基礎工事用機械器具の製造・販売・レンタルを行う基礎建販(本社=大阪市福島区、植田賴親社長)尼崎工場で、溶接作業に日々汗を流すグローバル人材がいる。ベトナム出身のヴ・ヴァン・ギャさんだ。来日後、非鉄金属業界の現業職を経て、日本に住む姉がきっかけで同社に入った。現在の業務内容や文化の違い、今後の目標などについて聞いた。
――来日前は。
「日本企業が多く進出しているハイズオン省で生まれ育ちました。自動車メーカーや電子部品メーカーなどの工場がありましたね。小さいころから周囲で日本製の家電を使いたがる人が多かったのを覚えています。高いですが、他国製と違って丈夫で長持ちするから人気なんですよ。日本は多くの新しい技術を持つ先進国という印象を抱いていました。学生時代に漫画『名探偵コナン』や『ドラゴンボール』のベトナム語版を読んでいたこともあり、日本はとにかく有名な国だと思っていましたね」
――来日の経緯を。
「ハノイ工業大学で4年間、自動車の技術について学びました。自動車関連の仕事はベトナムで給料が高くて人気なんです(笑)。卒業後は現地で機械のプログラム作成に従事。半年ほど経ったころ、たまたま日本から帰国したベトナム人の友人に会いました。日本で働いた感想を教えてもらい、いつしか私も日本で働いてみたいと思うように。日本語をよく知らないまま、2018年7月に来日しました」
――非鉄金属の道へ。
「最初はアルミを鋳造する企業に正社員で入社し、現業職として工場で働きました。工場はほとんどがベトナム人で日本人社員との交流がなく、話す機会もあまりなかったのが残念でしたね。日本語は家でユーチューブを中心にインターネット、テキストなどで独学しました。あいさつや自己紹介、スーパーマーケットで店員さんに質問する程度の語学力は付きましたよ!」
――その後転職した。
「20年に新型コロナウイルスの感染拡大が始まってから、全然仕事がない状態になってしまって…。同じく日本に住んでいる5歳上の姉が事情を知って、働き口を探してくれました。それで出合ったのが基礎建販だったんです。姉はベトナム人向けの法律事務所で働いていて、日本語がペラペラ。工場長に私の事情を話し、人手を必要としているか、弟の私が就職できるか聞いてくれたそうです」
――現在の業務は。
「同年7月に入社し、オーガースクリューの溶接やスクリューヘッドの羽根を曲げる作業などを行っています。ケーシングパイプの溶接もしていますね。細かな作業が多くて、特にスクリューの巻き部分はミスした場合直すのがとても難しく、時間も掛かります。責任重大なので、失敗しないよういつも慎重に作業しています」
――指導係は日本人。
「日本人の工場長が作業内容などを教えてくれます。時に厳しいけれど、優しい方です。基本的に日本語で教わりますが、分からない時はジェスチャーも交えてくださいますね。機械に関する用語など仕事に必要な言葉は、その都度ノートにメモして覚えるようにしています」
――先輩もサポート。
「現在、工場長を除いて8人の現業職がいます。私以外にもう1人ベトナム人がいて、ベトナム語で仕事を分かりやすく説明してくれることも。外国人が1人だとさみしいので、彼がいて良かったと思っています」
――やりがいを。
「基礎工事用機械器具に関しては未経験だったので、今行っている仕事は全部、入社時は自分でできなかったものばかり。スクリューやその羽根など、時間を掛けて一つ一つ作業に慣れ“できる仕事"に変わる時、とてもうれしいです」
――文化の違いは。
「労働に関するルールなどに大きな違いはないですが、日本の方が精密に作る必要があり、厳しさを感じますね。ベトナムではみんなリラックスしながら働いていて、社長も社員も一緒になってみんなでパーティーをよくするんですよ。日本はそういったものがあまりないですよね。コロナの影響もあると思いますが…。日本で働く方々はとても厳格だなと感じています」
――仕事以外では。
「プライベートだと、自動車の教習所に通っています。ベトナムは自転車やバイクでの通勤が多い国なので、自動車に乗ったり運転したりする機会がなかったんです。本免許が取れたら、今秋に子供が生まれるのに合わせて、日本で自動車を運転するつもりです。姉も本人名義の自動車に日々乗っていて、便利でいいな、私もマイカーが欲しいなと思っているんですよ(笑)。宗教面では来日後、一時的に仏教の信仰をやめています。ベトナムではお寺に通っていたのですが、日本とベトナムのお寺は言語や宗派などいろいろと違うので…」
――鉄鋼業界について。
「日本の鉄鋼業界が発展して多くの価値を生み出すのを、ベトナムにも見てほしいと思っています。日本のような先進国になるためにも、日本の鉄鋼業界を見習ってほしいです」
――今後の目標を。
「尼崎工場で作られている製品を、全て自分で作れるようになりたいですね。この経験がいつか、ベトナムでも生かせるとうれしいです」
(芦田 彩)
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