国内で再生可能エネルギーの切り札とされる風力発電。20年を超える日本での事業展開を加速させているのが、シーメンスガメサリニューアブルエナジーだ。陸上風力ではこれまで588メガワット(58万8000キロワット)を設置し、800メガワット超の受注残を抱える。洋上風力では国内初のプロジェクトとして112メガワットの石狩湾新港洋上風力発電所向けに風車の供給を受注。O&M(運転・維持管理)では350メガワットを管理し2027年度までにゆうに1000メガワットを超える見通し。このほど同社のサービスエンジニアである久保田香菜さんに風力発電メンテナンスの魅力、現在の仕事などについて話を聞いた。
――日々どのような業務をこなしていますか。
「ほぼ毎日、地上70メートル程の高さにある風車に上って点検と保守作業に従事しています。青森県に設置されている風車のメンテナンスが中心ですが、北海道から秋田、福岡などの現場に出張サポートも行っており、充実した日々を過ごしています。再生可能エネルギーという新しい産業の最前線で携わり、地元の青森に居ながら日々進化するグローバルな技術に触れ誇りを感じています」
――職場について。日本の拠点の人員などは。
「総従業員数は約70人で、うち15人が女性です。現場メンテナンス技術者は21人で、女性は私一人。現在、建設ラッシュとなっており、今後完工する風力発電機のメンテナンスを請け負うにあたり23年3月までに20人以上、24年以降も人員の補強が必要です」
――そもそもなぜこの仕事を選んだのでしょうか。
「地元の高校から工業大学に進学して就職活動の時に募集を知り応募しました。日本では多分、唯一、巨大風車の中で作業をしている女子かな(笑)と思います。入社して7年目になりますが、高所は苦にならなかったですし、しっかりとした安全帯を付けてゴンドラに乗っての作業であり、ロープでの吊り下がっての保守点検作業はありません。屋根(ナセル付近)の上では移動できるスペースも確保されています」
――重量物の運搬などは。
「重量物の運搬にはホイストチェーンクレーンなどの機械を積極的に使用しており、あまり重量物を持つこともないですが、やはり経験がものをいう仕事かもしれません」
――最も重要な安全性の面を伺いたい。
「直近5年間は休業災害ゼロを継続しています。安全衛生保護具は欧州の洋上および陸上風力発電における優良事例やEU指令に基づいた最高レベルの安全衛生保護具・緊急救急設備を採用しています。万が一の事態に備えて、作業場には必ずAEDや応急措置キットも持参します」
「またART(アドバンスト・レスキュー・トレーニング)という訓練や、山間部の奥地にはスノーモービルで向かうこともあり、スノーモービルの運転訓練なども行います。災害撲滅キャンペーンビデオは定期的に視聴し、リスクアセスメントフォームに則った訓練も行っています」
――作業現場は過酷ですか。
「基本的に海岸や山間部など人が住んでいない環境での仕事ですが、2―4人のチームを組んで作業するので孤独感はありません。トイレは自動車を改造した簡易用のものを作業現場付近に止めておきます。これは先輩から聞いた話ですが、朝の現場では降雪がなかったのに、作業が終了し帰る頃には、止めていた車が降り積もった雪に埋まっていたということがあったようです」
――女性も働ける職場だと思いますか。
「女性でこの仕事に従事しているのは恐らく自分だけと想像していますが、会社としてバックアップしてくれていますし、女性にできない仕事とは思いません。狭い風車の中では他の作業員と接触してはいけないため小柄な方が作業しやすく、むしろ女性に適しているとも思います。無事故で運転開始こぎつけた時の達成感は大いにあります。一人でも多くの人に風車業界を知っていただき、同じ仕事を志望する機械工学系女子が増えてほしいと願っています」(菅原 誠)
【シーメンスガメサリニューアブルエナジー】独シーメンスウインドパワーと西ガメサが合併し、2017年4月設立。株主はシーメンスエナジーAGが93%を保有する。スペイン証券取引所に上場。風力発電製品およびサービスソリューションの世界的なリーディングプロバイダーとして総社員数は2万7604人。うち女性は19・6%。地域別では欧州・中東・アフリカが21・3%、米州18・2%、アジア・豪州が14%。社員の国籍は122カ国、うち上級管理職の出身国籍は23カ国に上る。日本では22年2月に株式会社を設立。日本市場への長期的コミットメントを強化しており、風力発電施設の開発と運営に携わる人材を100人規模まで増やし、ローカルチームの強化を図っている。