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2024.12.20
2023年6月19日
営業戦略を聞く 日本製鉄 廣瀬孝副社長 電磁鋼板増強タイムリーに グループ一貫で競争力強化
――2023年度の鉄鋼市場をどうみる。
「世界経済について欧米のインフレは減速してきているが、依然として先行き不透明な状態が続き、国際的に鋼材需要はあまり芳しくない。中国はゼロコロナ政策を撤廃し回復が期待されたが、経済政策の効果が十分に発揮されず浮上していない。特に不動産市況の低迷が長期化し、建設分野の鉄鋼需要に回復の兆しがみられない。中国鉄鋼メーカーは思惑があって生産の調整が進まず、粗鋼生産は若干減少したものの依然高水準。鋼材輸出は3-5月に3カ月連続で月800万トン超と水準が高く、その影響がアジアの鋼材市況に及び、そのため汎用品の海外市況は下落している。原料の価格は下がってきているがエネルギーコストは高止まりするなど、鉄鋼のスプレッドは極めて厳しい水準にあり、鋼材市況はさらに下落することはなく、底を打つとみている。EVだけでなくハイブリッドなどを含めたエコカーの需要は強く、再生可能エネルギーの需要も拡大しており、カーボンニュートラル(CN)を背景とした高付加価値商品に対するニーズは強まっている」
――国内は自動車の回復がポイントに。
「自動車はじめ製造業がサプライチェーンの混乱に苦しんできたが、状況はようやく緩和し始め、自動車は減産幅が小さくなり改善の方向に進むと期待している。造船や建機・産機は足元海外の景気悪化で外需が後退し弱含んでいる。建設分野は大型物件が堅調だが、中小物件は人手不足、資材価格や物流コストの高騰で一部先送りや計画変更など若干減少している。プラスとマイナスが相まって23年度の国内の鋼材需要は5450万トンとほぼ前年並みとみている」
―厳しい市場環境の中で日本製鉄は21―22年度とマージンを大きく改善してきた。
「この2年間、原料価格やエネルギーのコストが大きく変化する中でサプライチェーン全体として公平なコスト分担をお客様にお願いし、一定の理解を得てきた。商慣習の見直しも相談し、改善が進んでいる。ひも付き需要家と当社との契約条件だけでなく、加工賃はじめ流通含めた価格改善の後押しにつながっていると考えている。製品価格について直近はコストの側面が強く意識されたが、ひも付きの価格は異なる。コストや市況で決まるのは汎用品の分野であり、ひも付きの分野は商品や開発の価値、デリバリーやソリューションの提案、グローバル対応、現地生産への対応などいろいろ要素で価格が決まる」
――7―9月期のひも付き価格交渉の状況は。
「お客様ごとや取引ごとに差があり、一律には言えないが、さまざまな要素を検証しながら進めている。主原料価格は下がっているが、エネルギーなどそれ以外のコストが上がっており、市場の変化が大きい中で価格交渉にしっかり取り組む」
――海外の鋼材市況が軟化し輸出環境は低調だが、輸出政策をどう考えるか。
「従来から変わらない。数量を売っていくということはなく、マーケットをみながら適切に対応していく。内需が減少したからといって輸出を増やすことはない。すでに量を追求する事業構造ではなく、事業として意味のある形、会社への貢献を追求していく」
――23年度の営業戦略のテーマを。
「まずは事業基盤の強化、構造対策、それから戦略商品の高度化の拡大を図る。中長期的な内需の減少や需給環境の悪化を想定し、生産設備の休止を含めた大きな構造対策を進めている。25年頃と考えていた鋼材需要の後退が前倒しで生じており、引き続き構造対策を進め、全社最適生産を徹底していく。並行して高付加価値製品へのシフトとそのための設備対策を打つ。自動車の電動化に対応し、その最たる例が駆動用モーター向けの無方向性電磁鋼板の増産対策だ。継続的に投資を行い今回、八幡地区と阪神地区(堺)での能力増強を決めた。ハイグレードの電磁鋼板は大きなシェアを確保しているが、自動車メーカーの性能向上や価値向上に貢献でき、今後もしっかりと支えていくために電磁鋼板の生産能力を現行の5倍に拡大する。超ハイテン鋼や高強度歯車用鋼など車体の軽量化のニーズにも寄与する。新エネルギーへの転換に合わせたタンク用の極低温用鋼や高圧水素用ステンレス鋼管HRX19、人手不足の問題を抱える建設関連では加工を省力化するメガハイパービームなども販売し、お客様のニーズが多様化する中で高まる高付加価値品へのニーズに応える」
