2023年6月9日

財務・経営戦略を聞く/神戸製鋼所副社長/勝川四志彦氏/還元鉄事業に一層注力/機械系、次期中計の柱へ

――2022年度は連結経常利益1068億円と21年度の932億円から増え、2年連続の増益となった。

「鋼材をはじめアルミ系など全体的に数量が21年度に比べ減少したが、鉄鋼メタルスプレッドの改善が進み増益となった。鋼材の価格改善による販売・原料価格のプラスが820億円と全社ベースで数量構成によるマイナス影響285億円を大きく上回った。原料価格は21年度に比べて落ち着き、在庫評価益が少し減少したが、鋼材の販価改善が進んだ効果が大きい。第3四半期に価格改善が目立って表れたが、上期分についても遡及して価格を改善したところがあり、第3四半期の単価が高くなっている。第4四半期に価格改善はさらに進展し、21年度に比べ固定費は上がったが吸収できた格好だ。電力事業は神戸3号機の稼働による増益効果が通年で得られたことも増益につながった」

――販価改善の取り組みはアルミ系が遅れ、アルミ板は赤字、素形材も減益に。

「アルミは副原料とエネルギーの価格がかなり上がったが、板と押出、サスペンションなどの価格転嫁がコストアップの速度に比べて遅れた。建設機械も販売までの期間が長いのでどうしても価格改善がずれ込んでしまうが、おおむね22年度末の価格でお客様にはご理解をいただいている」

――23年度、関連市場をどうみるか。

「自動車は急激な回復は望めないと考えている。足元をみると生産台数の回復が進む様子だが、当社の販売先は自動車メーカー向けだけでなく、部品メーカーや加工メーカーなどにも納めている。サプライチェーンが長く、お客様ごとに部品や材料の在庫消化、今後の材料の在庫の持ち方が異なり、読めないところがある。銅板は少し在庫調整が続く見通しであり、製品によってバラつきがある。米国の金融・経済動向なども影響するとみている。当社としても需要回復の期待から22年度末に棚卸資産が少し増えた。ROIC(投下資本利益率)の向上を目指している中で棚卸資産をしっかりと管理していく必要がある」

「機械系の市場は強い。従来の石油化学やエネルギー関連に加え、徐々に水素やアンモニア、CCS(CO2分離・回収)に向けた新しい分野の受注が圧縮機などで増えている。需要が旺盛で一つ一つの案件の採算性も上がっており、機械系の事業は順調だ。建機は日野自動車からのエンジン調達の問題で欧州に販売できない状況にあり、台数は減少している。中国は不動産・インフラ工事の停滞が影響して建機の販売は足元さらに半減し、状況は振るわない」

――懸念する需要分野は。

「気になるのは建設分野だ。米国の景気が仮に後退すれば、影響を受けるのは建設分野とみている。景気後退が民間の投資の遅れや大型プロジェクトの見直しなどにつながりかねない。IT・半導体産業は下期に反転する見込みだが、国際情勢で状況が変わるかもしれない。アンモニアや水素、CCS関連の案件が多い機械関連の発注が国際経済の影響で先送りとなるのか、それとも脱炭素に向けた投資として継続されるのか、注視する」

――2023年度の粗鋼生産は約620万トンとほぼ横ばいを想定している。

「数量は期待できない。自動車生産は下期に向けて回復していくと思うが、年度の国内生産台数は微増を想定している。23年度までの中期経営計画で高付加価値製品へのシフトを掲げているが、自動車向けが増えないと高付加価値品の比率はなかなか上がらない。23年度に入って高付加価値品の比率は少しずつ上がっているが、収益を高めるために価格の改善により注力しなければならない。鋼材の諸物価・エキストラの改善は22年度までにお客様にほぼ理解をいただいているが、諸物価の中で特に輸送費の上昇が大きく、『2024年問題』もあり、輸送のコストは上がり続けるだろう。今後販売の量が増え、輸送単価が上がっていくとなれば物流コストの転嫁はより大きな課題となる。さらに上昇する諸物価分の改善をお客様に求めていく」

