2023年8月29日

安全衛生大会・名古屋開催に向けて/竹越徹・中災防理事長に聞く/新たなゼロ災運動を発信/安全重視、愛知の取り組みに注目

中央労働災害防止協会は第82回全国産業安全衛生大会・名古屋大会と緑十字展2023を9月27―29日に名古屋市のポートメッセなごやで開催する。大会のテーマは「名古屋の地で掲げよう 安全・健康の旗印」。大会に向けての意気込みやアピールポイントの他、教育機関や海外労災防止機関との連携など同協会の新たな活動について竹越徹理事長に聞いた。

――名古屋大会にかける思いを。

「今年は中災防がゼロ災害全員参加運動を提唱して50年目を迎える。50年前の第32回大会の開催地は名古屋であり、これもご縁。この50年に小売業はじめ第三次産業の就業者の増加や労働力の高齢化など産業構造、就業構造、さらに人々の就業意識が大きく変化した。労働者の健康管理、健康づくりを経営的視点から考える企業も増えてきた。50周年を機に一切の労働災害を許さず『人間中心の職場づくり』『人づくり』を目指すゼロ災運動の原点に立ち返るとともに健康づくり、コミュニケーション力向上などの視点を理念に加えるなど今後を見据えた新たなゼロ災運動を発信する。個人的には『シン・ゼロ災』としてゼロ災運動を活性化させ、大会を盛り上げていきたい。すでに参加の申し込みが多く寄せられ、最終的にはコロナ禍前の1万人の大台を超えそうだ」

――プログラム内容と特徴は。

「初日の総合集会は『ゼロ災運動50周年記念講話』で新たな運動の普及に関する講話を予定し、特別講演はスポーツ庁長官の室伏広治氏に登壇いただく。2、3日目の分科会のプログラムの見どころは愛知労働局が官民協働で取り組む『安全経営あいち』についてのシンポジウムや『化学物質の自律的な管理における保護具使用』をテーマとしたパネルディスカッション。それからカレーハウスCоCо壱番屋創業者の宗次德二氏、ジャパン・リスキリング・イニシアチブ代表理事の後藤宗明氏、ほめる感動経営コンサルタントの中村早岐子氏など各界でご活躍の方々に講演していただく。さらに愛知県下各労働基準協会役職員による迫真の労働劇『パワハラ防止劇 大事な社員を会社嫌いにさせないために』を上演する」

「緑十字展は開催史上最大の1万平方㍍の展示面積に過去最多の200社、850ブースを超える企業・団体が出展する。物流の2024年問題を背景とした特別企画展『防ごう!フォークリフト災害』は注目の一つ。日本産業車両協会、陸上貨物運送事業労働災害防止協会の協力を得て無人搬送台車の実演展示を行う。フォークリフトなど運搬車両に係る労働災害防止に役立つ機械・器具、技術などを提供する13社・30ブースの企業・団体が出展する」

――労災の発生状況・傾向や大会で訴えるポイントは。

「22年の労働災害発生状況によると死亡者数は過去最少だが、休業4日以上の死傷者数は過去20年の最多。転倒や腰痛など労働者の作業行動に起因する災害の増加に歯止めがかからない。労働力の高齢化、特に中高年齢の女性労働者の増加が主要因と言われる。人手不足の中、効率的かつ短期間での納期が求められ、働く人に負担がかかっていることも背景にあると思う」

「今年は厚生労働省の5カ年計画『第14次労働災害防止計画』の初年度にあたり、安全衛生対策が経営や人材確保の観点からもプラスになるとの理解が進めば、事業者が自発的に安全衛生対策に取り組むことが期待でき、安全衛生管理を経営の観点からポジティブに捉える傾向が強まると思う。先に述べた『安全経営あいち』はリスクアセスメントを通じた安全管理が生産性や品質、原価、納期、士気、環境を同時に向上させ、さらに企業価値向上につながる経営手法。地元愛知で安全管理を経営課題として捉えた先進的な官民協働の取り組みに注目いただきたい」

