2023年6月20日

鉄鋼新経営 新たな成長に向けて/JFE条鋼社長/渡辺敦氏/品質向上、省エネ投資推進/姫路に次世代製鋼電源導入へ

――前期(2023年3月期)を振り返って。

「単独経常利益は22年3月期の10億7000万円に対して92億6000万円になり、大幅増益となった。建築向け鋼材需要は主要向け先である中・小規模物件向けの回復が鈍化。一方で、鉄スクラップ価格の高止まりやエネルギー購入価格の大幅上昇、また副資材など諸物価が高騰し、厳しいコスト環境を余儀なくされている。このコストアップ分に対応するため、販売価格改善を顧客にお願いしながら、安価鉄源の最大活用などに伴うコスト削減、安定生産に注力した。また形鋼、異形棒鋼ともに販売数量を一定水準確保できたことで、収益改善に繋がったと考えている」

――前期の取り組みは。

「収益を確保するため、適正販売価格の設定と出荷数量の確保に力を注いだ。形鋼やビレットを積極的に輸出し、豊平製造所と東部製造所で手掛ける異形棒鋼で韓国産業規格(KS規格)取得に取り組んだ。またカーボンニュートラル(CN)に向けた活動の一環として、省エネルギー推進や非化石電力活用、高い生産性の追求を目的とした設備投資計画を策定した。22年4月1日付で業務イノベーション推進部を新設し、ITを活用した業務改革とデジタル改革を検討している。さらに『設備状態・操業状況の見える化』を目指して、姫路製造所でデータ伝送・蓄積などの基盤整備を充実させており、姫路以外の4製造所への横展開も検討中だ」

――今期(24年3月期)の市場見通しを。

「異形棒鋼はエリア別で強弱があるものの、鉄筋コンクリート造の建築着工床面積が前期比プラスで推移しており、建築確認申請から出荷までのタイムラグを平均9カ月とした場合、国内需要は下期以降でプラスに転じるとみている。ただ、建設現場や鉄筋加工業者の労働力不足などで物件の進捗が遅れ気味で、想定していた出荷数量を確保できておらず、懸念している。鉄骨需要量は足元低調。中・小規模物件向け需要の低迷が長引く中、大規模物件が端境期に入っており、鉄骨造の建築着工床面積は前年実績を下回る傾向が続く見通しで、上期は数量面で苦戦を強いられる可能性が高いだろう」

――今期(24年3月期)の業績予想は。

「国内鋼材需要は徐々に回復すると予想しているが、鉄スクラップやエネルギー・諸資材の価格高騰が続くとみられ、厳しい事業環境が続く見通しだ。製品出荷数量について、異形棒鋼はゼネコン、鉄筋加工業者の労働力不足が続くため、前期並みにとどまる見込み。形鋼は中・小規模物件の建築着工床面積が減っていることもあり、需要は力強さを欠く。上期は前年同期比微減を予想する。この中で安定収益維持に向けて適正な販価の実現と、一定の販売数量確保が重要と捉え、販売・製造が一体となって事業基盤の強化を進める」

――コスト動向と、販価改善の進捗状況を。

「国内外でカーボンニュートラル(CN)に向けた動きが加速する中、日本だけでなく、アジアの高炉メーカーが大型電気炉を新設する方向に進んでいる。主原料・鉄スクラップの需要は今後増大すると考えており、需給は長期的に一段とタイト化するとみられ、鉄スクラップ価格はトン当たり5万円台で高止まりすると思う。電炉メーカーの生命線である電気料金も高値で推移しており、上昇する可能性がある。2024年問題を踏まえて、物流費用の高騰も想定される。電炉メーカーとして生産性向上やコスト競争力を強化し、いかなる経営環境下においても収益を確保できる体制構築に取り組んでいるものの、自助努力でカバーできない部分については販価に転嫁せざるを得ない。マーケット環境が悪い中で、これまで丁寧に説明し続けてきた結果、顧客は販価改善に一定の理解を示している」

――製造所の取り組みはどうか。

「設備老朽化の状況を掌握しながら、製造基盤整備の老朽更新を順次手掛けている。姫路製造所は省エネ補助金を活用しながら20億円以上を投じ、ダニエリ製の次世代型電気炉製鋼電源装置『Q―ONE』を導入する。エネルギー使用効率が10%以上向上し、生産性アップに繋がる。また老朽化している製鋼工場の250トンレードルクレーンを更新する。それぞれ25年10月の完工を予定している。H形鋼や溝形鋼、山形鋼を手掛ける大形工場の圧延ロールの交換を一部機械化するなど、設備投資で能力増強を図る。このほか、姫路で製品全長寸法測定器を、姫路と鹿島で形鋼疵検出装置をそれぞれ導入し、さらなる品質向上や操業改善を実現する。社員の働き方改革や採用促進の一環として、福利厚生設備もリニューアルする予定。今期の設備投資金額は70億円程度を計画している」

