豊田通商グループのネクスティエレクトロニクスは、ロボットによる自動化などスマートファクトリーを体験できる「スマートファクトリー・オートメーション・名古屋ショールーム」(名古屋市中区ラウンドテラス伏見8階)を開設した。3台の産業用ロボットが自動で経路を見つけ、自由自在に動き回る様子を見て、製造業の未来の姿を体験することができる。今回、同社のショールームを訪れ、実際にスマートファクトリーを体験した。
同社は2020年に代理店契約を締結したリアルタイムロボティクス社が持つ「誰でも、簡単に、ぶつからない」自動経路生成のテクノロジーによって、動作経路をマニュアルでプログラミングすることなく協働作業を実現できるソフトウエアを開発。製造現場での採用拡大を目指し、製造業が集積する名古屋市内にショールームを今春から開設している。
ビル8階にあるショールームに入ると、それぞれ違うメーカーの産業用ロボット3台が配置されたロボットセルが目に入ってくる。そこでは2台のロボットがねじ締めの模擬動作を、もう1台がカメラでねじの締まり具合を確認する動きを、素早く行っている姿を見ることができる。
同社の担当者は「最大のポイントは各ロボットが動作の経路を自動でシュミレーションし、ぶつからない最短の経路を作っていること」と語る。従来はエキスパート(熟練者)がマニュアルで経路を教示していたが、同社の技術を用いることでその工程が不要になり、大幅な時間短縮を実現している。
セル内には板などの障害物も設置されているが、各ロボットはそれらをスムーズに避けながら作業を行う。ロボットの動く様子は、シミュレーション画像でリアルタイムに再現され、モニターにも映し出される。
今回の技術には、各ロボットがぶつからないための2つの制御技術が用いられている。一つが動作経路を事前にシュミレーションして作ってしまう技術だ。最初にすべての経路を作成することで、スピード感のある動きに繋げている。
もう一つがリアルタイムの動きの中での空間予約だ。ロボットが次に行く空間を予約し、他のロボットがその空間を通る必要がある場合は、前のロボットが通過するまで待つなどの作業を自動で行うことができる。
事前にさまざまな経路を想定しているため、待つよりも早いと判断すれば、遠回りでもロボットが自動的に別の経路を選択することができる。その際、経路の選択だけで済み、経路作成の計算が不要なため、判断の時間がごく短時間で済むメリットがあることも、作業の高速化につながっている。
作業の変種変量も、その場で簡単に行うことができる。記者も実際にロボットのねじ締めの順番を変更してみたが、タッチパネル式のモニターをタッチ操作するだけで順番を簡単に変更できた。非常停止した際にも安全に規定の位置に戻る経路をボタン一つで指示でき、非常時の作業復帰までの時間も大幅に短縮できると感じられた。
今回の技術では最大で16台のロボットまで対応でき、自動車やエレクトロニクス産業の溶接工程や組立工程などで活躍が期待できる。また、人の作業をロボットに置き換える際、ラインが通常よりも伸びてしまうことが多いが、同社の技術を用いればラインを伸ばすことなくロボットを配置でき、生産のリードタイムを抑えることができる。担当者は「固定式だけでなく移動式のラインにも対応できる」と自信を見せる。
現在、一般に使用されている協働ロボットは動きが遅く、作業エリアも限られるが、将来的には同社の技術に3Dカメラなどを設置して詳細に空間を把握する能力を与えることで、ロボットが人と共にフルスピードで協働作業を行うことが期待されている。
その実現に向けて、安全認証などのハードルもあるが同社では「技術的にはすでに可能な段階にある。協働ロボット活用に向けた一つのブレークスルーになる」と先を見据える。
今回の技術に関するトレーニングは、1週間程度の研修を受講するだけで取り組めるようになるなど短期間での習得が可能だ。そのため新人エンジニアなどでも容易に操作を覚えることができ、人材活用の面でも効果が期待できる。
現在、日本の製造業では約40万台のロボットが稼働しているといわれている。同社では「3―5年以内に、全体の1%に当たる4000台にシステムの導入を進めていきたい」と意欲を示している。
今回の技術は製造業の生産現場のこれまでの常識を覆す力を秘めていると思わせてくれた。人とロボットの協働は、労働人口不足を招いているわが国にとって欠かせない技術だ。同社のショールームで課題解決のヒントが見つかるかもしれない。
(服部 友裕)