日本のものづくりに関わりたいという思いで、鉄鋼業界に飛び込んだ女性がいる。JFEスチール西日本製鉄所工程部倉敷薄板工程室(冷延・表面処理鋼板グループ)の梁平慧(リャン・ピョンヘ)さんだ。大学4年生の時に中国から来日。就職活動時に会社説明会や面接で受けた印象がきっかけで入社した。就活の思い出や業務内容、家庭との両立、今後の目標などを聞いた。
――来日の経緯を。
「私は中国の遼寧省出身で、朝鮮族です。国籍は中国ですが、家族とは朝鮮語を話し、朝鮮学校に通うという生活を送っていました。中学生から第二外国語で日本語を勉強しており、日本を身近に感じていましたね。大学4年生だった2012年9月に交換留学で初来日。推薦で大学院にも進みました。小さい時から話を聞いていたのでギャップはありませんでしたが、街がきれいな国という第一印象を受けましたね。バスが時間通りに来て、乗客がきっちり並んでいるのにも感動しました」
――就職活動は。
「せっかく日本に来て学んだので、日本の物に関わる仕事、特に日本のものづくりに携わりたいなと考えていました。小さい頃から日本製のカセットテープやCD、MDを中国で使っていて、いまだに大切にしているんです。化学メーカーなどさまざまなものづくりの企業に応募する中、会社説明会でJFEスチールに出合いました。人事の女性社員がブースにいて、『鉄鋼で女性って意外!』と思いましたね。応募後、たまたま2次面接の面接官も同じ女性社員の方で。私の伝えたい言葉をきれいな日本語に直して下さり優しい印象を受け、話も合うなと思いました。私の立場に立って物事を考えながら会話して下さり、このような方がいる場所なら楽しく仕事ができそうだと、志望する思いが高まりました」
――入社後は。
「入社時から倉敷で働いています。当時は別の勤務地を第一希望にしていたのですが、いざ入ってみるととても居心地が良くて気に入りました(笑)。生産管理を行う部署にいて、生産計画を立て、進捗管理の担当者が商社と連絡を取り合い、注文をもとに工場を稼働し鉄を生産していく――という流れを日々行っています。私はその中で冷延鋼板の生産計画を担当しています。薄板工程室は約90人おり、冷延・表面処理鋼板グループは18人。その中で生産計画はたった2人でして、冷延、表面処理を1人ずつ分担しています」
――大変なことを。
「設備で物を作る会社なので、トラブルが生じることがしばしばあり、その都度内容も異なります。発生した際には、状況に合わせて生産計画を立てなくてはならず、判断するのがとても大変ですね。うまく対応でき影響を少なくできた時は達成感があります。チームワークで仕事をしているので、他地区の生産状況や最新の販売状況など、さまざまなものを常に把握する必要があります」
――変化の中で成長した。
「昨年7月、ずっと教わっていた冷延の計画担当の先輩が異動されました。今までは何かあればすぐに相談に行っていたのですができなくなり、不安でした。同時期にグループリーダーも他部署から新たな方が来られ、周囲がガラッと変わってさらに不安が大きくなりましたね。私の部署は工場の稼働状況が変わりやすいが故に、生産計画の変更が多く、ラインをどうするべきかなど方向性を示さないといけません。先輩がいなくなっても1人で仕事ができるよう、毎日手探りで仕事をしているうち、『人ってやろうと思えばできるんだ』と感じました。新しいグループリーダーも話しやすくて、不安がだんだん楽しい気持ちへと変わっていきましたね」
――うれしい体験も。
「お客さまと直接会う機会は少ないのですが、生産計画に関わった鉄が日常生活で使われているのを見ると、うれしくてワクワクしますね。鉄自体インパクトが強いし、作られている物もものすごく大きい。ダイナミックな仕事だと実感しています」
――家庭との両立は。
「結婚して夫がおりますが、お互い仕事のために別居しています。いずれ転勤があれば夫に付いて来てもらう予定で、現地で家事と仕事をしてもらおうと思っています。『好きな仕事をしていいよ』と理解を示してくれているので、今の環境のまま出産する機会があれば、産休・育休を取得しつつ、夫にも協力してもらうつもりです。私が仕事を辞めるつもりはないですね。部署内に現在育休中の先輩が2人おり、復帰されたらいろいろお話を聞いてみたいです」
――業界に女性が増えてほしいか。
「女性社員が毎年入社しているので、今のままでいければいいんじゃないかなと思います。鉄鋼業は男性の仕事という先入観を持つ方がいるかもしれませんが、実際働いてみると、そこまで性別に対してこだわりを持つ部署はありません。男女関係なく誰でも一緒に働ける仕事だと知ってもらいたいですね」
――今後の目標を。
「いつか現部署のグループリーダーになって、自分に足りない知識を身に着け、さらにスキルアップしたいです。また工程で学んだ経験を生かし、いつか薄板の国内営業として、自分が担当したあの子(鉄)たちがどんなルートを通ってどんな商品になっているのか、もっと知りたいです。留学などでたくさんお世話になった関西のものづくりにも今後貢献できるとうれしいですね」
(芦田 彩)
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