三井物産の金属関連事業は次期中期経営計画に向けて安定供給と脱炭素の二刀流の取り組みを強める。とりわけ脱炭素関連の資源を含めた素材確保、リサイクルなど循環型経済の社会課題に対する解決策で成果を出すという管掌役員の宇野元明専務に方針を聞いた。
――2021年度は金属セグメントで最高益だった。
「商品市況の影響はあるが、先輩が積み上げてくれた資産、ポートフォリオをさらに良質化した。このプラットフォームが数字に表れた。鉄鋼製品も重点4分野の整理もでき、関係会社も体制が固まってきた。商品市況が上がったことによってアップサイドを取るという言い方をしているが、そういう基盤があった。この収益基盤をさらに強化する。損益分岐点を下げる努力をしつつ新しい分野にもチャレンジする。次の世代に向けて新しい分野の事業なり資産の積み上げをやらなければいけない。中経が今期で終わるので脱炭素の分野が次期中経に向けての注力分野になろうかと思う。安定供給と脱炭素の二刀流で頑張りたい。社会的課題に現実解を与えていくのが我々のミッションと認識している。既存事業の強化は引き続きやりつつ脱炭素はより実績を積み上げていく」
――去年に比べると22年度は減益を見込む。
「去年の鉄鉱石の価格と今年の価格が分かりやすい。原料炭よりも鉄鉱石の方が資産が厚い。資源だが去年が5000億円弱で、今年が上方修正して4000億円で考えている」
――SMC(旧BMC)の原料炭権益売却がある。
「SMCを売却したが、原料炭をやめるということではない。ポートフォリオ入れ替えの総合的な判断をした。既存の原料炭事業は徹底的な効率化を含めて安定供給の責任を果たす。急に水素還元ができるわけではない。原料炭はしばらく必要だ」
――金属の観点から先行きをどう見るか。
「鉄鉱石は引き続き必要ではあるものの、やはり一部電炉に置き変わる部分もあるので、少し前のように価格が高騰することは考えにくい。少しずつ平時に戻っていく。一方で、銅やニッケル等は短期的には供給が勝つかもしれないが、2020年代後半にかけて不足するので、リチウム等の電池材料や低炭素鉄源を次期中経でも力を入れていく」
――鉄の需要は増えるか。
「中国が横ばいからちょっと下がるが、インドとか新興国が増えていくので徐々に安定から微増。足元はヨーロッパのリセッションがあるが、ウクライナ戦争が終われば、ウクライナの復興需要があるだろうし、落ち着いてくれば、アジア、先で言うとアフリカ、この辺のインフラ需要を含めてまだまだあると思う。世の中不透明なので楽観的ではない。我々はしっかりした良質なプラットフォームを作っていく。景気がどうあれ一喜一憂せず、社会的課題の現実解を見つけていく」
――中経の成果と課題は。
「モアティーズ・ナカラ(原料炭・インフラ)、カセロネス(銅)から撤退したり、あるいはコジャワシ(銅)を買い増したり、既存の鉄鉱石で拡張も実績ができている。金属資源は資産の良質化は進んだ。脱炭素系は今積み上げ中ということで来期果実化する案件ができてくるといい」
――鉄鋼製品も成果が上がった。
「インフラ、モビリティ、流通、エネルギーそれぞれに形はできているのでそのなかで徹底的に良質化していく。いわゆる商社機能を磨く」
――エムエム建材の持分を三井物産スチール(MBS)から本体に移した。
「脱炭素につながるがサーキュラーエコノミーでスクラップの需要が増し、良質なスクラップを確保するのは高炉も電炉も大事だ。我々はグローバルで見たらシムズ(豪リサイクル業)もある。本体を司令塔として、日本を含めたグローバルなスクラップをどのように仕上げていくかという課題意識のもと取り組んでいる」
――シムズの出資は。
「17%くらいだ。インダストリアルパートナー、筆頭株主として連携を強化していく」
――冷鉄源は。
「神戸製鋼所、ミドレックス、ヴァーレとの連携がある。この辺のサプライチェーンをうまく組み合わせて還元鉄は必ずやらないといけない。かつて石炭、鉄鉱石とやったように次世代は還元鉄だ。ミドレックスは水素還元の技術も確立している。サプライチェーンのなかで我々としては水素を供給することもできる」
――水素が安定供給できれば立地を選ばない。
「場所を選ばない。スウェーデンのH2グリーンスチールには神戸も出資している。ブラジルでもオーストラリアでも中東もあり得る。将来は鉄鋼をつくる場所が変わるかもしれない。還元鉄、スクラップは次期中計でしっかりと成果を出したい」
――電炉関連では。
