――持続的成長の鍵を握る海外戦略について基本方針から。
「海外拠点が47カ所、両株主への業務委託店が34カ所あって、世界で81カ所に営業ネットワークを張り巡らしている。幅広い情報を活かしてソリューションを提供し、常にトレードの現場にあって、機能とサービスを拡充していくことで存在感を高めていく。そのためには相応の数量の拡充は不可欠と認識し、日本の鉄鋼メーカーが得意とする自動車など製造業やエネルギー分野向けの高付加価値ゾーンに注力するとともに、建設や社会インフラ向けのボリュームゾーンも追いかけていく」
――まず米州の展開を。
「現地法人は米国がニューヨーク、ロサンゼルス、ヒューストン、シンシナティ、ナッシュビル、シカゴ、デトロイトの7拠点の133人体制で18人が駐在している。カナダはバンクーバー、トロントの2拠点17人体制で駐在員は1人。メキシコがメキシコシティ、ケレタロの2拠点30人体制で4人が駐在。ブラジルはサンパウロが5人体制で1人が駐在している」
――北米の事業会社について、稼ぎ頭の建材分野から。
「建築用のスチールフレームなどで全米4割半ばのシェアを握るクラークウエスタン・ディートリック・ビルディング・システムズ(CDBS)があり、住宅の屋根・壁用のアルミ・スチールサイディングを得意とするクオリティ・エッジとともに建材マーケットの深耕に取り組んでいる」
――薄板分野では、コイルセンターを買収した。
「CDBSのパートナーで大手鋼材流通のワージントン・インダストリーズとUSスチールの合弁会社であるワージントン・スペシャルティ・プロセシングからミシガン州にあるジャクソン工場の買収を11月1日付で完了した。米国はMISAメタルプロセシングがテネシー州ポートランド、ケンタッキー州ルイビル、アラバマ州バーミンガム、ミシシッピー州フォレストの4カ所に拠点を展開し、主に自動車関連需要に対応している。北米最大規模を誇るRSDCミシガンがデトロイト近郊のホルトで、ゼネラルモータース向けの切断、ブランキング加工を行っている。メキシコはMI・メタルプロセシング・メヒカーナがアグアスカリエンテス、MISAナショナル・メタルプロセシングがグアナフアト州にある。新MISA・スペシャルティ・プロセシングを加えて、北中米の薄板加工拠点は6社9拠点となった。RSDCはじめ自動車鋼板対応の加工・物流拠点では、EV向けでニーズが広がるアルミパネルの加工体制も整えている。薄板はEV用のバッテリーケース需要、米国南部の伸びる需要への対応がテーマとなっている。厚板はMISAメタル・ファブリケーティングがルイビルでトヨタ自動織機向けなど建機用の鎔断加工を行っている」
――鋼管は。
「マルベニ・イトウチュウ・チューブラーズ・アメリカは、オイルメジャーが集まるヒューストンに本社を置いて、油井管、ラインパイプ、特殊管のマスターディストリビューター機能を担うとともに事業会社の管理・運営を行っている。事業会社は、油井管問屋がスーナー、CTAP、油井管の製造から地中へのランニングサービスをカバーするGBプレミアムOCTGサービシズがある。カナダでは、マルベニ・イトウチュウ・チューブラーズ・カナダがカルガリーに本社を置き、トライマーク・チューブラーズとともに油井管、ラインパイプを扱い、ランニングサービスも行っている。メキシコでは自動車部品メーカー向けの鋼管を販売するマルイチメックスに一部出資する」
――中国の展開は。
「中国の現地法人は上海に本社があり、北京、広州、大連、武漢、香港に営業拠点を持ち、60人体制で9人が駐在する。薄板事業は、武漢、大連、長春、嘉興、上海市松江区、鄭州、広州、重慶の8社での加工・物流網を形成している。アルミの加工も武漢、大連、長春、広州、上海、重慶などで手掛けている。また嘉興では、イタリア・ユーログループとの合弁でラミネーション製品の製造販売も手掛けている。鋼管は大径鋼管メーカーの巨龍鋼管、小径鋼管を製造する嘉興JFE精密鋼管がある。中国鉄路物資との合弁の中鉄伊紅は鋼矢板など土木用建材事業を拡大し、丸紅建材リースと中国現地企業と3社合弁である瑞馬丸建は鋼製山留工法の普及に努めている。世界最大の自動車生産国であり、EVの量産化も先行しており、鋼板、アルミパネルのニーズに合わせて柔軟に対応していく」
――韓国、台湾は。
「韓国の現法はソウルと釜山に拠点があり、15人体制で駐在員は1人、台湾は台北、高雄に拠点を持ち、21人体制で2人が駐在している」
――アジア、太洋州について。
