――2022年を振り返って。
「カーボンニュートラル(CN)や、ロシア・ウクライナ紛争、新型コロナウイルスの感染などがあり、LNGや電力料金がほぼ2倍などと、エネルギー価格が上昇し、電炉メーカーに逆風。鉄スクラップ価格も高値が続き、全てのエネルギーと資材が値上がりした。半導体などの部品不足による自動車メーカーの減産もあり、『長期にわたる不安定な状況』を意味する“Permacrisis(Permanent+Crisis)"に陥った」
――23年3月期の業績見通しを。
「連結売上収益は過去最高の見通しだが、利益は厳しい。値上げに顧客の協力が頂けても、サーチャージ期間の問題もあり全ての期中転嫁はできず、エネルギー、資材の高騰が前年度比約300億円の減益要因となり、売上は伸びても利益が伸びにくい」
「電力料金の高騰は、日本の製造業に甚大な影響。省エネ、操業体制見直し、技術革新とともに、日本の製造業を守るためにも、鉄鋼連盟や特殊鋼倶楽部などとの業界団体の連携を強め行政との情報交換、理解活動が重要となる」
――CNへの取り組みを。
「30年に13年度比35%のCO2排出量削減、50年までのCN実現に向け、できるところから実施している。21―22年に岐阜、関、東浦、電子部品の4工場にCNな都市ガスを全面導入。FIT非化石証書の購入で再エネ電気も導入し、22年5月にはスマートカンパニーでCNを達成した。今年度中に刈谷工場もCNとし、全7工場中5工場でCNを達成する。23年度上期には関と岐阜工場に太陽光発電システムも設置する。知多、鍛造工場では、CNなエネルギーの購入と、第2棒鋼ラインの加熱炉冷却水の温度制御自動化などの省エネ技術でCN達成を目指す。将来に向けた革新電気炉の導入についても検討を続ける」
「CNに対する私の持論は“環境と成長と標準"。環境は、CN実現に向け省エネなどを進めること。一方、成長とはCNを進めることで企業が被害を被ったり成長が抑制されたり、ましてや潰れてしまっては意味がないということだ。標準とは、欧州の国境炭素税など標準が色々なところでつくられる。そのような標準の作成にも参加することが極めて重要になると考える」
――製品の高付加価値化もテーマだ。
「海外メーカーから唯一、浸食されていない特殊鋼は日本の“粋"であり、最後の砦。日本の製造業を支えるためしっかり継続していく。今後は従来の鍛造、特殊鋼分野は量が減っても付加価値を上げ、同時に、高機能製品のステンレスや磁石、センサー、あぐり、パワーカードリードフレームの分野を伸ばし、60%以上の利益をスマートとステンレスカンパニーが担うことを目指す“両利きの経営"により、トータルで右肩上がりを目指す」
――ステンレス需要に対する見方を。
「CNに伴い水素社会となる中で今後、湾での水素基地建設や燃料電池車、水素エンジン車に対する部品供給、国土強靭化への社会インフラ整備など、ステンレスは大きく伸びる。それに対し、マイナス253度の液体水素に耐え得る高圧水素ステンレス鋼の開発を進めるとともに、一部工程への設備投資や生産性の向上で、ステンレス生産能力を23年度末までに19年度比15%増の7万3000トン、26年までに9万トンに引き上げていく」
「高機能製品にはパワーカードリードフレームもあり、昨年、岐阜工場に第3ラインを増設したが、トヨタ自動車が計画する30年までの電動車350万台にはさらなる能増が必要。供給を担う身として、需要増にしっかり貢献していく」
――人材育成について。
「操業や設備をよく知りデータも解析できるDX人材と、AIも含めて提案や展開もできる技術者のIT人材を育てていく。30年度中に、ほぼ全事技職の900人をDX人材とし、90人ほどをIT人材にしていきたい。特に部品開発や設備技術、IT部門のメンバーが中心になる。DXについては、稼働状況のモニタリングや、物理現象のデジタル解析などが進んできた。暗黙知の形式知化などにも取り組み、30年までに予知や解析ができるようにしていく。CNとともに社長直轄で推進する」
――賃上げもクローズアップされている。
「労使協調で人への投資と成長の両立を目指す。特殊鋼労使懇談会などの場で組合の意見を十分に聞き、われわれの現状について忌憚のない意見を交換し、十分話し合いをしていく」
――海外戦略は。
「技術支援するインドのバルドマンスペシャルスチールの生産を、現状の年間20万トンから25年までに25万トン体制とする。年初からアイチフォージタイランドへの出荷を本格化し、今年は年間1万2000トンを供給する。その分当社の国内生産に上方弾力性も生じる。また、自動車生産が世界第3位となり、モータリゼーションの到来も期待できるインド市場にも対応していく」
「北米では昨年、アイチフォージユーエスエイにトヨタスタンダードラインを導入した。ブラジルなど南米向けも含めた全米における現地生産を拡大し、トヨタグループの最大鍛造拠点として、地産地消に貢献していく」
――今後の見通しを。
「厳しい経営環境は継続するものの需要面では、今後顧客の生産量も回復する見込みがある。将来の生き残りをかけ、経営基盤、モノづくり力、稼ぐ力をつけながら、CN、電動化に貢献する高機能製品の技術開発力を高め、日本の基幹産業を支えるモノづくりを守り抜いていきたい」