――追加の電磁鋼板の能力増強で当面の需要増(25年予想の世界のエコカー需要3200万台)に対応できるのか。
「電磁鋼板の能力増強を19年以降、追加しながら3段階にわたって決めてきたが世の中の動きは早い。自動車の電動化が加速しており、必ずしも今回の増強で十分とは言えない。マーケットの状況をみながら対応をタイムリーに考えていく。超ハイテン鋼は冷延とめっきの能力を先行して整え、名古屋製鉄所の次世代型熱延ミルの導入(26年度第1四半期稼働予定)で変化する市場に対応する可能性をさらに広げる。将来の潜在的な需要や技術的な内容含めて対応できる体制を整える」
――日鉄物産を連結子会社化した狙いと他商社との関係について。
「環境が厳しくなる中で内外のお客様との直接の接点を増やし、取引に関わる業務を自ら担う力を高めようとここ数年、流通加工含めた一貫での営業力強化に取り組んでいる。製造から流通加工、物流まで含めた一貫での機能強化を追求することで付加価値を新たに作り出し、サプライチェーン全体の競争力を上げる。重要なビジネスパートナーである商社各社とそれぞれのビジネスにおける役割や機能のあり方、あるべき姿を求め、商社とメーカーの間の役割分担の最適化を進めてきている。CNはじめ社会の新しいニーズを捉えた商品・サービスの価値を商社との連携で明確にし、拡販につなげる。そのためのツールとしてサプライチェーンを構築し、強化する。広範なフィールドでいろいろな側面から共同での取り組みを進めており、以前のように商社にお任せではなく、一緒に練り直してきたのがこの数年の営業力強化の取り組み。各商社との関係を新たに強化する中での日鉄物産の子会社化であり、日鉄物産に取引を寄せていくということではない。各商社と機能の高い取引を今まで以上に明確化するとともに日鉄物産はできること、やるべきことを磨いていく。日鉄物産とはグループであるからこそできる強みを生かして新しい市場、新しい需要家、新しいニーズにタイムリーに応えていく。外部環境に左右されない事業構造に転換していくための取り組みだ」
――日鉄物産とはメキシコに電磁鋼板の加工拠点を建設する。
「電磁鋼板のサプライチェーンを拡大するとなると新規の投資が必要となる。北米は電磁鋼板の需要が大きく拡大していくのでハイグレードの商品を供給するにはグループ一貫で強化する方が望ましいと判断した。国内では岡谷鋼機さんと電磁鋼板を加工する新規拠点の日鉄電磁岡谷加工を23年6月に設立する。電磁鋼板の加工については他の商社ともすでに連携しているし、今後も必要に応じて一緒に望ましい策を講じていきたい」
――一方で商社を介さずに製品を納入する「直売」を進めている。今後、直売先を広げていくのか。
「国内外のグループ会社と原板をやり取りするのに効率性を追求する意味で直売化を志向している。グループ内の直売化は段階を踏みながらかなり進んできており、今後も必要に応じて検討する」
――特殊鋼棒鋼線材加工のグループ3社の統合を決めた。
「統合によってグループとしての一体性を強化しながら直接の営業力、メーカーと加工を含めた営業力、競争力の強化を実行していく。地域的にも強化することができ、業界の基軸となる会社にしていきたい。他の品種についてもそれぞれ事業基盤の強化としてここ数年、グループ会社の再編を検討しており、固まったものから実行していく」
――グリーン鋼材「NSカーボレックス・ニュートラル」の採用のめどは。
「今年度上期に販売を開始する。製造プロセス上でのCO2排出削減量をマスバランス法によってひも付ける新しい商品であり、CO2削減の効果を早くお客様に届ける。自動車や家電、OAなど製造業だけでなく、エネルギーやインフラ、建設など幅広い業界のお客様に関心を寄せていただいており、お客様のニーズを踏まえて協議を進めている。価値を評価いただきながら販売していく」(植木 美知也)