「異形棒鋼で韓国産業規格(KS規格)を豊平製造所は22年11月に、東部製造所は23年4月にそれぞれ取得した。韓国は国内経済の減速で同国内の異形棒鋼需要が盛り上がらず、市況も低迷している。輸出できる条件が整えば商談を始める。鹿島製造所はビレット輸出を強化するため、設備を改造して11・2メートルから12メートルに長尺化する。鹿島については『Q―ONE』導入による姫路製鋼工事期間中に150ミリ角ビレットの供給拠点として機能を発揮させようと考えており、徐々に操業度を上げていきたい」

――姫路は製品出荷能力を高めている。

「姫路の生産数量は現行月間4万トンレベルだが、輸出を手掛けることができることなどの特長を活かし、2割ぐらい増やしたい。出荷能力向上を図るため、船積みと倉庫作業の体制を強化した。前上期で当社が専用で配船できる固定船の契約を増やし、安定した海上出荷能力を確保した。同時に荷役要員の増員と戦力化を進め、陸送と海上輸送(内航船、輸出)を合わせた製品出荷能力を月間4万8000トン程度まで引き上げる。また生産能力を拡大するため、物流などのシミュレーション機能で生産工程を見える化し、ネック工程の把握、生産及び物流の計画最適化に繋げる」

――鉄スクラップの効率的使用や資源リサイクル事業については。

「高炉メーカーの電炉導入が増え、HSなど比較的高値の鉄スクラップで調達競争が激化するとみている。このため、グレードの低い安価スクラップをより使いこなせるよう技術力アップに取り組んでいる。また主原料対策として、使用することが難しい原料の購入を進めており、使用技術の進展もあって装入する原料に占める比率が1―2割まで高まってきている。副原料はコークス代替としてRDF(廃棄物固形燃料)を使っているが、バイオコークスの使用も検討している。スクラップ溶解促進や炭素系熱源の効率的活用のため、『電気炉操業状況の見える化』『常時熱精算』を可能とするため、全電気炉に排ガス分析装置を導入し、データサイエンスによる解析と各製造所の知見を組み合わせて、エネルギー効率を一段と高める。水島製造所ではスクラップ小型破砕機を設置し、嵩比重の低いスクラップを破砕している。電気炉内で予熱するべく、炉上からスクラップを連続装入するとともに、この1回当たりのスクラップ装入量を増やすことで、炉蓋開閉などに伴う熱ロスを低減する」

「一方、鹿島は22年12月に茨城県から産業廃棄物処理業の許可を取得し、23年3月には初めて産廃処理を行った。これで鹿島の東日本、水島の西日本で廃棄物リサイクル処理体制を構築した。3拠点目は検討中だ」。

――DX(デジタルトランスフォーメーション)、IoT(モノのインターネット)、AI(人工知能)など最新技術の導入については。

「DXを推進する体制を整備するため、21年4月にデータサイエンス横断部会を設置した。設備稼働率アップや品質管理精度向上を目的とした『設備・操業の見える化(正常状態管理)』を実現するためのデータ収集・伝送・蓄積の基盤整備を進めている。従来のデータに加えてセンサーを活用したり、電子デバイス入力によるデータ拡充、セキュリティを確保したデータ蓄積、ビジネス・インテリジェンスツールを用いた見える化などに取り組んでいる。また外部サービスを積極活用し、AIを用いた画像解析による品質判定の検討を始めるとともに、検査証明書のクラウド化などを実施した。このほか特微量解析など高次分析ツール導入、データサイエンス人材育成なども行っている」

「少子高齢化が進む状況において雇用面でも魅力ある職場を作ることが必須。技術導入については、今期から省力化とともに作業負荷軽減にも軸足を置く。『設備・操業の見える化』を進め、ポイントを絞った重点点検で安定操業を確立する。また、各種オンライン検査機器導入に伴う『人の目だけに頼らない』品質保証や品質改善を図る。さらに熱効率向上と暑熱作業環境緩和を目的に電気炉の密閉化技術の開発を進めるとともに、各種ロボット導入も検討する」

――カーボンニュートラル(CN)に向けた流れが加速している。

「CO2排出量削減については、30年度に13年度比46%削減を目指している。省エネを推進するとともに、使用電力の非化石電源構成を59%まで高める必要がある。電源構成については個社の対応だけではハードルが高く、普通鋼電炉工業会など関連団体を含めた活動が求められてくる。日本の電炉業界が競争力を維持・強化するためには、競争力を保ちながらグリーン鋼材を実用化しなければならない。同時にサプライチェーン全体で環境価値をどのように高め、いかに共有することができるかが重要であり、検討を進めていきたい」(濱坂浩司)

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