2022年9月21日

安全衛生大会・福岡開催に向けて 竹越徹・中災防理事長に聞く 化学物質規制を議論 緑十字展、出展数過去最高に

中央労働災害防止協会は第81回全国産業安全衛生大会・福岡大会と緑十字展2022を10月19日から3日間、福岡県福岡市で開催する。福岡での開催は12年ぶり。大会のテーマは「太宰府の地 皆で学んで高めよう 安全・健康の知恵」で各種講演会など多くのプログラムを用意し、より広く情報を発信する。大会のポイントやこれまでにない内容・工夫を竹越徹理事長に聞いた。

――労災の発生状況・傾向に関連して大会で訴えるポイントは。

「令和3年の労働災害発生状況によれば、新型コロナ感染症のり患による労働災害を除いても前年比で死亡者数、死傷者数ともに増加した。傾向として高年齢労働者の労働災害の割合が高いこと、転倒や腰痛など作業行動に起因する労働災害の増加に歯止めがかかっていないことが挙げられる。従業員一人ひとりが安全や健康に対する意識を高め、企業は従業員の安全確保・健康維持の取り組みと職場環境の整備が大事。大会では各企業による多くの安全衛生活動の成果が発表される」

「昨年は行動制限もあってできなかった全国各地の労働局や労働基準協会への事前訪問が可能となり、コロナ禍の2年間でうっ屈していた現地開催への期待の声を非常に多くいただいた。コロナ禍の中でも福岡行きを楽しみにしている方を知り、期待に応えたいと強く感じて職員だけでなく地域の方々共々関係者一同、気持ちも新たに入念に準備を進めている大会だと申し上げておきたい」

――今大会のプログラムの内容を。

「初日の総合集会では、生物学者で青山学院大学教授の福岡伸一氏による『生命を捉えなおす』の特別講演を行う。人は1年経てば分子レベルですっかり入れ替わっている。そんな生命の不思議を分かりやすく、面白いエピソードを交えてお話しいただく。2、3日目の分科会は小川昌寛・安川電機代表取締役専務執行役員ロボット事業部長の『ロボット技術の最前線』、久保千春・中村学園大学・短期大学部学長(前九州大学総長)の『ストレスによる心身の反応と対処』、平岡和徳・宇城市教育長・大津高校サッカー部総監督の『年中夢求』、南極越冬料理人の篠原洋一氏による『南極観測隊の安全術を現場に置き換えてみよう』など各界で活躍の方々に講演いただく。多数の企業の研究発表や対談、パネルディスカッションも用意している」

「同時開催の緑十字展2022は安全衛生分野で国内最大のBtoB展示会。今年は190社に及ぶ企業・団体に出展いただく。出展数としては過去最高で、うち約4分の1が新規出展。分野も多様化し、地元九州の企業にも積極的に参加していただいている。アルコール検知器協議会と福岡県、TEAM ZERO FUKUOKAの協力で特別企画展『交通災害を防ぐ!飲酒運転撲滅を目指して』や毎回好評の『安全衛生保護具体験道場』も主催者企画として開催する」

――昨今の状況を踏まえたテーマのプログラムは。

「新型コロナ感染症予防対策の取り組みをテーマにした発表、ファイザーのワクチンメディカルアフェアーズ部長(元国際医療福祉大学教授)の和田耕治氏による『職場における新型コロナウイルス対策』と題した講演がある。和田先生には冬を迎える中での対策や中長期的に感染症に対応できる職場や社会にすることを目指すための方策をわかりやすくお話しいただく。『少子高齢化時代の健康経営を考える』をテーマにシンポジウムを予定し、従業員が心身ともに健康で幸せと感じ、やりがいを持って仕事に取り組める組織のあり方を議論する。新たな化学物質規制の制度導入への動きは今大会で最も訴えたいポイントであり、非常に関心の高いテーマだ。化学物質管理の個別具体的な措置内容を法令で定めた従来の仕組みからラベル表示やSDSなどによる情報提供が義務化され、リスクアセスメントによる事業者の自律的な管理を基軸とする規制へと来年4月から段階的に変わる。厚生労働省による特別報告、産学官のパネルディスカッションで最新情報を得ていただきたい」

――前回東京大会を踏まえた工夫は。

「東京大会はコロナ禍で行う初めての全国大会で、現地開催とライブ配信とオンデマンド配信を併用したハイブリッド形式で開催した。研究発表が同じ時間帯に重なると聴けない従来の課題は解決したが、多くの方からリアルならではの熱気や雰囲気、安全に対する思いが伝わりにくいとの感想をいただいた。福岡大会は課題を踏まえ、現地(リアル)開催を原則としながらオンデマンド配信専用コンテンツを作成した。参加申込の方はオンデマンド配信専用コンテンツとして特別報告を含む28テーマのプログラムを初日から開催後もお手持ちの端末で視聴できる。場所や時間を選ばず視聴できるオンデマンド配信は東京大会でも好評だった。福岡大会では現地とは別のプログラムを配信し、現地で聴けないテーマや研究発表、安全衛生の最新情報をもっと知りたい方が活用できるよう工夫した」

――今大会では社用車のアルコール検知器チェックや農作業の安全にも焦点を当てている。

「千葉県での痛ましい教訓も踏まえて、4月に改正道路交通法により運転手の酒気帯び有無の確認(目視)の対象が緑ナンバーから一定台数の白ナンバーを所有する事業所にも拡大した。今後、アルコール検知器によるで確認が義務化される。この適用は延期となっているが、準備は必要。本会でもアルコール検知器協議会による講演を企画していて、参加者に飲酒運転根絶への意識を高めてもらいたい。農業はこれまで中災防の対象分野ではなかったが、高齢化で労働災害が増えている状況から、垣根を越えて農業分野の従事者の方々への安全についても考えたい。今回、農機具を提供しているメーカーの方に声をかけ、安全性向上の取り組みを特別企画として設けた。さらに農林水産省の吉田剛・生産資材対策室長などの講演を予定している」

