2023年7月25日

商社のグローバル展開 海外戦略/メタルワン 北村京介社長/市場対応型、北中米に照準/パートナー戦略、越で次の一手

――「中期経営計画2024」における海外戦略から。

「三菱商事と日商岩井(当時)の鉄鋼製品部門が2003年1月に事業統合して以来、海外主要地域で自動車、電機、建機などの需要家と鉄鋼メーカーとの間のサプライチェーンを維持・強化してきた。海外で、現地法人・駐在員事務所・支店を17カ所、事業会社を33社展開している。メタルワンの強みであり、とても重要な経営基盤であるが、21・22年度のように海外の鋼材価格が上昇し、需要が盛り上がる中、加工・物流能力の範囲でしか利益を享受できなかった部分もある。中期経営計画におけるテーマが『変革』と『成長』であり、強みを持つ『顧客対応型』のビジネスモデルをブラッシュアップしながら、建材・インフラ関連など『市場対応型』のビジネスモデルを上乗せすることで収益基盤を拡充し、成長軌道を描いていく。海外市場における地産地消が加速する中、現地法人、支店、駐在員事務所については商流拡大、新規事業開拓、アンテナ機能など期待役割を明確に設定し、新たなアプローチを開始している」

――ターゲットは。

「北中米を最重要地域と位置付けており、とくに米国は鋼材流通の機能と存在感が評価され、利益率が高く、M&Aも盛ん。人口増加が続くため経済の懐が深く、カントリーリスクも相対的に低く、鋼材需要は安定し、鋼材価格も高位にある。バイデン政権のインフラ投資の行方、エリアごとの特性などを見極めながら市場対応型のビジネスに積極的にチャレンジしていく」

――投資スタンスを。

「資金、人材を含めた経営資源は限られている。顧客対応型ビジネスは既存事業の機能強化策を推進する。市場対応型ビジネスモデルを立ち上げるにあたっては、これまで志向してきた自己完結型のみならず、それぞれの国や地域で大きな存在感を持つ現地企業と一緒に事業を創出する『パートナー戦略』を選択肢のひとつとして臨む。スタンスとしては、市場対応型、新規成長ビジネスへ軸足を移す」

――市場対応型・パートナー戦略の第一弾はベトナムとなった。

「ベトナムのナム・ファットグループは薄板・厚板、ステンレス・線材、物流、造船など幅広く事業を展開する鉄鋼コングロマリット。同グループの中核企業で、ステンレス冷延・鋼管製造や鋼材加工を手掛けるスチール568社と合弁で北東部のクアンニン省に建材・製造業向けコイルセンターを開設することで本年2月に合意した。スリッター・レベラー各2基の体制で、今夏から秋にかけて操業を開始する。ナム・ファットとは『パートナー戦略』として第2弾、第3弾の施策を展開し、ベトナムの伸びる需要を捕捉していく」

――トレードと事業会社の運営を担う事業部の海外戦略を。

「海外ビジネスを主に手掛けているのは鉄鋼貿易・エネルギー事業部、グローバル事業部、線材・特殊鋼・ステンレス事業部の3事業部。鉄鋼貿易・エネルギー事業部は、鉄鋼貿易ビジネスユニット(BU)、エネルギープロジェクトBUで構成される。鉄鋼貿易BUは、ベトナムのコイルセンターに続く『パートナー戦略』を追求していく。米国フロリダ州に拠点を置く鋼材トレーダー、スチール・リソーシズ・インク(SRI)とは三菱商事時代の約30年前から取引を続けている。広い顧客接地面積を持つSRIをパートナーとするビジネスチャンスも探っている。エネルギープロジェクトBUは、再生可能エネルギー、CCS(CO2回収・貯蔵)関連のビジネスチャンスを探っている。米州、欧州の地熱発電所向け鋼管、CCSや水素・アンモニア製造・輸送関連の鋼管などの需要を株主会社とも連携しながら捕捉していきたい。本年1月には米国のカリフォルニア州に本社を構えるクリーン・エナジー・システムズ(CES)と低炭素・脱炭素分野での業務提携で合意し、株式転換権付の融資を実施した。CESは脱炭素エンジニアリングのスタートアップ企業で、製鉄プラント等から排出されるCO2などのガスをエネルギーとして活用する独自技術を保有している。CESの技術を活かしてグリーンスチールの普及を後押しし、鉄鋼業におけるカーボンニュートラルにも貢献していく」

