鉄鋼専門商社で、支店長として日々まい進する女性がいる。興亜産業九州支店(所在地=福岡市博多区)の小山孝子さんだ。同社初の管理職として課長を経験。女性社員による会議などを機に、さらに働きやすい業界になるための模索を続けている。女性が働くことへの考えや次世代への思い、今後の展望などを聞いた。
――管理職打診を受け、考えが変わった。
「プレッシャーや悩みが多い一方で、管理職に就けば後輩ら次世代の目標になれるのではないかと。上から切り開いていかなければ……そんな思いも同時に抱きました。いざ課長になると、部下を育てることで自分自身の見直しができ、スキルアップにつながっていると気付きましたね。また男性の上司には話しにくいけど女性だと相談しやすい、という社員もいるようです。現在は福山営業所に課長の女性がいるほか、他支店に課長代理や主任の女性が複数在籍。女性管理職とその候補が少しずつ増えています。スキルアップを求める女性の励みに、そして結婚した後輩や部下の味方になれたらなと思っています」
――支店長として活躍している。
「配属先である九州支店には現在、男性3人と女性3人、計6人の社員がいます。開設時の2倍近い人数になりましたね。昨夏には九州支店の管轄として、北九州営業所も立ち上げました。支店長になってからは男性社員の指導や話し方について考える機会が特に多いです。新規開拓など自分が経験したことのない業務が多い中で指導しなくてはなりません。女性目線で仕事を見ているのも今までの支店長とは違うと思うので、過去に先輩方がどのように指導をされてきたのか参考にしています。しっかりしないと! と思う日々です」
――他企業でも女性支店長は少ない。
「就任して3年目ですが、今でも『珍しいね』と声を掛けられますね。会合に行くと他に女性がいなくて目立ってしまうことも。海外の会合は3分の1から半分以下くらいが女性だと他社の方から聞いたことがあります。早く日本にもそんな時代が来たらいいなと思いますね」
――女性が働くことについて。
「この業界は仕事で求められるものが男女関係なく厳しいです。最近では鉄の若者離れが起きているように感じますね。事務職も現業職も……。長く見てきましたが、女性に限定して考えると、結婚・出産はもちろん介護についても遅れているイメージがあります。女性が家庭と仕事を両立して活躍するには、風通しの良い環境づくりが必要だと思います。以前は結婚したら退職する風潮がありましたが、興亜産業では社長が女性活躍にすごく力を入れていて。13年くらい前から社内制度を少しずつ改良し、女性社員が増加しました。今では産休・育休を経た女性社員は1年ほどで全員復帰していますよ」
――制度が変化している。
「女性が家庭と仕事を両立しやすくなるよう、5―6年前から、管理職を含む全拠点の女性社員を集めた会議をみんなで開くようになりました。全員のスキルアップを目指し、オールマイティーに業務をこなせるようにするにはどうしたら良いかなど話しています。また育休明けの女性社員が不安にならないよう声掛けを働きかけたり、子育て中の女性社員から『子供が突発的に熱を出すことが多い』と言った悩みが上がった際には、有給の取りづらさなどについて話し合ったりしていますね。新型コロナウイルスの影響により社会全体でリモート勤務が定着しつつありますが、確立されればより働きやすくなるのではないかなと。これらの内容は全社員に共有しています」
――会議の内容は多岐にわたる。
「管理職になると、一般の女性社員とは働き方の状況も変わってきます。実際に子育て中の女性管理職もおり、その点も含めて、『できないことを探すのではなく、できることを探そう』と心がけて話し合いをしています」
――女性に増えてほしいか。
「どんどん増えてほしいですね。管理職の女性ももっと必要だと思います。そのためには環境が継続的に整っている会社であることが必要です。結婚や育児、介護が両立しやすくなれば、女性が働きやすく感じ、増えていくのではないでしょうか」
――業界にどう変わってほしいか。
「昔から男性社会という印象が根付いているので、変えていきたいです。女性の柔軟さ、柔らかい雰囲気が男性の強さと合わされば、さらに良い業界になると思います」
――今後の目標を。
「業務をこなすのはもちろんですが、自分が女性ということもあって、興亜産業の女性社員全員を最優先に守っていける存在になりたいです。女性社員のお母さん的存在として、チャレンジ精神を持って下の子たちを引っ張っていきたいですね」(芦田 彩)
鉄鋼業界で活躍する女性をはじめとした多様な人材、未来を担う人材を、随時紹介していきます。