――DXなど近年の新しいテーマに基づいた講演・分科会は。

「今年はDX等分科会、ダイバーシティ分科会を開く。DX等分科会は自作のシステムを構築して技能伝承、人によるばらつきや属人化による災害発生の課題を解決した事例、ITツールを活用した作業前ミーティングの実施によって安全感度が向上した事例、QRコードで作業手順が動画で確認できる事例など事業場の様々なDXの取り組みを発表する。ダイバーシティ分科会は聴覚障がい社員の活躍と職場理解を促すためのコミュニケーション改善の取り組み、障がい者への安全配慮のため設備を整備した事例、段差によるつまずきリスクを低減して高年齢労働者、女性にも働きやすい職場づくりを実現した事例を予定している。互いの違いを認め合い、一人一人が能力を十分に発揮できる組織、職場づくりが求められている。今後も新しいテーマを取り上げ、安全衛生の視点から情報発信するので来場者の方には自職場での安全衛生活動に活かしていただきたい」

――第三次産業に焦点を当てている

「第三次産業における労働災害は大幅に増加しており、『転倒』『動作の反動・無理な動作』、いわゆる腰痛を原因とする行動災害が多く占め、小売業や社会福祉施設では行動災害が半数以上を占める。厚生労働省が転倒・腰痛災害等の行動災害への予防への取り組みとして『SAFEコンソーシアム』を立ち上げた。中災防もSAFEアクション推進幹事会のメンバーの一員として国民の安全衛生意識向上の取り組みを推進している。福岡大会では第三次産業分科会を予定している。小売業とビルメンテナンス業からの事例報告を紹介する。また、』新たな視点に立った第三次産業に対する転倒・腰痛予防とは?』と題した東京大学医学部付属病院の松平浩特任教授による講演を催す。産業構造の変化によって第三次産業に従事する労働者の割合は高い状況にある。転倒・腰痛は誰にでも起こりうるものだが、身近な災害ゆえに従来の取り組みだけでは減少に至っていないのが現状。転倒・腰痛問題は待ったなしの状況なので本分科会でも取り上げる」

――来年以降の大会についての構想は。

「全国大会は日本の労働安全衛生の水準を向上させるため、年に一度、安全衛生に関する情報・取り組みを共有する場。コロナ禍で開催した昨年の東京大会、そしてまもなく開催を迎える福岡大会を前に、個人的には多くの方が一堂に会して開催するという方式が一つの岐路に立っているのではないかと思う。先ほど申し上げたダイバーシティ、多様性にもつながるが、知識のインプット、アウトプットも方法は1つではない。従来の枠組みにとらわれず、幅広い可能性をもって次大会の構想を描きたい。様々な変化が起こる中でも、安全衛生に関する新しい取り組みを発信し続けることは中災防の使命だと感じている。来年、2023年は私どもが『全員参加の安全先取り運動』としてスタートしたゼロ災害全員参加運動(ゼロ災運動)が50年を迎える。あらゆる産業の場で労働災害防止活動として今日でも取り入れられている。来年の大会は「ゼロ災運動50年」を1つのサブジェクトとしたい」

――コロナ禍の中でも取り組んでいる近年の協会の活動を。

「2020年はほぼ全ての集合型研修会(現地・リアル)の開催を中止した時期もあったが、現在は感染症対策を徹底しながら定員数を減らしての現地開催を行っている。現地での参加が難しい、都合がつかないなどのお客様にも受講いただけるようオンライン研修の導入も行い好評をいただいている。企業内の安全衛生教育や講演もオンラインを利用しての依頼が増え、事業運営において選択の幅が広がった。さらなるオンライン化への対応としてサブスクリプション方式によって安全衛生に関する動画を見放題で提供する『安全衛生動画配信サービス』事業を10月に本格的にスタートする。デジタル化の進展や働き方改革に伴うテレワークの増加などによって企業の安全衛生教育の実施方法、研修・セミナーの受講方法、安全衛生に関する情報収集方法の多様化が進んでいる。働き方、業種、地域および時間などを問わず視聴できることで安全衛生への関心、意識を皆様に広く持っていただき、中災防の研修・セミナーや各種技術サービスなどを受けてみよう、利用しようというアクションにつなげていただく。私どもが企図するのはそうした、誘い水となる新たなコンテンツだ」

――構想する協会活動や安全衛生大会のテーマ・講演内容など。

「安全行動調査のサービスを活用する企業が増えている。コロナ禍で働き方が変わる中で大きな変化だ。安全行動調査は日常の行動に関する78項目の質問に『はい、いいえ』で答えることによって、その時点でのその人のエラー傾向、パーソナリティーの傾向(性格、行動様式などの傾向)が把握できる。中災防独自の事業で延べ33万人の方に利用いただいている。人のエラー、性格面の傾向を知り、不安全行動を回避するために役立てていただく。ストレスチェック事業と並行して、特に製造業の現場を持つ事業場に安全行動調査による活用を提案していきたい。もう1つ、働き方が変わった中での変化として、中間管理者の方々が個人情報の守秘義務と職場を維持する安全配慮義務の狭間で悩んでいる事例が増えているという話をよく聞く。経営トップ層には中間管理者が抱える苦悩に気づいていただきたい。このような中間管理者向けの研修の場も必要と考えている。労働安全衛生を取り巻く環境の変化により迅速かつ的確に対応し、それらに応える事業・サービスの提供を通じて各業界・企業の安全衛生活動の推進、安全衛生水準の向上を支援する役割を担っていきたい」

(植木 美知也)

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