ステンレス大手の日本冶金工業は女性採用を積極的に進めている。2012年に女性総合職を1人採用して以来、22年度の新卒総合職では15人のうち4人が女性を占めるなど、徐々にその比率は高まってきた。現在、営業や製造所、技術研究所などさまざまな部署に女性社員が在籍する。12年入社の女性総合職で現在は米シカゴの現地法人「ニッポンヤキンアメリカ(日本冶金アメリカ)」で勤務する蔵原希美さんに、働く思いや現在の仕事内容などについて聞いた。
――入社の経緯とこれまでの職歴から。
「就職活動で留学経験が生かせる仕事を探していた大学院生時代、英語が話せる人材を募集していた当社に縁あって採用されました。入社早々に、本社の貿易・輸出営業の部署(海外営業部)に配属され、欧州やロシア、トルコ、中国などの顧客に対し、受注営業や、製品の納期調整や指定仕様への対応を行ってきました。15年には約1年弱ほどISSF(現世界ステンレス協会)に出向し、ステンレスのサステナビリティーや公衆衛生などの調査、生産におけるCO2排出量などの環境負荷について調査分析を行いました。その後本社の海外営業部へ戻り、20年1月から日本冶金アメリカに異動となりました」
――現在の業務内容を教えてください。
「日本冶金アメリカは、営業3人(日本人2人、米国人1人)とアシスタント1人の4人で、北米から中南米までカバーし営業活動を行っています。顧客の9割強が現地の企業で、日系企業は非常に少ないため、英語でのやりとりが主体です。販売する製品としては当社の高機能材のニッケル系合金の割合が高いです。私は主に米国・カナダ・メキシコのお客さまが多く、需要家や問屋流通などを中心に訪問しています。22年7月から出張が増え、新型コロナウイルス感染拡大前の営業活動に戻ってきたところです。月の半分のペースで出張に出ています。」
――入社以来営業が長いのですね。
「当社の新卒入社は、初任地が川崎製造所や大江山製造所などの製造現場に近い職場からキャリアがスタートすることがほとんどですが、私は入社後すぐに海外営業部へ配属されました。入社間もない頃は右も左も分からず、上司や製造所の方に何度もご迷惑をおかけしたことを覚えています。業務の流れがつかめるようになるまで3年はかかりましたね。海外営業部も日本冶金アメリカもお客さまのもとへ足を運び、用途やニーズを聞き出してしっかりと応えるという点は共通しますが、アメリカに来てからは自分が営業の最前線にいる、という感覚が日本にいた時よりも強くなりました」
――後輩にあたる女性社員も増えてきました。女性が働くことについて思いはありますか。
「そもそも私は仕事をしていく上で『男性だから』『女性だから』といったことを意識したことがなく、女性が仕事をすることは当たり前のものと考えています。もちろん男性と女性でフィジカルの差はありますから、職種によって事情は異なると思いますが、少なくとも私の今いる立ち位置や仕事に関しては、性別は関係ないものと思っています。少し踏み込んで言えば、女性にとってきつい、つらいと思うような仕事は男性も同様にきついのではないでしょうか。そのような仕事には人手不足の問題が付きまといます」
――アメリカの人手不足の状況はいかがですか。
「取引先を回っていると、鉄鋼関連業界の人手不足の深刻さをひしひしと感じます。ある会社では若者を募ってもなかなか集まらない上に、入社すると『この仕事はきつい』と言って数日で退職といった事例もあるほどで、常に人が足りていないそうです。アメリカで起きている人手不足は日本の将来の姿のように映ります。20、30年後と言わず、10年後、同じような人手不足の問題が日本で起こることを強く危惧しています。女性だけでなく、性別に関係なくさまざまな人にとって働きやすい職場となることが、人手不足解消の一助となるのではないでしょうか」(北村 康平)
鉄鋼業界で活躍する女性をはじめとした多様な人材、未来を担う人材を、随時紹介していきます。