――グローバル事業部の取り組みは。

「鋼板国際BUが北米のコイルプラスとブラジルのソリューション・ウジミナスを、海外自動車・電機BUはそれ以外の海外サービスセンターをそれぞれ管理している。北中米2社、南米1社、中国5社、タイ3社、インドネシア2社、フィリピン1社、マレーシア1社、インド2社の計17社が39工場を展開。自動車メーカーを中心に、比較的強い顧客基盤を持ち、ユーザーとメーカーを結ぶサプライチェーンの機能強化に注力している。北中米でコイルプラスが10工場、メタルワン・スチールサービス・メキシコ(MOSMEX)が3工場をそれぞれ展開し、増床、設備投資を行いながら需要構造変化に対応している。コイルプラスは冷延・表面処理鋼板などを扱い、対応品種を拡大しながら存在感をさらに高めていく。メキシコはUSMCA(米墨加協定)を背景とした現地における米国向け製造業関連需要対応策を進めている。中国はMOSAC5社がハイテン鋼板など、EV関連需要の捕捉を急いでいる。ASEAN、インドは地産地消の動きに対応して非日系企業とのビジネスを拡大していく」

――本年4月、グローバル事業部内に新設した「海外事業開発室」のミッションは。

「10人の専任者を配置し、おもに北中米における市場対応型ビジネスの創出に注力している。グリーンスチール、建材関連など10数件の事業構想案が上がってきており、これからショートリスト化に入る」

――線材・特殊鋼・ステンレス事業部は。

「線材・特殊鋼BU、ステンレスBUで構成され、海外市場対応を進めている。自動車用ファスナーの在庫販売を行うナイファストが米国、ブラジル、インド、ハンガリー、カナダ、メキシコに6拠点を展開し、DXを活用して業務効率化を図りながらグローバルビジネスを加速している。ASEANでは、アイアン・ワイヤ・ワークス・インドネシアの冷間圧造用鋼線製造事業が軌道に乗っており、横展開も考えていきたい」

――地域別の活動について北中米から。

「北中米はグループ社員が約1600人で、うち駐在員は約30人、拠点・事業会社が8社ある。持株会社のメタルワン・ホールディングス・アメリカ(MOHA)の他、トレーディングを行うメタルワン・アメリカはシカゴ、デトロイト、ヒューストン、マイアミ、ナッシュビル、メタルワン・メキシコはメキシコシティ、アグアスカリエンテス、モンテレイに営業拠点を持つ。コイルプラスは米国に加え、メキシコ、カナダに展開し、経営陣を含め従業員の現地化が先行している。メキシコには鋼材加工センターのMOSMEX、カナダには、鋼管問屋のカンタックがある。自動車用ファスナーの在庫販売を行うナイファストは米国・カナダ・メキシコで展開。パナマに持株会社のスチール・ホールディングス・アメリカがあり、エルサルバドル、メキシコなどの鋼板、鋼管、鋼製建材などの事業会社に出資している。今後は海外事業開発室による、成長戦略投資の早期実現に期待。鋼管ビジネスでは、OCTG分野で高い評価を得ている『メタルワンネジ』による水素・アンモニア製造・輸送分野への本格参入を目指し、カンタックも水素など新たな分野にチャレンジしている。MOSMEXにはシンガポールにあったコイルセンターの電磁鋼板加工設備を移設しており、需要動向を見ながら、新たな投資も検討していきたい」

――南米は。

「南米は約1900人で、うち駐在員は約5人、拠点・事業会社が4社。現地法人のメタルワン・ブラジル、合弁コイルセンターのソリューション・ウジミナス、厚板溶断のメタルワン・スチール・プレート・プロセッシング・ド・ブラジル、ナイファスト・ブラジルがある。国内景気は縮小気味だが、コロナ禍が落ち着き、経済活動も再開し始めている。資源大国であり、すでに薄板、厚板、ファスナーなどの事業基盤を持つので、カーボンニュートラルをキーワードにビジネスチャンスを探っていく」

――東アジアは市場変化が急ピッチで進む。

「東アジアは約1400人で、うち駐在員は約20人、拠点・事業会社が14社。上海、広州、天津、香港、そして台湾に現地法人があり、コイルセンターのMOSACは天津、上海、武漢、仏山、広州の5拠点、厚板溶断のSMOPなどがある。高周波熱錬との懸架バネ製造合弁、建材総合流通、CH鋼線・ソーワイヤの製造販売などの合弁事業も行っている。自動車分野を中心に大きなリスクマネーを張っているが、日本の数十倍の速さでEV化が進展しており、日系自動車メーカーの動向も睨みながら慎重に事業構造転換を図っていく」

――インドは中長期の鉄鋼需要拡大が見込まれている。

「インドは約900人で、うち駐在員が約10人、拠点・事業会社は5社。現地法人のメタルワン・コーポレーション・インディア、厚板溶断加工のIMOP、コイルセンターのマヒンドラ・スチールサービスセンター、マネサール・スチール・プロセシング、ナイファスト・インディア。三菱商事、旧日商岩井の時代から事業を継続しており、強い事業基盤を持つ。現在は自動車・電機・建設機械いずれも外資系企業が製造業のメインプレーヤーなので、『顧客対応型』のビジネスを強化しつつ、5―10年後を見据えたEV関連需要、インフラ・建材系ビジネス、現地製造業への対応策としての『パートナー戦略』も展開していく」

