――社長就任の抱負と決意から。
「社会に貢献し、成長を続ける商社であり、また社会から信頼され、社員が誇りを持てる会社にしたいと考えている。最大の経営資源である社員一人ひとりの成長が会社の成長に繋がる企業風土の確立を目指す。社員の成長によって組織力が向上し、事業基盤強化と成長戦略の二つのエンジンが自律的・継続的に回る時、会社はさらなる成長・発展を遂げると確信している。当面の重点課題が『安全・品質管理・コンプライアンスへの万全の対応』と『中長期経営計画の23年度目標の前倒し達成』であり、並行して日鉄物産の将来像を考えていく。急激で振幅の大きな変化が矢継ぎ早に襲ってくる時代。社会構造や産業構造が大きく変貌していくことも想定し、いかなる環境下でも社会に貢献し、成長を続ける日鉄物産の具体的な姿を描いていきたい」
――経営環境について。
「ロシア・ウクライナ情勢等を背景とした供給制約や、原燃料価格の高騰に伴うインフレの進行、米欧諸国の金融引締め等により、先行きの不透明感が増している。中国・ASEANを中心に鋼材市況が下落し、需要も減退している。日本経済については、円安、ロシア・ウクライナ情勢、中国のゼロコロナ政策等によるサプライチェーンの停滞による影響が引き続き懸念される。実需は底堅く推移しているもののサプライチェーンの混乱、エネルギー・資源価格の高騰、円安による貿易収支の悪化などによって、鉄鋼需要の回復が遅れる可能性もある。ロシア・ウクライナ情勢の長期化、中国経済の停滞なども影響し、下期にかけて鋼材需要が下振れするリスクを懸念している」
――混乱が続く中での経営方針と22年度の重点施策を。
「将来にわたって事業環境の構造的変化を乗り越え、社会的に価値ある製品とサービスの供給を通して社会に貢献する強靭な成長企業を実現するため、『事業基盤強化策の実行による強靭な企業体質の構築』『成長戦略の推進による持続的な利益成長の実現』『ESG 経営の深化』の3つの施策を実行し、2023年度目標の前倒し達成を目指す」
――安全、品質管理、コンプライアンスへの対応にも取り組む。
「いずれも企業運営の土台であり、重大事案が発生すれば、社員の幸せを奪い、取引先や関係者に多大な損失を与え、社会的信用が失墜し、企業存立の危機に直面する。最重要課題として、あらゆるリスクを排除して、活動の質の向上に努めたい」
――22年4-6月期は好業績を維持した。
「中長期経営計画の施策実行効果に加え、鋼材市況の上昇等を背景に連結経常利益は前年同期比1・6倍の161億円となり、四半期ベースでの最高益を記録した。4-9月期については255億円の経常利益を見込んでいる」
――主力の鉄鋼事業本部が牽引した。
「4-6月期の経常利益は前年同期比約1・7倍の139億円だった。連結ベースの鋼材取扱量は約7%減の435万トンにとどまった。単体が前年同期比約10%減の324万トン、子会社は微増の111万トン。単体の鋼材販売価格はトン14万6800円で、1年前と比較すると4万3900円上昇した。4-9月期は234億円の経常利益を見込んでいる」
――21年度は経常利益が478億円となり、最高益を記録した。22年度も増益基調にあるが、通期の手応えは。
「先行きの見通しが不透明であることから、期初の経常利益予想430億円を据え置いた。通期予想を達成することで、21年度に続いて中長期経営計画の23年度目標420億円をクリアしたい」
――21年度にスタートした中長期経営計画の進捗状況を。
「コロナ禍前の19年度の経常利益332億円をベースとし、環境変化によるマイナス要因を想定した上で、事業基盤強化策による90億円、成長戦略による100億円の効果を引き出すことで、23年度までに約90億円の増益を図るのが中長期経営計画である。22年度は事業基盤の強化による効果が70億円、成長戦略実行による効果は100億円まで積み上がってくる見通しである」
――25年度の目標も掲げている。
「事業基盤強化、成長戦略に加え、ESG経営の深化による効果を引き出して経常利益を450億円+αに引き上げる計画。財務面ではネットDEレシオ1・0倍程度、ROIC6%程度、一株当たり利益成長率6%程度、ROE9―10%などの確保を目標に掲げている」
――配当方針は。
「連結配当性向30%以上を目安としている。21年度は連結純利益が354億円、一株当たりの年間配当が350円で、配当性向は31・9%だった。22年度は純利益見通しが300億円で、年間300円の配当を予定しており、配当性向は32・3%となる」
――投融資計画について。
「5年間の事業投資、設備投資計画は750億円。各事業分野において、M&Aを含む戦略投資を積極展開し、流通の効率化を図り、新たな事業を創出していく。加えてDX戦略を推進するため5年間で170億円のシステム投資を実施し、トレーディング業務のデジタル化など基盤を強化し、競争力を引き上げていく」
――主力の鉄鋼事業本部の基本方針を。
「『事業基盤の強化による強固な企業体質の構築』に加え、『新規需要捕捉』『海外事業の深化・拡充に向けたグローバル戦略の推進』『主要ユーザー連携、流通・加工強化とソリューション提供による拡販・収益性向上』『流通効率化や新たな事業創出につながるM&A,アライアンス戦略』『DX戦略』などの成長戦略を実行していく」
――国内、海外戦略は。
「国内はやはり重要なエリアであり、徹底した市場への深耕を進めたい。海外はアジア、北中米等での現地メーカーとの連携を強化し、地産地消が進む現地市場におけるインサイダー化を図っていく」
――産機・インフラ事業本部の戦略は。
「鉄鋼事業本部と連携したマルチマテリアル化の推進、世界的なアルミ需要拡大への対応強化、ヘッドレスト部品事業のグローバル展開拡大、鉄道保線機器、厨房自動化機器輸出の拡大、屋根置き太陽光発電事業の拡大等に力を入れていく」
――日本製鉄グループとの連携強化策を。
「主要需要家対応の強化はもちろん、新規需要捕捉、国内外大型プロジェクトのフォロー、流通・加工分野の強化、グローバル戦略等において、日本製鉄グループの中核商社としての機能を発揮していきたいと考えている」
――中長期の課題と展望について。
「中長期経営計画で掲げた定量目標を確実に達成していくことが最大の課題となる。米中の覇権争い、新型コロナウイルスの周期的な拡大、カーボンニュートラルの本格化、グローバルサプライチェーンの混乱、ウクライナ危機等が複雑に絡み合い、世界の経済活動は大きく変動している。エネルギー価格をはじめとする諸物価が高騰し、為替・金利も急速に動いている。社会構造や産業構造が大きく変貌していくことも想定される。このように大きな変化が続く中でも事業基盤強化策の実行、成長戦略の推進、ESG経営の深化の3つの施策を着実に実行し、『社会に貢献する強靭な成長企業』の実現を目指していく」(谷藤 真澄)
【プロフィール】
▽中村真一(なかむら・しんいち)氏=82年東大法卒、新日本製鉄(現・日本製鉄)入社。09年薄板事業部自動車鋼板営業部長、13年執行役員・建材事業部長、16年常務取締役・薄板事業部長、18年代表取締役副社長。22年6月日鉄物産社長就任。小学4年生から親しむ柔道は3段。東大柔道部では副将を担い、現在は全日本柔道連盟の副会長を務める。好きな言葉は「一期一会」「至誠通天」。休日はウォーキング、読書、スポーツ観戦等で心身をリフレッシュ。家族は妻と一男。59年2月15日生まれ、福岡県出身。