「世界経済について欧米のインフレは減速してきているが、依然として先行き不透明な状態が続き、国際的に鋼材需要はあまり芳しくない。中国はゼロコロナ政策を撤廃し回復が期待されたが、経済政策の効果が十分に発揮されず浮上していない。特に不動産市況の低迷が長期化し、建設分野の鉄鋼需要に回復の兆しがみられない。中国鉄鋼メーカーは思惑があって生産の調整が進まず、粗鋼生産は若干減少したものの依然高水準。鋼材輸出は3-5月に3カ月連続で月800万トン超と水準が高く、その影響がアジアの鋼材市況に及び、そのため汎用品の海外市況は下落している。原料の価格は下がってきているがエネルギーコストは高止まりするなど、鉄鋼のスプレッドは極めて厳しい水準にあり、鋼材市況はさらに下落することはなく、底を打つとみている。EVだけでなくハイブリッドなどを含めたエコカーの需要は強く、再生可能エネルギーの需要も拡大しており、カーボンニュートラル(CN)を背景とした高付加価値商品に対するニーズは強まっている」
――国内は自動車の回復がポイントに。
「自動車はじめ製造業がサプライチェーンの混乱に苦しんできたが、状況はようやく緩和し始め、自動車は減産幅が小さくなり改善の方向に進むと期待している。造船や建機・産機は足元海外の景気悪化で外需が後退し弱含んでいる。建設分野は大型物件が堅調だが、中小物件は人手不足、資材価格や物流コストの高騰で一部先送りや計画変更など若干減少している。プラスとマイナスが相まって23年度の国内の鋼材需要は5450万トンとほぼ前年並みとみている」
―厳しい市場環境の中で日本製鉄は21―22年度とマージンを大きく改善してきた。
「この2年間、原料価格やエネルギーのコストが大きく変化する中でサプライチェーン全体として公平なコスト分担をお客様にお願いし、一定の理解を得てきた。商慣習の見直しも相談し、改善が進んでいる。ひも付き需要家と当社との契約条件だけでなく、加工賃はじめ流通含めた価格改善の後押しにつながっていると考えている。製品価格について直近はコストの側面が強く意識されたが、ひも付きの価格は異なる。コストや市況で決まるのは汎用品の分野であり、ひも付きの分野は商品や開発の価値、デリバリーやソリューションの提案、グローバル対応、現地生産への対応などいろいろ要素で価格が決まる」
――7―9月期のひも付き価格交渉の状況は。
「お客様ごとや取引ごとに差があり、一律には言えないが、さまざまな要素を検証しながら進めている。主原料価格は下がっているが、エネルギーなどそれ以外のコストが上がっており、市場の変化が大きい中で価格交渉にしっかり取り組む」
――海外の鋼材市況が軟化し輸出環境は低調だが、輸出政策をどう考えるか。
「従来から変わらない。数量を売っていくということはなく、マーケットをみながら適切に対応していく。内需が減少したからといって輸出を増やすことはない。すでに量を追求する事業構造ではなく、事業として意味のある形、会社への貢献を追求していく」
――23年度の営業戦略のテーマを。
「まずは事業基盤の強化、構造対策、それから戦略商品の高度化の拡大を図る。中長期的な内需の減少や需給環境の悪化を想定し、生産設備の休止を含めた大きな構造対策を進めている。25年頃と考えていた鋼材需要の後退が前倒しで生じており、引き続き構造対策を進め、全社最適生産を徹底していく。並行して高付加価値製品へのシフトとそのための設備対策を打つ。自動車の電動化に対応し、その最たる例が駆動用モーター向けの無方向性電磁鋼板の増産対策だ。継続的に投資を行い今回、八幡地区と阪神地区(堺)での能力増強を決めた。ハイグレードの電磁鋼板は大きなシェアを確保しているが、自動車メーカーの性能向上や価値向上に貢献でき、今後もしっかりと支えていくために電磁鋼板の生産能力を現行の5倍に拡大する。超ハイテン鋼や高強度歯車用鋼など車体の軽量化のニーズにも寄与する。新エネルギーへの転換に合わせたタンク用の極低温用鋼や高圧水素用ステンレス鋼管HRX19、人手不足の問題を抱える建設関連では加工を省力化するメガハイパービームなども販売し、お客様のニーズが多様化する中で高まる高付加価値品へのニーズに応える」