――インドは日本を抜いて世界第3位の自動車市場となった。

「インド市場は年間300万台規模に拡大し、さらなる成長が見込まれている。外資系では、マルチ・スズキが4割のトップシェアを維持し、拡張計画も進めている。国内・輸入材を問わず、メタルワングループを含めた国内の加工・物流機能を活用しながら、部品メーカーに対してのサポートも含めた安定供給体制の維持・強化に努めていく。現地のマルチ・スズキのショールームを訪問したが、約15台の新車が展示されており、人気の高さを改めて確認した」

――厚板事業も好調。

「IMOPは立ち上げに苦労したが、チェンナイの本社工場がフル操業を続けている。中国の建機市場は外資系から民族系へのシフトが先行しており、インドもいずれ現地化の波が訪れることを想定しつつ、ビジネスチャンスは逃さないようにしたい」

――欧阿中近東は。

「欧阿中近東は約55人で、うち駐在員が約10人、拠点・事業会社は4社。現地法人のメタルワン・ドイツやメタルワンUK、ドバイ駐在員事務所、事業会社はナイファスト・ハンガリーがある。欧州はカーボンニュートラル関連でも新たなビジネスが数多く立ち上がってきている。デュッセルドルフ、ロンドンのアンテナ機能をフルに活用して最先端の情報を把握しつつ、欧州発グローバル事業の可能性を追求する」

――ASEAN・大洋州は幅広く展開する。

「ASEAN・大洋州は約2200人で、うち駐在員が約30人、拠点・事業会社は15社。現地法人のメタルワン・タイ、メタルワン・ベトナムやメタルワン・インドネシア、マレーシアのクアラルンプール駐在員事務所、フィリピンのマニラ支店がある。事業会社はタイのコイルセンターのMSAT、プレス部品を製造するDMET、サイアム・ハイテック・スチールセンター、フィリピンのコイルセンター、MMスチールサービス、インドネシアではメタルワン・スチールサービス・インドネシア、スチールセンター・インドネシア、溶接鋼管製造のインドネシア・スチールチューブ・ワークス、線材二次加工のアイアン・ワイヤ・ワークス・インドネシアがある。タイはいすゞ対応のオペレーションを効率化、ベトナムはナム・ファットとの事業を拡充していく」

――22年3月期は連結純利益が415億円となり、リーマン・ショック前の最高益を更新した。

「鋼材価格の上昇、国内外子会社の業績好調、不採算事業からの撤退を含めたポートフォリオ見直しの成果などが寄与した。鋼材の取扱量は1622万トンで前期比121万トン減少し、鋼材単価はトン17万円で3万7000円上昇した。連結対象会社は12社減の104社で、直接連結先80社のうち黒字会社は71社、赤字が9社だった。弊社の機能を発揮しきれていない会社、機能を終えた会社についてはパートナー、ステークホルダーと協議して撤退してきた。コロナ禍前に約25社あった赤字会社は9社となり、赤字幅は二ケタ億円から数億円に縮小。継続する事業会社は総じて堅調に推移し、とくにメタルワン・アメリカ、エムエム建材、玉造などが好調だった。中国の景気後退など不確実性は高まっているが、今期は前期に近い好収益維持を目指しつつ、中長期の成長軌道を創出するため、一定のリスクを覚悟した上で、投資案件を経営判断していくことが課題となる」

――グローバル人材の育成も課題。

「中期計画において、人事政策を重点課題に位置付けている。安定採用を続け、ダイバーシティも意識的に進めているが、構造的な人材不足によりパッチワーク的な人事異動が蔓延している。人材計画会議を立ち上げ、中長期の視点での各事業部の要員設計を前提に人材を育成し、人材を配置していく。コロナ禍が収束しつつあるので海外研修を再開。事業会社、孫会社を含めた連結ベースでのグループ人材の活躍の場も広げたいと考えており、メタルワン特殊鋼、住商メタルワン鋼管などグループ企業社員の海外派遣を増やしている。海外においては地産地消が浸透している中国、米国などにおける現地スタッフの育成、登用も本格化している」(谷藤 真澄)

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九州地区につきましては、東京都内で「日刊産業新聞」を印刷して航空便で配送してまいりましたが、台風・豪雨などの自然災害や航空会社・空港などの事情による欠航が多発し、当日朝に配達できないケースが増えておりました。
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2024年12月 株式会社産業新聞社