――2023年度に増益を予想している。
「今の環境が続けば鉄鋼事業のセグメント利益2000億円(22年度1468億円)、棚卸資産評価差等除く実力で1900億円(738億円)が見込める。主原料価格は概ね横ばいを想定しているが、需要と鋼材市況、特に海外市場は22年度第4四半期の悪化した状況から段階的に回復するとみている。国内は諸物価が上がっているので販売価格の是正を続け、スプレッドを改善していく。今年9月予定の東日本製鉄所京浜地区の上工程休止でコスト削減も進む」
――鋼材トン当たり利益を9000円(22年度7000円)に引き上げる。
「販売面では直近での諸物価上昇分等の転嫁も継続して必要であり、またエキストラ価格も改善を続ける。コスト削減としては高炉改修影響と減産影響の一過性の戻りで230億円、さらに構造改革と操業改善の各200億円で合わせて630億円がトン当たりの利益に効いてくる。需要家の皆様には製品の品質やデリバリー含めたサービスを理解いただき、21、22年度と販価を改善することができた。特に電磁鋼板は日本の自動車メーカーも電動化に舵を切っており、調達についてお客様からの期待は大きいため、西日本製鉄所倉敷地区で電磁鋼板の能力増強を進め、供給ニーズに対応していく」
――24年度に鉄鋼事業の実力の利益を2600億円と計画比で300億円積み増すと今回発表した。
「コスト削減だけで23年度から24年度にかけて420億円が見通せる。そのうち250億円は残りの構造改革効果だ。23年度に実力ベースで1900億円の利益が達成できれば、コスト削減と合わせて利益は2300億円を超える。加えて高付加価値品の比率を22年度の47%(21年度45%)から24年度に50%に引き上げる。エキストラ価格の改善、それからコロナ禍で遅れていた海外ソリューションビジネスの拡大が今後進むなど中期経営計画の各種施策で300億円を上積みする。23年度の単独粗鋼2500万トンをベースにした24年度の利益予想であり、粗鋼生産が増えれば利益は上向く可能性もある。当初計画以上の利益水準を目指せるようになったのはコスト削減の進展とともに販価の改善が進んだことがやはり大きい」
――高付加価値化に向けた戦略投資も効果を上げる。
「倉敷地区の無方向性電磁鋼板の新設備が24年度上期に立ち上がる。電磁鋼板の追加の能力増強を倉敷地区で予定しており、ドライブをかけて収益を上げていく。方向性電磁鋼板についてはインドのJSWスチールと方向性電磁鋼板の製造・販売の合弁会社設立の検討が大詰めを迎えている。インドの経済成長を考えると送配電網に使用される方向性電磁鋼板の市場は堅調に伸びると推測。当社の技術優位性は高く、競争力を持った品種なので大事に伸ばしていきたい。電力インフラの整備とともに電動車の需要も出てくると想定し、こちらには無方向性電磁鋼板が使用されることになる。市場の動向には注視していきたい」
――中国で日系自動車の販売が足元減少しているが事業拠点への影響は。中国や東南アジア、北米の事業をどう展開していくか。
「中国で自動車用鋼板を製造しているグループのGJSSは比較的高い操業を維持している。将来的に市場がどう動いていくか注視していくが、日系自動車がどう巻き返し、電動化の中でどのように戦っていくか、期待してみている。東南アジアは通貨安などの影響で建設の先送りなどが生じ、鋼材市場は冷えているが在庫調整は一巡しつつあり、一定程度回復していくだろう。北米は熱延市況が再び上がり、CSIの生産も堅調だ。メキシコのNJSMは立ち上がりの段階だが需要家の認証取得が進み、これから戦力化していく。JFE商事が米薄板建材製造・販売のCEMCOを買収しており、伸びる北米市場で需要を取り込んでいく」
――上期にグリーン鋼材「JGreeX(ジェイグリークス)」の販売を始める。
「脱炭素技術により製品の付加価値を上げ、将来資金を先行して獲得し、脱炭素に投資を振り向ける。重要なのはグリーン鋼材に対して需要家からどのように価値を認められ、購入していただけるかだ。需要家にグリーンの鋼材の価値を働きかけていくとともに需要家が抵抗なく対価を払える土壌づくりが必要であり、政府のご支援も必要と考えている」