――アルミ系は販価改善などで23年度下期の黒字化を見込む。

「数量は苦戦している。IT・半導体向けの厚板の販売が減少し、ディスク向けのアルミ板も減っている。自動車の生産台数は増えるとしてもアルミは高級車での採用が多く、景気動向や車種ごとの販売動向をみる必要がある。一方でエネルギーを中心にコストが相当上がっているのでお客様に理解をいただき、価格改善をしっかりと進め、下期には黒字にしたい」

――海外の事業会社の動向は。

「北米は自動車用鋼板製造のプロテックでは、鋼材市況の下落の影響を受けているが、一過性のものとみている。アルミサスペンション製造のKAAPはコロナ禍の収束とともに従業員の確保がある程度進んだが、技術の習熟に一定の時間がかかるので生産性の改善はこれから。自動化による生産性や品質の維持も図っていく。タイは自動車生産が伸び悩み、特殊鋼・普通鋼線材を製造するコベルコ・ミルコン・スチールは数量面で苦労しているが黒字は確保している。タイは総選挙後の経済政策が気になるところ。中国は日系自動車の生産が低迷し、建設機械も低調だが、天津で製造・販売しているアルミパネル材は中国系のEVメーカーにも納めているので数量は維持している」

――カーボンニュートラルの対策としてオマーンでの直接還元鉄の製造・販売について三井物産と事業化検討を始めた。

「天然ガスの量・単価の調達条件や製品の販売先の精査をしている。また、販売先とは数量と購入期間や購入単価などについて話を始めている。いずれ鉄スクラップは需給がひっ迫し、代替の鉄源が必要になる。鉄鉱石は高品位のものが減り、低品位のものが増えていく。直接還元鉄のニーズが増える中で事業化の青写真が見えていくと思う。HBI(直接還元鉄のホットブリケットアイアン)のプラント建設には安価な天然ガスや将来的なグリーン水素の供給などが必要となる。条件が整う北米や中東、欧州の一部はHBIプラントを建てるところが多いと思うが、東アジア、特に日本は条件を考えるとハードルが高く、条件の良い国でHBIを製造して日本に輸入するということになるだろう。2030年のCO2排出30―40%削減の目標に向けて、立地や環境アセスメント、港湾の整備などは決めても実行時期がずれる可能性もあり、事業化の判断は今後1年程度をかけて検討していく予定だ」

――MIDREXのニーズが増えている。

「スウェーデンのH2グリーンスチール社やドイツのティッセンクルップ社から水素を還元剤とするプラントを受注し、それ以外にも案件が相当数あるので着実に受注していく。H2グリーンスチール社向けのMIDREX H2は世界初の100%水素直接還元鉄プラント商業機で25年の操業開始に向けて万全を期して進めていく。技術的に75%の水素は実績がある。水素還元の技術的課題はすでに把握しており、対応を施したプラントを納めていく」

――低CO2高炉鋼材コベナブル・スチールの次の採用予定は。

「現時点で4案件に採用され、その後も様々な業界のお客様からお話をいただいている。お客様自身のCO2排出削減の取り組みに使用する材料として付加価値をどれだけ認めていただけるか。コストのかかる製品なので価値を認めてもらいたいと考えている。他の高炉2社も低CO2鋼材を販売するのでマーケットが急速に構築されることを期待している。23年度は鉄鋼業として低CO2鋼材の販売が一歩進む年になると思う」

――24年度からの次期中期計画は機械系が成長の柱になる。

「『成長』としては機械系のビジネスがCNや人手不足、リサイクルをキーワードに新しく創出されるマーケットで存在感を示していく。圧縮機や水素・アンモニア関連などの機器は大きなマーケットだ。既存の分野で減る製品もあるので、売り上げ規模を追求するというよりは機械系でコンスタントに利益を確保する体制を固めていく。鉄鋼などの素材は安定収益基盤の構築を引き続き追求し、電力事業は安定稼働に注力する。CNについては取り組みをより具体化していく」(植木 美知也)

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