2022年7月8日

神鋼商事 非鉄金属本部長に聞く/専務執行役員 足達 雅人氏/サプライチェーンを再構築

 ――非鉄金属本部長に就任しての心境を。

 「これまで非鉄金属本部が培ってきた業界でのプレゼンスを継承し、その中で成長戦略をどう描くのか。中期経営計画ではマイルストーンも含めて成長戦略や数値目標を明確にしている。コロナ禍やウクライナ問題、中国リスク、急激な円安進行など予測のつかない環境変化があっても、各分野の戦略を着実に実行していくことが大事だと考えている。組織としては、多様性を重視しながらも目標とプロセスはしっかり共有していく旗振りをしていきたい」

 ――今期(2023年3月期)の市場環境をどうみる。

「半導体を中心とする部品調達問題等により、アルミ・伸銅品を含め自動車関連の取扱量は10―15%程度のマイナス影響を想定している。もう一つの主要分野である半導体・液晶製造装置向けのアルミ厚板は依然として好調だ。昨年から様々な部素材の不足が取りざたされる中、潜在リスクをくみ取りながら供給体制を見つめ直す取り組みを始めている」

 ――具体的にはどのような取り組みか。

 「単純な売り買いだけでなく、どの顧客がどんなものを必要としているのかグループ全体で把握するべく、神鋼商事の非鉄金属本部と子会社の神商非鉄、神鋼商事メタルズの3社間での情報共有を緊密にした。半導体・液晶製造装置向けのアルミ厚板は神商非鉄、自動車関連に使われるアルミ板・銅板は神鋼商事が取りまとめ役を担う。銅板は東名阪と静岡の4拠点の営業がこれまで縦割りだったのを、名古屋の部長が全体を取りまとめる形に組織改正した。こうした取り組みにより連携を強めたうえで、素材や加工品、装置の直需販売、素材の店売り(在庫販売)など各社・拠点の特色を生かし、グループのサプライチェーンを構築していくのが狙いだ。顧客満足度を高めてブランド力を押し上げ、国内外での競争力強化につなげたい」

 ――金属価格がこの1年で大きく上昇した。業績面で追い風になっている一方、コスト負担も増すのでは。

 「我々は総資産に占める棚卸資産の割合が非常に大きく、相場高騰はリスク要因だ。原料はヘッジをかけてリスク管理しているのだが、相場が下がれば被る部分は当然ある。金属だけでなく副原料なども高騰しており、あらゆるものの値上がりはボディーブローのように収益へ効いてくる」

 ――現中期経営計画の進捗を聞きたい。

 「前期は非鉄金属本部の経常利益が30億円となり、過去最高益を更新。中計最終年度(24年3月期)の目標にしていた23億円を上回った。今期も25億円を見込む。ただ、前期の数字は市況の上昇などが少なからず寄与しており、抜本的な国内収益の安定化と維持に向けた中計戦略は変わらない。具体的には、国内ではまず神戸製鋼所と協調してアルミ厚板、自動車用のアルミ・銅板ビジネスを先鋭化する。そのためにわれわれは組織力を発揮し、サプライチェーンの再構築にも取り組む。一方で、神戸製鋼所の範疇ではないビジネスを独自に事業化するための投資も推進する。単独の事業投資だけにこだわることなく、出資を含むパートナーシップ強化なども構想している」

 ――海外の投資戦略についてはどうか。

 「海外戦略は、これまでに予定している既存設備の能力アップはほぼ終えつつある。中国のコイルセンター、蘇州神商金属は3基目のレベラーシャーが8月に稼働開始予定。同拠点の年間加工能力は現状の約4万トンから5万トンに高まり、25年あたりまでの需要拡大にはこれで対応できるとみている。中国では機械加工を手掛ける神商精密器材(蘇州)もマシニングセンターを今夏8基に増強する。ベトナムでは、韓国の液晶装置向けアルミ厚板加工事業を横展開したKTNベトナムが、予定より少し遅れているものの11月あたりに立ち上がる予定。アルミ押出のビナワシンアルミは黒字化したが、日系メーカーとしてASEAN市場で特色ある付加価値製品の販売を増やし、自動車や二輪車向けの需要を取り込んでいきたい。25年までにはプレス機を2基に増やし、生産能力を現在の倍以上に高める方針だ」

 ――投資案件は今後も続くのか。

 「非鉄金属本部として現中計期間に50億円の投資予算を設定していた。だがこれまでに決定したのは20億円強で、進捗率は40%にとどまる。国内の事業投資や出資、海外の設備増強を合わせて25年までには50億円を最低ラインに実行していきたい。現時点で具体的な数字としては織り込んでいないが、中国で2つ目のコイルセンター設立や北米の加工事業拡充なども視野に入れている。コロナ禍での今後の経済情勢などもしっかりと見極めて投資判断はしていく」

 ――リサイクル事業にも近年力を入れる。

 「アルミスクラップの破砕選別設備を関東の協力会社に昨年導入し、合金ごとに選別してアルミ板原料として供給する新たな事業が今春立ち上がった。現状は発生元の工場の操業が落ちていることなどから予定していた数量のスクラップが集まっておらず、まずは集荷を増やしたい。また選別するだけでなく、納入効率やユーザーの使い勝手を改善するため溶解を行うことも検討している。今期の投資意思決定を目指す。アルミ板のリサイクル事業は、自動車用アルミパネルの水平リサイクルの需要が増す中国のコイルセンターでも23年をめどに展開していく予定だ」

 ――30年に向けて。

 「30年の目標設定は従来あったのだが、前期の最高益しかり、これだけ環境変化が激しいとあまり先の数値目標は意味が小さい。必要な施策を打っていった延長線上に30年の安定した収益基盤ができるという考え方で、まずは25年のまでの施策を完遂することが重要だ。当社の収益の大部分はこれまで国内事業が占めていたが、海外事業も大きく伸びている。海外利益は14年に1・5億円程度だったのが、現在では10億円くらい出ている。海外を拡大するためにも、ヘッドオフィスとなる国内の収益基盤をしっかり強固にしていきたい」(田島義史、新保貴史、増岡武秀)



 ▽足達雅人(あだち・まさひと)氏=86年同志社大工卒、神鋼商事入社。アルミ製品部長や機能材・原料部長を経て16年執行役員・非鉄金属本部副本部長、19年常務執行役員、22年6月24日付で専務執行役員非鉄金属本部長。入社以来、非鉄金属本部で直需向け営業や用途開発に長く従事し、ユーザーとタッグを組み自動車関連部材のゲーム機への応用や、福祉関連製品のプロデュースなども手掛けた。90年台後半から同社が本格化した海外展開では、中国やベトナムの拠点立ち上げに一から携わった。学生時代はサッカー部に所属し、現在の趣味はランニング。61年12月5日生まれ、高知県出身。

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