――千葉地区でステンレス製造用に電炉の導入を決めた。
「CO2排出量削減に向けてスクラップの使用量を増やし、溶銑量を減らす狙いがある。加えて、倉敷地区での大型電炉の導入に向けて千葉地区に電炉の試験炉をこれから導入し、高級鋼の高効率製造方法について25年までに実証試験を完了させる。2050年のカーボンニュートラル実現に向けてカーボンリサイクル高炉、高効率大型電炉、水素還元製鉄の開発を進めるが、電炉については現中計で試験炉での実証試験を始め、次の中計の中で実証試験を終え、将来に結びつけていく」
――22年度は生産・販売量の減少が響き、減益となった。
「東日本製鉄所千葉地区の高炉改修と減産によるコスト増とともに海外の鋼材市況が年後半に軟調になり、販売量も伸びなかった。事業利益は前年比で43%の減益となり、鉄鋼事業のセグメント利益は1468億円と21年度に比べ55%、1769億円のマイナスと大きく減少した。減産影響によって減益にはなったが、コスト削減で一部取り返している。また主原料や副原料の価格、諸物価の上昇分について販売価格への反映を継続し、品種の高度化も進めたことでスプレッドは改善し、販価・原料は2200億円のプラスとなった。為替フロー差930億円とエネルギー単価530億円のマイナスがあったが販価・原料との差し引きで740億円のプラスとなったのは、それだけ販価の改善が進んだということ。これが23年度につながっていく」
――23年度に単独粗鋼は2500万トンと前年比90万トン増を計画している。
「22年度は千葉地区の高炉改修を控えていたため、21年度に先づくりした在庫を使用していた。23年度はこうした在庫使用の影響も含まれており、粗鋼が90万トン増えるが、需要や出荷がそのまま90万トン分増えるとはみていない。ただ、京浜地区の上工程休止により2500万トンは9割を超える稼働率となり、特に下期の稼働率は高い水準となる。需要については、販売が好調な自動車は半導体不足などの部品供給制約も徐々に緩和が見られ、当社がお客様から聞いている数字を合算すると、国内生産台数は900万台前後に増えると見ている。住宅関連は低調だが非住宅は都市部の再開発案件が続き、特に物流倉庫の建設が多い。一部先送りも見られたが、土木は堅調。造船は受注残が2年分あり、産機は半導体分野の投資で増え、建機は資源分野の需要がある。中国は難しい状況が続くが経済成長の目標達成に向けた対策がとられ、回復していくだろう。先進国の景気後退のリスクはあるが急激な変化が起こらない限り、底堅い需要が続く見込みだ」
――JFE商事は22年度に651億円の利益と過去最高を更新した。
「21、22年度と好業績を上げた。北米市場の鋼材市況高騰に加え、国内の鋼材価格上昇でトレードビジネスの利益が拡大した。鋼材加工の関連会社も販価の上昇局面でスプレッドを改善した。石炭や合金鉄など資源・副資材関連も市況が上昇し増益に寄与した。23年度は石炭市況がピークアウトし、合金鉄の価格も少し下がっている。北米などの市況下落によるスプレッド縮小も考慮し、23年度予想は480億円としたが、24年度最終の中期計画の目標400億円に対し80億円のプラスを見込んでいる」
「JFEエンジニアリングはドイツ子会社の一部工事での損益悪化や資機材価格の高騰などで134億円と減益となったが受注は過去最高。23年度は一過性のマイナス要因がなくなり、中期計画目標の350億円には届かないものの250億円と増益となる見通し。JFE商事との合算は730億円で中期計画目標の750億円に迫り、全社利益を支えている」
――少し早いが次期中計のテーマは。
「CNの取り組みは言うまでもなく、最重要課題となる。そのために収益を確保するが、鋼材トン当たり利益は1万円がゴールではない。改善の取り組みを持続し、利益水準を高くしていく。労務費が上昇の傾向を強めているが、コスト削減に加えて人手不足への対策としても省力化がなお重要になる」(植木 美知也)