――総合素材グループの上期の利益は373億円と前年同期の1・8倍に拡大した。
「22年度はロシアによるウクライナ侵攻や脱炭素過渡期におけるエネルギー不足懸念に端を発したエネルギー・資源価格の高騰、物流・サプライチェーンの混乱、円安進行など事業環境が激変した。新型コロナのワクチンが1年で開発された事例が代表するように、技術の開発スピードが圧倒的に速くなったことを感じる場面も多くあった。総合素材グループが発足して3年経ったが、こうした加速する環境変化を想定し、自らの機能や強みを磨きつつ、世界中のパートナーとともに産業課題の解決や新たな価値創出に取り組んできた。自らの事業の選択・集中や機能強化にも徹底的に取り組んできたこともあり、今年度上期は市況のアップトレンドをしっかりと捉え、利益が前年同期比165億円増加し、21年度の通期利益を上回ることができた。市況上昇と円安の恩恵もあるが、連結ベースで総合素材グループ全関係者が危機感を持って能動的に改革に取り組んだ成果だ」
――何を変えてきたのか。
「課題は『利益の質の向上と新たなコア事業を作る』ことであり、利益の質の向上はこれまでの3年間で実行すると決めた施策を確実に推進したこともあって、市況の高騰や円安の追い風を捉えることができた。機能化学品、炭素材、窯業原料などは計画を上回る利益を上げ、メタルワンも上期に純利益を225億円と前年同期から17%増やし、利益の質も変えてきている。税後利益のみならずROICやROEの経営指標も重要視しているが、3年前に比べこれらの指標が大きく改善した。三菱商事全体の通期最終利益予想は1兆円超だが、市況上昇や円安の効果などの影響を除く実力収益は6500億円レベルであり、この相似系が総合素材グループにもあてはまり、危機感が高まることはあっても満足は全くしていない」
――下期はどうか。
「総合素材グループの通期利益予想は520億円で上期の進捗は70%を超えたが、下期は事業環境が厳しさを増すと想定している。中国はゼロコロナ政策の影響で需要がなかなか戻らず、中国から素材が海外に流れることでアジアの市況を冷やしている。米国などではリセッションが懸念され、各素材の価格も足元では下落が続いていることから下期を保守的にみている。また、ウクライナ紛争でデグローバリゼーションにモメンタムが変わり、サプライチェーンの劇的な変化を想定しておく地合いにある」
――22年度からの新中期経営戦略のテーマは。
「『МC Shared Valueの創出』という強いメッセージを発信した。三菱商事のPBRは1倍以下であり、市場の評価を重く受け止めている。3年前に営業グループを括り直して10グループ体制とした。実態のある『総合力』を持ち、グループ同士が連携して規模感のある共創価値を創出していく。経済価値、社会価値、環境価値の3価値同時実現を目指し、日本経済を支える製造業をサポートしていくことも重要なテーマの一つ。『総合力』に資する機能を磨き、全てのステークホルダーに認めてもらい、市場の評価をコングロマリットプレミアムに変えていく」
「成長戦略としてEX戦略とDX戦略、未来創造を強く打ち出した。総合素材グループは、この戦略に沿ってさらに利益の質を向上し、新たなコア事業を創造していく。産業課題の解決につながる事業に積極的に参画していく。大きな取り組みとして来年4月1日に東洋紡と機能素材分野で新会社を設立し、東洋紡と一体となって変革と成長を進める。東洋紡が培ってきた技術力に三菱商事の海外ネットワーク・経営ノウハウをはじめとする総合力を掛け合わせ、海外市場においても競争力の高い機能素材メーカーを目指していく。経営基盤の強化やコスト構造の改善、調達、成長戦略の推進など多くの点で三菱商事の知見、経験、機能を最大限発揮する。自動車産業や航空機産業に関わるドイツのエンジニアリングサービス会社のFEVグループと10月に折半出資でビヨンド・マテリアルズを設立した。FEVは欧米・日系自動車ОEМに対しエンジン、EV用電池などの基幹部品も含む設計・開発サービスを提供しており、ビヨンド・マテリアルズは素材と最終需要家を結びつける役割を担う。東洋紡やFEVに続くEX、DXに資するプロジェクトも多数進めている」
――メタルワンの新中期戦略での重点課題は。
「機能を発揮できず事業パートナーや取引先に貢献できていない事業、将来性や収益性が見いだせない事業を過去3年で整理し、連結ベースでバランスシートを整え、筋肉質に変えてこられた。国内だけでなく海外においても同様に事業の選択と集中を進めた。メタルワンは競争力のあるリアルの現場を多数持っており、産業接地面や機能を発揮して各事業が『現場での実行力』をさらに強化してより輝く方へと進んでいってもらいたい。機能をどこで発揮できるか、産業課題の解決にどう貢献していくかを追求するという点で三菱商事とメタルワンのベクトルは完全に一致しており、三菱商事にとって最も重要な子会社の一つとして『変革と成長』をテーマに本質的な強さを実現させていく。デジタル技術の活用などメタルワンの機能強化においても株主としてしっかりと支援していく」
――メタルワンに期待することは。
「メタルワンが有するリアルの事業は、三菱商事が中期経営戦略で掲げたEX、DX、未来創造の大きな接点であり、具現化する場となる。鉄の加工や物流は今やデジタルなくして語れないが、DX施策をメタルワンだけで推進するのは限界があるので三菱商事としてサポートを惜しまない。メタルワンの収益力は7合目まで上がってきている。これからさらに上げていくことは難易度が高まるが、事業パートナーや取引先から頼られる会社であり続け、常にわくわくする仕事をしている、そうみてもらえる会社であってほしい」
――投融資の考えを。
「この3年間、身をかがめていたので、今年からの3年間では機能化学品、炭素材、鉄鋼製品などの各分野でダイナミックな投資を考えている。参画する事業ではしっかりと事業経営にコミットしていく。ビヨンド・マテリアルズは重要なツールになる。同社が受けた素材に対する様々な課題を、三菱商事としては新たな事業につなげていくことも検討する。すでに多くの素材メーカーからビヨンド・マテリアルズのサービスに対して問い合わせを受けている」
――事業構造が大きく変わっていく。
「素材のEXは山のようにチャンスがある。東洋紡との合弁会社もモビリティの電化に使用される素材などEXに資する技術、製品を保有している。また、炭素材関連ではリチウムイオン電池の部材の新たな製造技術や電炉で使用される電極、ニードルコークスなどEX関連分野で多くの取り組みを進めている。素材事業が一つのグループにまとまったことで、プラスの複合効果がいろいろと出始めており、さらなる成長を具現化していく」(植木 美知也)