丸紅の金属本部は鉄鋼原料、非鉄とバランス良く稼ぎ、2021年度は最高益を更新した。22年度は市況の調整を織り込んでいるものの、引き続き高水準の利益を見込む。将来に向けてはチリの銅と豪州の鉄鉱石の拡張を準備し、中長期でより高い収益に向けた基盤を整備するという土屋大介本部長に方針を聞いた。
――21年度の総括を。
「とにかく取りこぼしがない。利益の大きなドライバーは鉱山事業だ。コロナ禍に関わらず各鉱山とも安定操業を維持し、ほぼ予算通りの生産と販売を実現してくれた。トレードも取りこぼしなく全営業部が予算達成と頑張ってくれた。安定操業があってこそ市況の上昇による増益を享受できた。22年予算は一部資源高を反映し1680億円とした。22年度は重要な年だ。大きい拡張が2つ控えている。一つはチリのセンチネラ銅鉱山の拡張案件がある。合弁会社100%ベースで30億ドル(約4000億円)投資して新規鉱区と新しい選鉱設備を新設する。鉱山の処理量を倍増する。もう一つはオーストラリアのロイヒル鉄鉱山だ。鉱区の拡張とインフラの増強をやる。両事業ともに安定したフル操業の実績を上げ、いよいよ拡張に打って出る総決算の年。2案件をドライバーにして収益の底上げを図る」
――21年度と20年度で戦力はほぼ同じ。
「伊藤忠丸紅鉄鋼の増益もかなり大きいが、石炭価格の上昇による増益が一番大きかった。銅事業も増益だが、全社中期計画の戦略のトップに位置するグリーン戦略にも含まれ、銅の将来の需要期待が特に高まっている」
――22年度は減益想定だが市場の想定は。
「本部の中核事業は引き続き堅調と見る。世界の粗鋼生産も昨年度並みはいくだろう。中国ゼロコロナ政策で若干足元はスローダウンしているが、去年も大気汚染問題や北京オリンピックがあり、年度の後半は失速した。今年は共産党大会もあり景気刺激策もあるだろうから後半にかけて増える見方だ。原料炭は堅調なことに加えて、燃料全般の高騰が価格の下支えとなっている側面もある。銅とアルミも中国のEVと再生可能エネルギーが牽引し需要は引き続き堅調だ。上海のロックダウンで一時的に車の生産や販売がスローダウンしたが中長期的に堅調な需要は続くと見ている。チリとペルーで大型の新規鉱山開発があるが、基本的に供給量は頭打ちとなり需給はタイトになる。本部の予算で言うと22年度はセンチネラ銅鉱山の品位の低い年で21年からは下振れするが後半から品位も回復する。銅は採掘場所によって品位が大きく変動する。基本的にはフル操業しており、固定費は一定なので、銅の品位によって生産銅量が変動し、トン当たりのコストも変わる」
――リスク要因は。
「去年の今ごろほどではない。各鉱山ではコロナ対策もしっかりしており、操業も安定している。中国のゼロコロナ政策が本当に実体経済に1年通して影響が出るようならリスク要因となる。ロシア、ウクライナ問題については全社でロシアとの取引は撤収する方針だが、世界のサプライチェーンに影響を及ぼしておりリスク要因だ」
――チリの銅の拡張は近く意思決定する。
「チリも政権交代による不透明感があるので慎重に見極めたい。各セクションの一部EPC(設計・調達・建設)業者の選定を先行して、詳細設計も含めてエンジニアリング作業を深めている。意思決定が若干後ろ倒しになったが、万が一計画が変わっても大きな負担にならないレベルでの詳細設計は先行して詰めている」
――処理ライン1基増設に30億ドルかかる。
「鉱山の採掘重機とか選鉱、剥土も30億ドルに入っている。拡張エリアも、今操業しているエリアからわずか7・5キロと至近で、インフラとかユーティリティーは既存のものを共有できる。リスクは圧倒的に低い。元々砂漠に位置するので環境リスクは低い。海水を利用することで、地下水を使わず、かつ再生可能エネルギー100%電源で操業している。環境負荷とは違うがヒ素等の不純物が少ない、クリーン銅精鉱だ。銅業界の責任ある生産の枠踏みのカッパーマーク認証も取っている。量が増えるだけでなく、そもそもグリーンのトップランナーの銅鉱山の拡張で、サステナブル社会の意義も大きい」
――拡張分の銅が出てくるのはいつか。
「23、24年で2年間建設する。ロイヒル拡張も25年くらいから増産効果が出る。両事業の拡張がフルに収益に寄与してくるのは26年度というイメージだ」
――ロイヒルも年産1億トンとか色々検討中。
「現状年産6000万トン体制だが、出荷能力の最大1億トン規模までの拡張を検討している。拡張の可能性を徹底的に追求する。年度内をめどに詰めていきたい。ロイヒルは生産開始から8年目だ。センチネラ、当時のエスペランサの生産開始が10年。両方とも操業は好調だ。両事業の拡張は片や8年、片や12年間の操業経験の集大成。総括して次のステージに行く」
――本部の利益が増える。
