2023年6月5日

鉄鋼業界で働く/女性マネージャー編/インタビュー(下)/自信持つ女性増えれば

日本から遠く離れたオランダで、ジェネラルマネージャーなどを担当するハンワ・ヨーロッパ・アムステルダム事務所のベルジョン久美子さん。日本で国際営業を経験後、異動でヨーロッパ勤務へ。管理職に就任し、2回の出産を経験した。海外勤務の内容、仕事と家庭の両立、今後の目標などを聞いた。

――ロンドン支店へ。

「2011年、鉄鋼部門マネージャーとして赴任しました。社内で自己申告書制度というものがあり、海外勤務の希望を何回も出していたんです。アジア圏の工場などを担当することが多かったので、タイやフィリピン、中国あたりかなと思ってふたを開けてみるとヨーロッパのロンドン。女性がハードルを感じることなく働けるよう配慮してくださったんだと思います。支店の日本人は上司と私の2人。扱ったことのない商材を前に、1から勉強の日々でした」

――業務内容は。

「高機能品や高級品などニッチなものを扱っていました。日本国内の鉄鋼メーカーの鉄を売るとなると、距離がとてもあるので運賃の影響で価格的に厳しいんです。ひも付きよりは、店売りの新規開拓先を回ることが多かったですね。輸入するならどんな商材に興味があるか――というアプローチから開始。新人のころのように『教えてください』というスタンスを大事にしていました。当時は鉄鋼部門のヨーロッパ拠点がロンドンしかなかったので、毎週のようにEU圏内をLCCに乗って飛び回っていましたね」

――苦労が多かった。

「日本語同様に、英語も訛りがあります。特にマンチェスターは訛りが強く、最初の1カ月は、行ったものの聞き取れず議事録が書けなかったことも…。現地スタッフの会話に毎日触れてイギリス英語に耳を慣れさせ勉強。マンチェスター訛りも2―3カ月で聞き取れるようになりました。ロンドン支店時代の最後あたりで現地スタッフ3人を採用したのですが、プライドの高さに苦労しました。薄板国際部で育てられた時のように、愛のあるムチで指導しようにも、彼らは怒られることに慣れていない。『何でですか⁉』『私はこうやったんです!』と驚かれ、うまく伝えられないんです。国民性や文化の違いによるコミュニケーションの取り方に悩みました」

――オランダへ。

「16年にハンワ・ヨーロッパに鉄鋼部門マネージャーとして出向、同社のアムステルダム事務所へ配属されました。現在は鉄鋼部門・管理部門のジェネラルマネージャーという役職で働いています。オランダは女性の就業率が70%を超えている国。事務所へ初めて入った時も、女性が第一線で働く姿が印象的でした。会計士や弁護士など、お世話になっている外部の方も女性が多いです。現在のオフィスは計21人で、女性は12人。その中で営業職は私を含め4人で、今まで働いた中で女性比率が一番高いです」

――商材も営業範囲も広くなった。

「ヨーロッパ大陸は鉄の需要が多く、地続きでもあるので、車で数時間の距離であれば車で営業を行っています。大手鉄鋼メーカーのおひざ元であるドイツはもちろん、フランス、ベルギー、ルクセンブルクなど、さまざまな国で営業活動やサプライチェーンの構築をしています。商売をひも付き化させることも重要な業務。商材はメーカー自体の競争力や貿易障壁などを鑑みながら戦略を立るので、線材、特殊管、厚板、薄板、棒など多岐にわたります。阪和興業本社に在籍する各商材のエキスパートと話し合いながら、私は現地で培ったマーケット感覚とネットワークを駆使。海を超えてタッグを組み販売しています」

――夫の理解がある。

「ロンドン駐在中の14年に結婚しました。15年と22年に男児を出産、復職し今に至ります。この夫じゃないとここまで働けていないと確信できるほど、仕事に理解を示してもらっていますね。夫の出身地である米国では、女性のキャリアアップについての考えがとても進んでいます。初めて子供ができた際、『一緒に家族間でバランスを取っていけばいい。自分で自分の限界を無理やり決めなくてもいいのでは』と言ってくれました」

――2児の母です。

「出産前後も現地スタッフとオンタイムで連絡を取っていました。特に2人目の育休中は、スタッフの『待ってるよ』という声がうれしくて力になりました。復帰後の現在は、出張のたびに次男が私の存在を忘れてしまわないか心配になりますね(笑)。休日も、仕事のためにパソコンと向き合うことがしばしば。長男に『ママ遊んで!』と無理やりパソコンを閉められ、寂しがられることがあります。学童保育も利用していますが、費用が日本よりはるかに高いので、夫の協力のもと、日数を限定して利用しています」

――業界への思いを。

「さまざまな価値観を持つ女性が、働きにくさを感じることなく、鉄鋼業界に留まれるようになればいいなと感じます。妊娠・出産・子育てが、日本の鉄鋼業界における天井、漠然としたボーダーラインになっている気がするんです。私もずっと働き続けられるのかと言えば、まだ分からない。経験値が積み上がっていくことで自然とキャリア形成ができ、自信につながっていく――。そんな女性が増えるといいですね」

――今後の目標は。

「部下が増え、社内のチームが拡大していることにやりがいを感じています。社員間のコミュニケーションを強化し愛社精神をはぐくむことで、会社に貢献したいと思ってくれる社員を1人でも増やしたいですね」

(芦田 彩)



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