中国のロックダウンやウクライナ問題などサプライチェーンの混乱に伴い、自動車向けを中心にアルミ圧延品の出荷は伸び悩む。2022年のアルミ業界に復調の兆しはみえるのか。5月に就任した水口誠会長(神戸製鋼所副社長)に話を聞いた。
――会長就任にあたっての抱負を。
「コロナ禍が続く中での就任となった。産業界は中国のロックダウンやウクライナ 問題によるサプライチェーンの混乱が続く。アルミ業界でもアルミ地金をはじめ、添加金属のマグネシウムやシリコンの価格が乱高下している。このような環境の中ではあるが、歴史ある日本アルミニウム協会長に就任し、身が引き締まる想いだ」
――協会活動の注力点を。
「「カーボンニュートラルとエネルギー価格の高止まりなど物価上昇に関する課題に取り組みたい。まずは協会が掲げるカーボンニュートラルの実現に向けた長期ビジョン『アルミニウムVISION2050』を前進させる。カーボンニュートラルでは、リサイクルアルミの使用率を高めるという仕組み作りが欠かせない。また、物価上昇については、サプライチェーン全体でコストに見合った適切な配分を行う仕組みづくりに寄与する情報提供を行っていきたい。」
――脱炭素化に向けた取り組みを。
「展伸材のリサイクルアルミの使用率は10%程度に留まっている。長期ビジョンでは、2050年までに展伸材のリサイクルアルミの使用率を50%まで高める目標を掲げている。新地金の使用に比べて、リサイクルアルミを使用すると3%強までCO2排出量を抑えることができる。また、50年に向けて、缶や自動車など展伸材を中心に需要総量も現在の1・5倍の600万トンを目指したい。」
「一方、展伸材のリサイクルは不純物低減や無害化が必要となるため、技術革新が重要だ。協会では、NEDOのアルミ素材に関する高度資源循環システム構築事業に昨年から取り組んでいる。圧延メーカーだけでなく、自動車メーカーや大学などにも参画してもらい、共同研究を進めている。」
――脱炭素化に向けてどのような業界構造が必要か。
「日本のアルミ産業にとって、資源循環の社会基盤構築が欠かせないが、個社で構築することは難しい。NEDOの研究や自動車メーカーの脱炭素化の動向なども取り込み、議論を進めていきたい。」
――UBC(使用済みアルミ缶)について。
「UBCに関して、国内で循環使用することが望ましいが、入札により、買取価格が高い海外に流出している。今後は海外との競争力を高めた上で、利益を出す構造を作る必要がある」
――5月に発表したスクラップ見通しの狙いを。
「単に数値データを追うのではなく、フローの実態を理解し、課題を明確にする。計測できないものは、制御もできない。昨今のDX化でいう“見える化"を進めたい。現在の推定値から今後は実測値に基づいたデータを公表するなど改善が見込める。将来のリサイクルシステムに沿った形で新たなカテゴライズも必要になるだろう」
――1月からの需要動向を振り返って。
「22年1―6月のアルミ圧延品の出荷量は前年同期比0・4%減の94万3000トンとほぼ前年並みだった。ただ、自動車向けが15・9%減と大幅に減少した。半導体不足と部品供給遅延による自動車減産が影響した」
――7月以降の需要環境の見通しを。
「自動車業界の動向次第だが、上期よりは良くなるだろう。ただコロナ禍前の19年の水準に戻るかは不透明だ。世界的にはパソコン向けの半導体不足が改善に向かっており、自動車向けの半導体不足も徐々に解消されるだろう」
「半導体が充足する一方、中国で多く製造される自動車部材の供給遅延は続く可能性がある。圧延品出荷はリチウムイオン電池向け箔も含めて下振れも想定しながら、注意深く市場動向を追う必要がある」
――半導体製造装置向けの見通しを。
「半導体製造装置メーカーへの提供は部品供給に一部遅れが出ていたが、足元では解消に向かっている。半導体製造装置協会も販売額を前年比17%増と予想しており、下期は期待できるだろう」
――為替や原料価格変動の影響とは。