――追加の電磁鋼板の能力増強で当面の需要増(25年予想の世界のエコカー需要3200万台)に対応できるのか。
「電磁鋼板の能力増強を19年以降、追加しながら3段階にわたって決めてきたが世の中の動きは早い。自動車の電動化が加速しており、必ずしも今回の増強で十分とは言えない。マーケットの状況をみながら対応をタイムリーに考えていく。超ハイテン鋼は冷延とめっきの能力を先行して整え、名古屋製鉄所の次世代型熱延ミルの導入(26年度第1四半期稼働予定)で変化する市場に対応する可能性をさらに広げる。将来の潜在的な需要や技術的な内容含めて対応できる体制を整える」
――日鉄物産を連結子会社化した狙いと他商社との関係について。
「環境が厳しくなる中で内外のお客様との直接の接点を増やし、取引に関わる業務を自ら担う力を高めようとここ数年、流通加工含めた一貫での営業力強化に取り組んでいる。製造から流通加工、物流まで含めた一貫での機能強化を追求することで付加価値を新たに作り出し、サプライチェーン全体の競争力を上げる。重要なビジネスパートナーである商社各社とそれぞれのビジネスにおける役割や機能のあり方、あるべき姿を求め、商社とメーカーの間の役割分担の最適化を進めてきている。CNはじめ社会の新しいニーズを捉えた商品・サービスの価値を商社との連携で明確にし、拡販につなげる。そのためのツールとしてサプライチェーンを構築し、強化する。広範なフィールドでいろいろな側面から共同での取り組みを進めており、以前のように商社にお任せではなく、一緒に練り直してきたのがこの数年の営業力強化の取り組み。各商社との関係を新たに強化する中での日鉄物産の子会社化であり、日鉄物産に取引を寄せていくということではない。各商社と機能の高い取引を今まで以上に明確化するとともに日鉄物産はできること、やるべきことを磨いていく。日鉄物産とはグループであるからこそできる強みを生かして新しい市場、新しい需要家、新しいニーズにタイムリーに応えていく。外部環境に左右されない事業構造に転換していくための取り組みだ」
――日鉄物産とはメキシコに電磁鋼板の加工拠点を建設する。
「電磁鋼板のサプライチェーンを拡大するとなると新規の投資が必要となる。北米は電磁鋼板の需要が大きく拡大していくのでハイグレードの商品を供給するにはグループ一貫で強化する方が望ましいと判断した。国内では岡谷鋼機さんと電磁鋼板を加工する新規拠点の日鉄電磁岡谷加工を23年6月に設立する。電磁鋼板の加工については他の商社ともすでに連携しているし、今後も必要に応じて一緒に望ましい策を講じていきたい」
――一方で商社を介さずに製品を納入する「直売」を進めている。今後、直売先を広げていくのか。
「国内外のグループ会社と原板をやり取りするのに効率性を追求する意味で直売化を志向している。グループ内の直売化は段階を踏みながらかなり進んできており、今後も必要に応じて検討する」
――特殊鋼棒鋼線材加工のグループ3社の統合を決めた。
「統合によってグループとしての一体性を強化しながら直接の営業力、メーカーと加工を含めた営業力、競争力の強化を実行していく。地域的にも強化することができ、業界の基軸となる会社にしていきたい。他の品種についてもそれぞれ事業基盤の強化としてここ数年、グループ会社の再編を検討しており、固まったものから実行していく」
――グリーン鋼材「NSカーボレックス・ニュートラル」の採用のめどは。
「今年度上期に販売を開始する。製造プロセス上でのCO2排出削減量をマスバランス法によってひも付ける新しい商品であり、CO2削減の効果を早くお客様に届ける。自動車や家電、OAなど製造業だけでなく、エネルギーやインフラ、建設など幅広い業界のお客様に関心を寄せていただいており、お客様のニーズを踏まえて協議を進めている。価値を評価いただきながら販売していく」(植木 美知也)
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