「現地法人はシンガポール、タイ・バンコク、フィリピン・マニラ、マレーシア・クアラルンプール、豪州メルボルン、インドネシアはジャカルタとスラバヤ、ベトナムはハノイとホーチミン、インドはニューデリー、チェンナイ、ムンバイにそれぞれ拠点を構えている。東南アジアは181人体制で25人が駐在、インドは27人体制で3人が駐在、豪州は19人体制で1人が駐在している」
――事業会社は。
「タイ、インドネシア、フィリピン、パキスタンなどでコイルセンター事業を展開。タイ、マレーシア、インドネシア、ベトナムなどで油井管の販売やネジ切り加工などを手掛けている。インドネシアでは、建機用キャビン、トラック部品の製造事業、ベトナムでは建設用鋼材の製造・販売ビジネスに参画。豪州では、厚板の切断加工・販売、鋼管ビジネスを手掛けている。インドは、自動車用のTWB加工、現地のJSWスチールとのコイルセンター、鋼管の製造・販売、無方向性電磁鋼板の切断、モーターコアの製造事業などを展開している」
――インドは成長が見込まれる。
「グジャラートに建設中の加工拠点が稼働するとコイルセンターは6カ所となる。国土が広大で、日本の鉄鋼メーカー、需要家の双方にとってより重要な市場になっていくので、優先順位を見極めながら積極的に経営資源を投入していく」
――欧州・中東・アフリカについて。
「欧州現法はデュッセルドルフ、ロンドン、ナイロビ、ヨハネスブルグの4拠点36人体制で8人が駐在している。MISIの支店はイスタンブールが5人体制で駐在員は1人、モスクワは10人体制で1人が駐在、UAEはアブダビ、ドバイの2拠点22人体制で8人が駐在し、テヘランは6人体制。事業会社は、スペインで油井管のネジ切り加工を手掛け、英国とUAEに鋼管販売会社を置き、UAEでは現地ADQ、JFEスチールと共に大径鋼管メーカーに出資している。欧州の大手鉄鋼ミルとは長い付き合いがあって、調達ソースを活用しながら、中東、サブサハラを含めたトレードを徐々に広げていく」
――英国の建材加工・販売会社を買収した。
「バークレイ・アンド・マシソン(B&M)はグラスゴーに本社を置き、15拠点の販売網で英国全土をカバーしている。1877年創業の老舗で、従業員は約450人。小口顧客を対象に地域に密着したきめ細かなサービスと独自の輸送網やEコマースを活用し、少量多品種のビジネスを展開。大手造船メーカー、洋上風力案件向けの鋼材供給も担っている。米国と同様、先進国でありながら人口が増加し、安定した建材需要が見込める英国で新たなビジネスに参入することができた。法制度など透明性がより高い欧州市場の建材分野での足がかりとして事業エリアの拡大も検討していきたい」
ーーグローバル戦略においては、国内の事業基盤強化も課題となる。
「薄板、電磁鋼板、鋼管、厚板など品種、自動車、建機、建材など分野ごとに持続的成長戦略を推し進めている。伊藤忠丸紅住商テクノスチールももう一段の飛躍を目指す必要がある。事業会社群の再編、企業枠を越えた協業を含めて、あるべき形を見据えて、対策を講じていく。お取引先の皆さまと会話を重ねて、Win-Winにつながる新たな関係を模索していきたい」
――黒田精工との合弁事業は海外への横展開も視野に入ってくる。
「黒田精工、紅忠コイルセンター関東との3社でモーターコア製造の合弁企業を設立することで合意した。国内のEV生産拡大に対応するもので、黒田精工の最先端のモーターコア製造技術とわれわれが持つコイルセンター機能やプレス操業ノウハウを融合し、高品質で高機能なEV駆動用モーターコアを量産する。合弁事業の横展開は国内外を問わず、チャンスを探っていく」
――2022年4-9月期は連結純利益が前年同期比1・8倍の502億円となった。
「エネルギー需要の増加に伴い北米鋼管事業が回復し、米国建材事業も堅調に推移した。国内は販価が上昇したが、海外は軟化に転じ、中国政府のゼロコロナ政策、半導体など部品の供給不足が需要回復の足を引っ張った。急激な円安はトータルでプラスに作用した。売上収益が1兆7900億円となり約5500億円増加し、売上総利益が1300億円で500億円増となり、売上総利益率は7・3%と約0・7ポイント上昇した。販管費の増加を抑制し、営業利益は380億円増の760億円となった」
――国内外のバランス、とくに北米のウェートを。
「これまで純利益に占める海外比率は6-7割で推移してきたが、今上期は8割程度に上昇しており、北米が全体の5割を占める」
――純利益は19年度223億円、20年度174億円で、626億円となった21年度について在庫販売益などの追い風は100億円規模と分析していた。
「今上期も米国鋼管を中心に市況上昇に伴う追い風はそれなりに享受できた」(谷藤 真澄)