「中期計画で金属本部のみの定量目標は開示していないが、拡張の効果がフルに出る26年度には現状の収益レベルからもう2段くらいの底上げを期待している」
――中期計画でアルミや原料炭などは。
「中期計画では(加アルミ製錬合弁事業)アロエッテの拡張や原料炭の拡張などは算入していない。50年カーボンニュートラルに向けた取り組みも必要だが、対面業界に対する供給責任もある。安定供給は優先順位が高いし、産業が抱える課題にも踏み込んでいく。その1つが最近発表したCCS(炭素の回収・貯留)だ。グレンコアとの実証実験だが、業界の課題解決につながる具体的な行動を進めていく。製鉄の脱炭素という観点では還元鉄もその一つ。かつてベネズエラで還元鉄の合弁事業をやっていた知見を製鉄業界に還元しない手はない。還元鉄も事業として検討していく」
――マグネシウムは。
「軽量化のキーワードだし、当社のカナダのマグネシウムは炭素排出量が圧倒的に低い新時代の製法なので、何とかものにしたい。今コミッショニング中。立ち上げに注力する。まだ第1弾の小規模投資の段階。フェーズ2で大型化した時どう参入するかを今後検討していく。残渣からマグネシウムを回収するのは世界初。エンジニアリングとか機器の最適化などまだ時間がかかる」
――リサイクルほかは。
「グリーン事業は競争が厳しい。我々は素材という切り口を再評価し素材産業グループとして再出発する。脱炭素とかグリーンも消費者あるいは消費活動からニーズが湧き上がってくる。どんな素材を消費者が欲しているのか、ニーズがあるのか。これを一つの軸にする。考え方も変えないといけない。メーカーは消費者のニーズをくみながら製品設計するが、設計する時に色々な素材が必要だ。設計者や購買担当の方はサステナブル社会の脱炭素や環境への貢献、認証取得やブロックチェーンの活用など複雑な要求に対応しなければならない。鉄もアルミも樹脂も紙パッケージもプラスチックも、素材に関するニーズや課題を可能ならまとめて1社で解決してもらいたいというのが需要家のニーズだ。しかも炭素発生量が圧倒的に低く鉱山から生産される素材より環境負荷も小さい再生品を供給してほしいというニーズも大きい。そういうニーズを一緒に考えていく。素材産業グループは金属、化学品、フォレストプロダクツ本部で構成されており、主要な素材はカバーしているのでグループ全体でワンストップで取り組んでいく。炭素量一つとってもサプライチェーンでは鉱山まで遡っていく。サプライチェーンの各段階でスコープ1と2があるが、スコープ3も考慮するなら最終的には鉱山操業から素材供給まで一体になるので、結局一番根本の消費活動のところで何が起こっているのか分かっていないと安心して鉱山操業はやっていられない。対面業界の新しいニーズや経営課題に従来のように鉱山、物流、製造、加工など段階ごとに個別に対応していたらダメだ。消費活動から生じるニーズや課題など重要な情報を押さえながら金属ビジネスのサプライチェーン全体で対応する。段階段階で漏れがないように、全体をカバーできることを目指している」
「リサイクルに話を戻すと、EV関連のリサイクル材は今すぐ出てこないから、リサイクル材の最低使用比率などのルールはこれからできる。メーカーの考えを共有し、一緒に取り組んでいく。今特に注力しているのが、リトリブ社とのリチウムイオン電池(LiB)のリサイクル事業。EVから出る使用済LiBから再びLiBの正極材を製造するのに利用できる品質の硫酸ニッケルや硫酸コバルトを回収して、正極材の再製造を行う仕組みを構築中。当社はザンビアのコバルトの輸入代理店として、日本向けに40年間の取り扱い実績があり、コバルトの知見が十分ある。また、過去10年、電池用の硫酸コバルト、あるいは硫酸ニッケルの取り扱い実績もあり、十分な知見を蓄積している。当社がサプライチェーンの中にいるからこそ参画できる事業だ。構築中というのは、EV廃車が出てきていない。廃車が出てそのLiBを回収してクローズドループに流していく。商業レベルで使える技術的な実証はほぼ準備できている。後はビジネスモデルだ。CCSと似ている。いずれCO2クレジットみたいな価値が出るとみておりそれを前提にビジネスを構築していく。もう欧州ではリサイクル材の最低使用比率を3割とか決めようとしている。そうすると、再生技術にプレミアムが出るかもしれない。いまはバージン材と比べてコストがまかなえるようにという議論をしているが、将来はプラスアルファの価値があるかもしれない」
――22年度くらいに事業化と言っていた。
「サンプル出荷はしている」
――アメリカ以外も欧州でのLiBリサイクルの可能性は。
「米国でLiBを造っているメーカーが1社しかいないが、動き始めたら早い。30年に向けて米国でもLiBの製造は開始される。一方で工場で発生するスクラップは存在するので、しっかり回収して、再生品に戻す取り組みを行っている」(正清 俊夫、田島 義史)