――鉄鋼本部長就任の抱負から。
「米国利上げ、ロシア・ウクライナ問題など地政学的リスクの高まり、カーボンニュートラルの進展など世界情勢や経済環境が大きく変化している中、ものづくりやサプライチェーンが大きく変化している。社会構造や経営環境の変化に迅速に対応し、変化を恐れずにいろいろと挑戦していきたい。4月から質の高い経営に変わろうとプライム市場に上場した。第二の創業でいろいろな改革に取り組み、変化の兆しが至るところに表れている。『明日のものづくりを支え、社会貢献する商社』を掲げ、メーカー商社としてものづくりの視点で素材や部品のサプライチェーンを拡充し、新たな価値を創造していく。鉄鋼本部は全社をリードする気概で改革を進める」
――鉄鋼の事業をどう伸ばしていくか。
「エネルギー・原材料価格の高騰を受け、メーカー・流通など各段階で鋼材の値上げに動いている。米国の利上げや為替の動向など市場変動の要素が多く、22年度の鉄鋼セグメント利益は52億円を目指しているが予断を許さない。少子高齢化などで国内市場はいずれ縮小する見込みだが、半導体やEV、環境リサイクルなど伸びる分野を狙い、加工機能の強化でサプライチェーンを拡充する。仕入れソースも多様化する。建設用鋼材を神商鉄鋼販売に一元化し建材ビジネスに力を入れるなど施策を着実に進める。半導体製造装置向けのステンレス鋼管の需要が旺盛で、メーカーが鋼管の能力増強を検討しており、機会を逃すことなく着実に需要を補足していくようにしたい」
――カーボンニュートラル関連もターゲットに。
「再生可能エネルギー関連のビジネスにつながる材料の販売を増やしていく。太陽光発電パネル向けに高耐食めっき鋼板のKOBEMAGの販売が拡大しており、神戸製鋼所の中でも一定のシェアを占めている。引き続き拡販に注力していきたい。洋上風力発電の締結部品に使用される特殊鋼の需要増が見込まれるため、本部内で洋上風力発電のプロジェクトチームを立ち上げており、需要家・鉄鋼メーカーと連携して各種品種で拡販に取り組んでいく。防災・減災関連として景観配慮型防潮堤や耐震ケーブル、日鉄神鋼建材製品では落石防止網などアイテムが充実しており、神商鉄鋼販売が力を入れて販売していく」
――販売力を強化するため昨年に行った組織改正の成果は。
「製品別に組織体制を見直した。線材条鋼と自動車部品、鋼板、チタン・ステンレス、神商鉄鋼販売(建設・土木関連)の5品種に分け、国内と海外の現地法人も一体となって営業戦略を立案し推進していくことにした。組織の横串が通らず、地域ごとに動いているところがあったが、体制見直しからちょうど1年経って製品別の取り組みが強化され、効果が表れ始めている。今まで地域間でそれぞれマークしていた顧客を製品のリーダーが中心になって全体を管理している。線材部の中に自動車部品グループがあり、名古屋と広島に拠点を置いていたが、自動車部品部として独立した組織としたことで個別の採算管理など細かく管理し、収益改善効果が上がっている」
――建材の商売を神商鉄鋼販売に一元化した効果は。
「本社と神商鉄鋼販売がそれぞれ同じお客様に対応していたが、東京・大阪の2拠点ではワンストップソリューションのサービスを提供できるようになった。今後は4つある営業所においてもワンストップ化を進め、さらなるサービス体制の充実を図っていく。今後3―4年は首都圏の大型物件が控えているので楽しみだ」
――鉄鋼の扱い量を中期計画目標の300万トンに向けてどう増やしていくか。
「国内・海外合わせて2019年度の260万トンから20年度に237万トンに減ったが21年度に266万トンに増え、国内約210万トン、海外約60万トンの割合で海外が増えている。22年度は275万トンを計画している。仕入れソースの多様化をテーマとしているが国内で増やすのは難しく、海外で現地材を活用したビジネスが中国で増えており、一定の調達先も確保できている。中国製の薄板と厚板を中国国内のコイルセンターや建設系のファブリケーターに販売している。仕組み作りや取引先との関係作りは進んでおり、需要が増えてくれば販売量も増えるとみている」
――事業投資を進め、北米で線材加工の能力を増やしている。
「GBPは新規のSTC炉と伸線機を年内に据え付け、来年には戦力化する。出荷能力は月1000トン増え9000トンほどとなる。北米の自動車生産が少し落ちているので稼働はやや低いが、自動車生産の回復とともに生産は増える見通しだ。自動車向けに軸受け鋼を加工するAWPは昨年に伸線機を増設し、生産能力を月400トンから600トンへと50%増やし、ほぼフルに近い生産を維持している」
――中国はどうか。
「物流網が途切れ、出資している製造会社の神鋼特殊鋼線(平湖)に母材を運ぶのに苦労した。コロナ前はフル生産だったが、上海の都市封鎖時は材料が上海港に揚げられず、輸送がスムーズにいかなかったが、稼働は続けた。今は需要家も正常化に向かっている。年後半の需要回復を期待するが、政府のコロナ対策と経済対策に関する政策を注視する」
――東南アジアは大きく回復している。
「インドネシアとタイの自動車生産は元のレベルに近づき、当社の現地の事業拠点の稼働率も上がっている。タイではコベルコ・ミルコン・スチールにビレットを納め、コベルコ・ミルコンの線材を現地関連会社のKCHやMKCLに納め、両社のCH用ワイヤー・磨棒製品を部品メーカーに納めている。コベルコ・ミルコンはまだ余力があり、タイ国内の需要家の開拓や近隣国への輸出を視野に入れる」
――欧州市場の開拓を進めている。
「中国の鋼材や中国製部品を欧州に輸出している。欧州の製品をアジアに輸出することを始めている。非鉄についても欧州でチャンスを探っている」
――国内の鋼材関連事業で商社によるМ&Aが増えている。
「2018年にコイルセンターの森本興産を完全子会社化した。鋼材価格上昇を受けて当社に利益貢献できているが、将来にわたり勝ち残っていくためにどうすべきかを議論している。国内・海外含めてМ&Aや出資はあまり行ってこなかったが、これからは積極的に機会を探っていく」
――神戸製鋼の低炭素高炉鋼材「コベナブル・スチール」をどう販売していくか。
「流通として何ができるか議論を進めている。価値をどうお客様に見極めていただくか。神戸製鋼とよく相談しながら、当社としての立ち位置や動き方を決めていきたい」
▽西村悟(にしむら・さとし)氏=1986年大阪市立大文卒、神戸製鋼所入社。14年厚板営業部長、16年執行役員、18年常務執行役員、19年に神鋼商事常務執行役員に就任し、中国支店や米州・欧州地域を担当。22年6月専務執行役員に就任。趣味は音楽。最近、学生時代の仲間とドラム担当としてセッションを楽しむ。62年3月21日生まれ、大阪府出身。(植木 美知也)