――教育機関との連携で学生に対する安全衛生教育の普及活動に力を入れている。

「教育機関で学生が職場の安全衛生を学ぶ機会が減ってきている。全国で年13万件以上の労働災害が発生している中でまだまだ安全衛生対策の促進が必要だが、産学の連携がうまくなされていない。一つの要因として教育機関で安全衛生を教える先生が高齢化や退職などで減少している。学生への安全衛生教育のために今年度から安全管理士の派遣を通じて大学と連携した安全衛生教育の普及促進に努めている。5月に九州工業大学での安全衛生コーディネーター制度の運営に協力し、教育カリキュラムの一部について当協会の安全管理士の講師を派遣した。名古屋大会に学生を招待しており、今後も様々な大学に声を掛け、このような取り組みに注力していく」

――海外進出企業の安全衛生分野のニーズに応える活動も行っている。

「当協会は従来から海外進出企業向けの安全衛生教育や安全衛生診断、好事例の情報交流会を現地で実施している。さらなる取り組みとして25年にバンコクで現地の政府や安全衛生関連機関の支援をいただき、日系企業の方々に向けた安全衛生大会を計画している。また、学生の40%が日系企業に就職するという泰日工業大学に安全衛生に関する授業の実施や中災防の全国大会をインターンシップとして活用する提案をし、こちらも実現に向けて検討を進めている」

――前大会は社用車のアルコールチェックや農作業の安全に焦点を当てたが今回は。

「フォークリフトを起因とする労働災害が毎年多く発生し、重大災害に至るものも少なくない。物流の2024年問題によって非熟練オペレーターの増加や自動運転フォークリフト導入による荷役作業の自動化など新しい災害発生要因の増加も懸念され、喫緊の課題となっている。今大会では『フォークリフトに起因する労働災害発生状況および安全技術の取組みについて』をテーマに陸上貨物運送事業労働災害防止協会と日本産業車両協会による講演を企画し、特別企画展『防ごう!フォークリフト災害』を併催する。農業の安全衛生も注目している分野であり、先にはなるが札幌での開催を予定し、道内の農業法人や農機メーカー、農協などを訪問して情報収集を行っている」

「化学物質の自律的管理への対応は引き続き非常に関心の高いテーマであり、自律的管理への事業場の取り組み事例や厚労省による特別報告、独立行政法人労働者健康安全機構の城内氏による講演、専門家による保護具に関するパネルディスカッションを予定している」

――DXやダイバーシティなど新しいテーマの講演は。

「デジタル技術を活用したツールの導入や安全衛生に関するデータ管理の一元化、画像判別AIによる保護具の適正使用などDX推進の好事例を発表する。従業員の健康面で行動変容が見られた事例の発表や『コロナ禍、DXがもたらす職場の変化と働く人のメンタルヘルス』と題した講演を行う。ダイバーシティは南森町CH労働衛生コンサルタント事務所代表の辻洋志氏に『合理的配慮』を主題に講演していただく。分科会では高年齢者や女性、外国人などにとって働きやすい職場づくりに取り組む事業場の取り組み事例を発表する。リスキリングに関する講演も予定し、日本ではじめてリスキリングに特化した非営利団体のジャパン・リスキリング・イニシアチブ代表理事の後藤宗明氏に『スキルの可視化から始めるリスキリング』をテーマにお話いただく」

――海外進出企業の支援について少し詳細を。

「中災防では海外、特にアジアに拠点を置く海外進出企業の安全衛生活動の支援も進めている。海外では単純に日本で培った安全衛生対策をそのまま現地に持ち込んでもうまくいかない。現地の文化や習慣、働く方の考え方に併せて安全衛生対策をカスタマイズしていく必要があるが、特に進出したばかりの企業などはこういったノウハウがなくうまくいかない。今年7月にも現地の関係機関に赴き、大会開催の計画を説明してきた。関係機関の方々から支援・協力をいただける旨心強い言葉をいただいた。25年の大会のプレイベントとして今年11月22―23日にタイの日系企業の安全担当者などを対象に第4回日系企業安全衛生担当者情報交流会をバンコクで開催する。今後とも国の支援をいただきつつ、海外進出企業のニーズに応える事業を展開していく」(植木 美知也)

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