「アルミ地金価格が価格に反映される仕組みは国内のアルミ業界では浸透している。しかしながら、エネルギー価格のほか、マグネシウムやシリコンなど副原料価格が大幅に変動することは過去になかった。協会としても会員各社が持続可能な生産と利益確保ができる施策を議論していきたい」
――適正取引の取り組みとは。
「経産省は昨年『パートナーシップによる価値創造のための転嫁円滑化施策パッケージ』を公表し、価格転嫁への理解の醸成が急務となっている。協会では、昨年9月に自主行動計画を発表し、適切な価格転嫁とその状況の改善に取り組んでいる。適正取引に関する調査も行い、浸透具合も把握した。今後価格転嫁への理解に向けた情報発信を強化していきたい」
――中国製品の日本市場への流入をどうみる。
「産業補助金は由々しき問題と捉えている。経産省は、昨年発表した報告書で中国政府によるアルミ産業への産業補助金についてまとめた。協会では経産省と協力して、特定産業を優遇し市場を歪曲化する政策を是正することを求めていく」
「中国の貿易慣行や産業補助金について、米国、欧州、カナダのアルミ協会とも定期的に情報交換を行っている。各団体とも同じ問題意識を持っており、連名で声明を発表するなど自国政府への働きかけを行っている」
――関税措置などは政府に求めるのか。
「現状では細かい輸入品目が把握できないため、財務省にアルミ製品に関するHSコードの改定を求めている。改定時期は未定だが、材質の違いも分かるようなHSコードの導入を議論している」
――将来的な生産増強をどのように推し進めるのか。
「国際アルミニウム協会は今年3月、アルミ需要が20年の8620万トンから30年には1億1950万トンに増えるというデータを公表した。輸送や建築、包装などがけん引するという。日本アルミニウム協会もアルミ需要総量を50年に現在の1・5倍の600万トンに引き上げる目標を掲げている。自動車向けの板材が増産の一つの要因になるだろう。すでに圧延メーカー各社が自動車向けで最初の生産増強の施策を講じた。今後稼働率は上がるとみている」
――自動車の軽量化に伴うアルミ材の採用は進んでいるのか。
「自動車メーカーで素材を担当する研究開発チームは、軽量化よりも電動化に注力している。コロナ禍の影響もあり生産台数が伸び悩んだほか、研究開発の投資は電動化に向けられている。アルミ化比率は伸びている一方、使用総量は想定を下回っている。ただ、将来的には軽量化ニーズの高まりにより、アルミ材の使用量は増えるだろう」
――今年度の協会事業の3本柱の取り組みを。
「『新規需要の開拓』は工業用の熱交換器向けのアルミ材開発を後押ししている。 21年度にNEDOの先導研究にも採択されており、今後の需要開拓につなげたい。『広報活動の充実』では、SNSを通じて一般消費者向けに情報発信を行い、ツイッターはフォロワーが4000人を超えた。今後も最新情報を定期的に発信していく」
「『人材育成』の取り組みは盛況だ。会員企業の技術者や研究者を対象に、技術の中核となる人材を育成している。昨年度に引き続き、今年度もオンラインで開催する。出張講義も富山大学を中心に行っている。会員企業の技術者や研究者を講師に招き、産業界の生の声を伝えている」
――アルミ圧延業界への技能実習制度の導入について。
「厚労省の専門家会合で議論を重ねてきた。現在、試行試験を進めている。受け入れを想定している企業で試験的に実施している。これまで2回のトライアルを行っており、9月に3回目を予定している。試行試験の結果を踏まえて、専門家会合で審議したのち、早ければ来年度から開始できる可能性もある」
――グリーンアルミの国内業界への浸透とは。
「自動車メーカーはカーボンニュートラルに力を入れており、低炭素アルミ地金に興味を持っている。圧延メーカー各社はグリーンアルミの調達方法を模索している。協会としては、国内のアルミ資源の循環率向上に注力している。今後、グリーンアルミの割増金の上昇も見込まれることから、情報収集など業界に寄与する施策は今後も考えていく」
(増岡 武秀)