母国を離れ、日本の鉄鋼業界で管理職として活躍する男性がいる。ステンレス・特殊鋼の専門商社、大同興業大阪支店(所在地=大阪市中央区、早川浩史支店長)の素形材営業本部素形材第一部長、金本隆さんだ。非鉄金属の専門商社を経て2002年、大同興業へ活躍の場を移した。流ちょうな日本語を操り、部下からは「気さくに話しかけてくれる上司」「金本部長からいろいろ学びたい」と評判だ。業務内容、管理職について、部下への思い、今後の展望などを聞いた。
――大同興業へ入社。
「東京本社の素形材チームで、海外からの仕入れと販売を担当しました。重電関連の部品向け、石油掘削関連向け、建機関連向けなど幅広く扱いましたね。素形材の向け先は船舶、航空機、産機、農機、半導体、自動車などもあり非常に幅広いんです。鋳物の油圧部品などは品質に安心感のある台湾、付加価値が低くコストで勝負する商品は中国にターゲットを定め、すみ分けしながら開拓しましたね。入社6―7年目ごろにリーダーになってからは、部下を連れた新規開拓や拡販、人材育成を行う機会が増えました」
――管理職に就いた。
「プレッシャーがないと言えばうそになります。20代のころは、自分のバックグラウンドがハンディキャップになると思っていましたから。留学組は就職してもすぐに辞める人が多く、今思えば自分も逃げたい気持ちがあったかもしれません。30代以降から考えが変わりましたね。32歳で入った大同興業と相性が良くて。10年は日本でしっかり仕事するぞ! 泥くさい仕事をすべきだ! と思い、グローバルな経歴を持ちながらも海外勤務の希望は出しませんでした。実際に10年経ってから『そろそろ海外に行ってもいい』と思い、12年、大同特殊鋼上海の駐在員になりました」
――海外勤務を経験。
「貿易営業部長を2年担当しました。当時の同社は社員が50人くらいで、収支がトントンといった状態。とても楽とは言えません。どうすれば利益を出せるのか、仲間や部下と一緒に考えました。中国は広いので、多少なりとも可能性のある客先をあちこち回りながら、何が売れるのか戦略を立てていきましたね。日本にいるより大変でしたよ。走り回っていた上に、中国は会食文化が盛んな国。平日は全然家にいなくて、付いてきてくれた妻から『何していたの』と言われることもありました(笑)」
――社長も経験した。
「その後、同社の社長(総経理)を2年、大同興業深圳の社長(同)を2年経験しました。文化が違うこともあって相談できる相手がおらず、ある程度の判断を自分でしないといけないのが大変でしたね。一方で、経営者目線でお金や人材採用、決算報告書などさまざまな業務に携わることができ、とてもやりがいを感じる時間でした」
――帰国後は。
「18年4月に帰国し、東京本社の素形材営業本部に配属。素形材第一部長となりました。組織改編に伴い、21年4月から大阪本社の同部署も見ることになりましたね。部長として部下の指導をする機会が多く、直接1人で客先に出向くことは少なくなりました。5年経ちましたが、環境にとらわれず既存ビジネスを維持しながら、常に新規開拓のチャンスを創出し、業績の安定と持続的成長を図るのが現在の目標です」
――やりがいを。
「部下の成長ですね。若い社員に成功体験をさせるよう心がけています。苦労して成功し、ミッションを与えて私もフォローしながら実績を作っていく――。具体的なプランを組むことで、商売の面白さを知ってもらえたらと思っています。ただ仕入れて売るだけではなく、お客さまの悩みを聞いて、ビジネスチャンスを探し提案することで、自信も付くんじゃないかなと。時には苦労話を話すこともありますね。『部長にもそんな失敗があったんだ』と知ってもらうことで、相談しやすく気軽に接してもらえる存在になるのではと思っています。部下から相談を受けた際は、どんなに急ぎの仕事をしている時でも、必ず手を止めるように心がけていますね」
――大変なことは。
「部下は一人一人違うので、中には逆境に弱い者もいます。そういった者には自信を持ってポジティブな存在になるよう育てなければと感じていますね。やりがいを感じることで、部下に幸せになってほしいです」
――不安定な情勢が続く。
「新型コロナウイルス禍もそうですが、環境の変化で消滅するビジネスもある一方で、10年、20年と成長し続けるビジネスもあります。EVを筆頭に、新商品の開発など、どんな商品が売れる常に考えて次世代に進んでいきたいですね」
――他にも考えが。
「グループ会社外を含め、仲間、ビジネスパートナーを増やしていきたいです。作れば、商売が広がっていくと思うんです。特殊鋼などわれわれの扱う商品は、世界市場を視野に入れるとまだまだ成長のチャンスを掴めるはず。日々の業務をこなしながら、5年後、10年後の部署を常に考えています」
――今後の展望を。
「今後、海外市場が伸びていくと思います。同時にグローバル人材を増やす必要が出てくるなど、多様性も求められるのではないでしょうか。母国の文化、習慣を強みに活躍できると思います。商社は“人財"が何より重要ですから。国籍なんて関係ない。『国際人』としてこれからも貢献したいですね。現在は部下の指導などが中心となっていますが、誠意と真心を大事にできる営業職を育てていきたいです」(芦田 彩)
鉄鋼業界で活躍する女性をはじめとした多様な人材、未来を担う人材を、随時紹介していきます。