも検討することに。
「当然、検討していく。17年に買収したIP装置の世界トップメーカー、スウェーデンのクインタス社は順調に伸びている。全固体電池のほか、EV化でセラミックベアリング向けに需要も出ている。中国では大型案件が出ているほか、昨年には食品用高圧処理装置に参入、横型HPP超高圧処理装置の初号機を中国企業から受注した」
――30年度目標へ向けて次期中計は重要ですね。
「50年のCN社会の実現に向けて、30年の段階では世の中の方向性は固まっているだろう。水素の時代が到来するかどうかー。欧州では積極的な投資が実施されており、この間に技術を高め、実績をつくる必要がある。次期中計では力を入れる機種と、5ー10年後に成長を見込めない機種とを峻別し、発展する機種を強化していきたい。事業拡大へ向けて人、モノ、金を配分し、併せて合理化、DX活用を進め、収益を伸ばす。人の採用、育成も適正を見て進める。個々人のスキル・力量を把握した人材マップをつくり、また、人材をローテーションし幅広い経験を積ませていくよう育成計画の見直しに着手した。海外の拠点とともに人材をどう活用していくか考えていく」