――グローバル展開から。まず米州の現状と今後の対応を。
「コイルセンター(CC)は米国4カ所と豊田通商との合弁の合計5カ所、メキシコに3カ所で北米8カ所を持つ。米国では2019年に現地CCのマジック・スチールを買収したが、次の一手としてグリーンフィールドではなく、マジックと同様に今の会社の力を強化でき、顧客により良いサービスを提供できるようなM&Aの機会を探っていく。需要業界によって波があるので、販売のポートフォリオを、バランスを取って分散する方が安定する。需要が伸びる分野を考え、個別にはその分野の顧客の事業成長が期待できるところを狙う。一方、メキシコでは拡大するEV市場向けに電磁鋼板の加工を行っている。顧客はサプライチェーンの多角化の観点から中国への集中を分散させる候補として同国を重視しており、当社の同国のCCは拡張余地があり対応していく」
――北米で薄板建材の加工を行う考えは。
「20年ほど前に米国で薄板建材の加工に参入しようと考えたが、当時は競争が激しく見送った。今は金利が上がっているので住宅、続いて商業施設の建築が影響を受け、今後需要が鈍化すると考え、慎重にみている。ただ、米国は先進国の中で唯一、人口が増える国であり、攻めるエリアとして注目していく。レールの輸出含めて米国の鉄道業界に深く関わっていることもあり、地域としては次の投資を積極的に考えていきたい」
――現地電炉のSDIやニューコアとの関係を生かすことも。
「設立に係わったSDIとの関係は現在も続いており、ニューコアともビジネスがある。両社以外にも、グリーンな鋼材として提案するなど電炉材のビジネスはチャンスを模索していく。特殊鋼線材製品の扱いにも関心はある。ブラジルではゲルダウと風力発電向けの鋳鍛造製造の合弁会社を持つ。既存のビジネス領域に留まらず、住友商事の鋼管本部との連携なども活かして、総合エネルギー企業に変容するオイルメジャーなどとのビジネスにも領域を広げていく。住友商事100%子会社の強みを生かし、グループ一体でインフラ関連分野などあらゆる分野でビジネスを展開していきたい」
――変調している中国市場にどう対応するか。
「まずはお客様がどうしようとしているのか、よく会話をして把握し、お客様のお役に立てるようにしたい。民族系のEV車は車体構造自体が変わらないので、鋼材需要の大きな変化はなく、現状軽量化のニーズもあまり広がっていないと考えているが、一方で日系や欧州系の自動車はグローバルプラットフォームに電池を載せているのでEV化によって軽量化のための部材が増えている。当社のCCは中国国内に6カ所あり、今のところ具体的な増強投資は考えていないが、市場を見極めながら中国のお客様も含め、共に対応を検討していきたい」
――伝統的に事業の網を広く張っている東南アジアでビジネスをどう伸ばしていくか。
「量と質の成長が期待できるタイとベトナム、インドネシアの3カ国に重点的に力を注ぎ、規模を広げたり、新たな分野に出ていく。東南アジアのCCの再編は一段落し、ベトナムは2社3拠点、タイは3社6拠点を持つ。インドネシアは1社2拠点あり、現地市場でプレゼンスの高いトヨタ自動車・ダイハツとの取引を考えて今年3月に豊田通商との合弁にしている。フィリピンとマレーシアはそれぞれ2社2拠点。亜鉛めっき鋼板の製造拠点はベトナムに絞っている。東南アジアの薄板市場は経済の発展に伴って需要構造が変わり、加工や部材など新たに生じる需要を日本材、三国材、東南アジアの現地材のそれぞれの強みを活用させていただきビジネスにしていきたい」
――需要拡大が見込めるインドの展開は。
「現地特殊鋼大手のムカンドとの合弁会社を通じて特殊鋼事業をさらに伸ばしていく。新しい圧延ラインを昨年に立ち上げ、顧客の認証を取得してフル稼働になってきている」
――欧州はどうか。
「チェコのCCの合弁相手先とどういう展開をしていくか、考えていきたい」
――重要である国内の次の一手は。
「お客様からはより効率化したサービスや新たな分野での貢献を期待されていくと思う。新たな分野ということでは気候変動対応などもあり、素材面や物流面なども含めてお役に立てる新たな付加価値とサービスを提案していきたい。販売先や鉄鋼メーカーのニーズに対し、住友商事グループ全体でお役に立つことで日本鉄鋼業界の競争力の強化にもつながることができれば幸せに思う。市場の変化がダイナミックであり、総合商社の一翼を担う機能を発揮し、頼ってもらえる商社でありたいと思っている」
――カーボンニュートラル(CN)への対応は。
「10、20、30年後に住友商事グローバルメタルズがどれだけ成長できるか、今が転換点と思う。世界の変化のスピードは速く、特に気候変動への対応が求められている。BACC(気候変動対応ビジネス)というCNに対応する組織を作り、住友商事グループ全体でも製鉄ゼロカーボンビジネス創出連絡会を設置して取り組んでいる。世界がCNを目指す中で大きなビジネスチャンスがあり、社会・業界への貢献にもつながると考えている」
――業績をみると、上期に当期利益155億円と前年同期比25億円増え、大きく改善している。
「第1四半期が94億円、第2四半期が61億円。通期予想が270億円で下期は115億円となる見通し。第2四半期の値でもある60億円前後が今の市場の中での当社の稼ぐ力と言える。第1四半期は第2四半期より30億円ほど多いが、これは好調だった前年度の状況が影響したと言える。鋼材の価格上昇に加え、1―3月の契約が堅調で4―6月の出荷の増加につながった。第2四半期は海外市況が軟化し、自動車の減産が続き、夏季の不需要期も重なった。下期は自動車が以前のレベルにまで戻るのは難しいが、上期よりは回復する見通しだ。電機の需要は景気の低下や金利上昇で下降気味。他の分野はやや低調で下期はさほど期待できず、上期の横ばいとみている。懸念要素は多く、ゼロコロナ政策と不動産不況に伴う中国の景気と鋼材輸出の動向は気がかりだ。半導体不足の影響による自動車や電機、工作機械などの生産もなお不透明。機械の生産が遅れ、当社グループの工場の設備更新投資に従来の倍の納期がかかっている」
「こうした市場の動向を踏まえた当社グループ通期の管理純利益は270億円を予想し、前年の266億円から微増となる見込み。住友商事の金属事業部門として19―20年度に2年連続の赤字となり、その後に構造改革に取り組んだ成果を得つつある。21年度にあった追い風がなくなる一方で前年並みの利益を確保する。それだけ稼ぐ力がついてきているが、さらに力を磨き、将来に備えていきたい」(植木 美知也)