「ニューコアとはニューミットというスチールテック(米鋼材流通)の50対50の入れ物を持っている。ニューコアは新しく厚板ミルをつくったりしているが、その先は洋上風力などが出てくる。我々はGRIというタワーを作っている会社があり、米国にも製造拠点がある。原料から金属資源と鉄鋼製品一体となり、将来必要となるだろう水素においても当社機能をフル活用してグリーンスチール時代のサプライチェーンの役に立ちたい」
――中経は詰めが進む。
「作業中だ。組織を大きく変えることはないが、サプライチェーンを考えた時に片方だけ見ていてもしょうがない。金属資源本部と鉄鋼製品本部の一体化が進む」
――LCAのソリューションもある。
「LCAプラスは毛色は変わっているが、鉄鋼製品というよりも、製品ごと、部品ごとだ。一方で事業所ごとは他の本部がやっているイーダッシュがある。当社としては事業所ごと、部品ごと、全社が脱炭素に役に立てる事業をやっている。英バインディングソリューションは焼成プロセスなしで常温にてペレット化する技術を開発中のスタートアップ企業であり我々は少額出資した。同技術の鉱山・金属製錬事業への幅広い適用により、環境負荷低減と経済性向上を見込む」
――粉鉱を使える。
「製鉄ダストもだ。もう一つNDAを締結した豪ヘイザー社は鉄鉱石を媒体として天然ガスから水素とカーボングラファイトに分離する技術を持つ。還元鉄、スクラップのみならず新しい技術的なこともやっている。非鉄分野も二次合金のニーズも高まっている。リサイクル系、シムズ、エムエム建材のみならずグローバルでサーキュラーエコノミーに貢献していく。電炉との連携という意味ではクローズドループという言い方をしているが、需要家のスクラップを製品にして戻すことにチャレンジする。あとはグリーンスチールにいかに価値を認めてお金を払ってくれるかというところが課題だ」
――今プレミアムは付いていない。
「今のところはなかなか厳しい。うちで始まったのはカーボンフリー油井管をノルウェーに売った。まだマーケットができていない。いずれ来るのでできる体制にはしておかないといけない。高炉各社もカーボンフリーの売り出しをそれぞれ始めているので、そこは期待だ」
――グリーン製品は先行しているか。
「アルミではブラジルの水力発電由来で製造できる点に強みがある。あとは二次合金だ。鉄鋼関連では、新しい動きとしてタイのSYS(サイアム・ヤマト・スチール)にうちの人間を送った。大和工業の方針はASEAN注力の方針を打ち出している」
――電磁鋼板は?
「方向性も無方向性も注力する。ヨーロッパにEMS、マイキングがあり中国には日宝鋼材、カナダにTMSがある。これから電磁鋼板はグローバルにコイルセンター機能を発揮したい」
――次の3年で鉄鉱石とか資源が量的に増えていくのか。
「鉄鉱石は持っている資産の維持拡大は継続する。原料炭も持っている資産のバリューアップは継続する」
――銅はアングロスール鉱山の拡張。
「ロスブロンセスは豊富な埋蔵量を最大限活かすべく、株主間で継続協議をしている。次期中経期間3年のうちには進展を見せたい。コジャワシはさらに増やしていく」
――銅はアフリカとかチリ以外では。
「今ある事業の価値を上げていくことを優先しながら新規に関しては経済性を見ながら検討する」
――電池関係は素材も色々ある。
「リチウムを中心に色々と仕込む」
――かん水より鉱山に投資する。
「両面考える。我々にとっては新たなる挑戦になる。トレーディングは一部やっている」
――次の中経で具体化するのか。
「できればと思っている、国によって事情が異なり難しい面はある」
――現中経の投資が1兆5000億円だが次はもっと大きいのか。
「足元キャッシュは生んでいる。どういった形で使っていくかこれからだ」
――金属がらみで使う部分も多いと。
「安定供給のためにはそれなりに維持投資も必要だ。新たに権益を増やすとか、拡張するのであれば、それなりのお金が必要になる。脱炭素系でお金を使っていきたい」
――バイオマスも金属関連でやる。
「まずはトレーディングから始めて、その先どうするかを今考えている。(還元材として)木炭銑は一つの代替材だ。脱炭素周りと言うと我々は鉱山周りの例えばトラックの電動化とか水素を使ってとか、この辺はモビリティ部隊と連携し、総合力で、メジャー各社に貢献していきたい」
――電池のリサイクルも今後展開する。
「電池リサイクルは次の中経の一つの大きなトピックだ。リユースの要は中古蓄電池を持ってきてスタジアムの電源を賄う会社である。それは他の本部でやっているが、資源の方でも検討している。シムズも新しいことやろうとしている。この辺は是非やっていきたい」(谷藤 真澄、正清 俊夫、田島 義史)